新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)は「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」でサイバー・フィジカル研究拠点間連携による革新的ドローンAI技術の研究開発プロジェクトに取り組んでいる。
物流分野での実証実験を担当するNEDO、東京大学、イームズロボティクスは、佐川急便の協力のもと、「自律運航AI」を搭載したドローン(AIドローン)を用いて荷物を配送する実証実験を実施したことを、2022年5月18日に発表した。
実証ではドローンに搭載したAIが飛行中に人を検出した場合に自動で一旦停止し、人がいなくなれば自動的に飛行を再開する機能や、地上の人や建物への衝突リスクが低い飛行ルートを自動で生成する機能を確認した。
ドローンは、物流・空撮・保守点検・農林水産分野などにおいて社会実装が進んでおり、政府は2022年をめどに「有人地帯における補助者なし目視外飛行」(レベル4)を実現する目標を掲げている。しかしパイロットの判断で故障や悪天候、電波途絶、飛行物体の接近などのハザードに対応できる通常の航空機と異なり、ドローンはオペレーターが地上から遠隔で監視・操作を行う必要がある。このため、レベル4の実現にはドローンを自律運航できる人工知能(AI)などが求められている。
これを踏まえ、NEDOは2018年度から「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」で東京大学、産業技術総合研究所、イームズロボティクス、日立システムズと「人工知能技術の社会実装に関する研究開発/サイバー・フィジカル研究拠点間連携による革新的ドローンAI技術の研究開発プロジェクト」を推進している。
同プロジェクトでは、必要となるAI技術を3つのフェーズに分け、産学官連携による段階的な研究開発の中で、インフラ点検や警備、物流などの利活用事業者との連携により、概念実証(PoC)と逐次評価を行いながら開発を行っている。
フェーズ I :人・車両など物体を認識する機能により安全を確保する「自律運航AI技術」
フェーズ II :機器故障に起因する異常を検知・判断する「故障診断AI技術」
フェーズ III :機器故障時に環境認識により無人地帯を選択して安全に着陸する「緊急着陸AI技術」
今回、同事業で物流分野の実証実験を担当するNEDO、東京大学、イームズロボティクスは佐川急便の協力のもと、フェーズIの「自律運航AI技術」開発の一環で、「自律運航AI」を搭載したドローン(AIドローン)を用いて荷物配送などを行う実証実験を実施した。
実証ではドローンが飛行中に人を検出した際に自動で一旦停止し、人がいなくなれば自動的に飛行を再開して配送を行う機能などを、物流事業者の実フィールドで検証し、有効性を確認した。
東京大学とイームズロボティクスは、少人数で低コストかつ簡単に運用できるドローン物流の実現を目指し、必要最小限の補助者や監視者(将来的には補助者無し)のみでの運用を可能にしたAIドローンの物流実証実験を、2022年5月11日に実施。
同実証では、イームズロボティクス製ドローン「UAV-E6106FLMP」に自律運航AIを実装したAIドローンを用いて、佐川急便 相馬営業所と柚木公会堂を結ぶ約1.5kmを往復で飛行する実験を行った。
往路では相馬営業所で市の刊行物を模した荷物をドローンに搭載し、柚木公会堂まで約7分間の飛行をしながら、AI機能による人物検知、検知後の機体の自動一旦停止・飛行再開の検証を行った。また復路では荷物を搭載せず、住宅などリスクの高いエリアを回避する飛行ルートを自動生成する機能の検証を行った。飛行制御は、補助者ありで目視外の自動飛行とマニュアル飛行で実施した。
その結果、相馬営業所から柚木公会堂へ向けた荷物輸送(往路)において、ドローンに搭載したAIが飛行中に人を検出した場合に自動で一旦停止し、人が移動していなくなれば自動的に飛行を再開する機能を確認した。
また荷物配送を終えた復路では、AIドローンが地理空間情報から住宅や道路などのリスクの高いエリアを判別することにより、柚木公会堂からの飛行前にリスクの高いエリアを回避する最適なルートを生成したことを確認。その後、AIドローンは飛行ルート通りに相馬営業所まで約7分飛行した。
今後、同プロジェクトにおいてNEDO、東京大学、イームズロボティクスは、佐川急便などの協力のもと、2022年12月をめどに予定されているレベル4実現に向け、同実証実験で得た知見を基に、南相馬市などで飛行実績を蓄積するとともに、安全な飛行技術の研究開発を進めるとしている。これにより、レベル4環境下の物流現場でAIドローンが利用される社会を目指す。