2022年5月26日、海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)は、水中光無線通信装置を用いることで、海底に設置した観測システムから、自律型無人探査機(以下、AUV)による観測データの自動回収に成功したことを発表した。

 これまでの海底設置型観測装置では、観測データを得るには装置本体を回収する必要があり、回収と再設置に手間とコストがかかっていた。観測の不連続性によるデータ品質の低下もあった。
 今回成功した海底観測装置からデータをAUVで自動回収する手法は「ハーベスティング」とも呼ばれ、今後、同手法を用いた海底観測により観測コストの低減やデータ品質の向上が期待される。

自律型無人探査機「AUV-NEXT」

 日本の排他的経済水域(EEZ)の深海探査には、多数の自動観測装置が使われている。海水中では一般的な無線通信は使用できないため、観測データを取得するには海底に設置した装置本体を回収するしかなく、船舶で回収して再設置するコストが課題となっていた。
 また、装置を船舶で回収した後に洋上から自由落下させて再設置する方法では、観測場所や設置状況などの観測条件が連続せず、データの質の低下が避けらない。

 これまでJAMSTECの研究グループは、島津製作所らと共同で、水中において光無線通信を可能とする技術開発を行ってきた。今回、その技術を活用し、深海底付近で自律航行が可能なAUVと、水中でWi-Fi接続を確立する水中光無線通信装置を用いることで、海底設置型の観測装置からデータのみを回収する手法(ハーベスティング)を試みた。

 相模湾内の水深1,420mの深海底に、海底設置型観測システム「FFC11K」を設置し、これに向けて「AUV-NEXT」を自律航行にて接近させ、これらに搭載した光通信装置によるデータ回収を実施した。

 回収データは、FFC11K搭載の4Kカメラにより観測した深海底の映像。巡行型のAUVは海底へ接近することが苦手で、低速では運動性能が低下するため、高度と速度を保ったままFFC11Kの上方を通過した。この約10秒の間に、光通信を用いておよそ130KBの深海画像データを複数回収することができた。

 光無線通信の状況はAUVから母船「よこすか」へ音響通信で送信され、オペレーターが常時確認。また一連の作業は、AUVに目標点への接近を指示すること以外すべて自動で行った。

試験場所
大深度用海底設置型観測システム「FFC11K」
データ回収作業の模式図
FFC11Kで撮影し、AUV-NEXTが回収した海底画像例

 深海底観測にこの手法を導入することができれば、海底ケーブルがない海域でも装置を回収せず、任意のタイミングでAUVによる自動データ回収や、同じ場所での継続観測が可能となる。これにより、水圧計等を用いた海底地殻変動観測など、高頻度なデータ回収が望ましい研究分野への貢献が期待できる。

 最終的な目標は、基地岸壁から出航したAUVが海底の多数の観測装置を自動で巡回し、観測データを回収して再び基地に戻る「海底観測の自動化」。今後は通信装置の改修やデータ回収手法の改良を進めることで、より効率の良いデータ回収手法について検討を進め、システムの高度化を目指すとしている。