2020年8月21日、INDETAILと宇野牧場は、酪農における乳牛の放牧をドローンとAIで行う「スマート酪農」の実証実験を行うことを発表した。本実証実験を行うにあたり両社は、2020年5月20日付けで共同研究契約を締結している。

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概要

 北海道は気候が良く広大な土地に恵まれており、酪農業にとっては最適な地域である。酪農には大きく分けて「放牧」と「舎飼い」という2つの様式があるが、広い土地を持つ北海道でも「放牧」を取り入れている牛飼養者は半数ほどしかなく、全国的に見れば国内の牛飼養戸数の2割以下まで落ち込む(※1)。

 一方、酪農先進国であるニュージーランドでは、酪農といえば「放牧」が基本である。放牧地の合計面積は約1,300万haにおよび、国土面積のおよそ半数を占めている。くわえて、国の人口が約490万人と少ないため、国内で搾乳される生乳や乳製品の約90%を国外へ輸出しており、その輸出量は単一国としては世界第1位となっている(※2)。

 「放牧」には「舎飼い」とは違い、牛が病気にかかりにくいという良さがあり、生乳の品質は栄養価が高く、草の香りがあり後味が軽やかになるとも言われている。また、低コストや省力化といったメリットもあることから、日本では近年、農林水産省によって放牧が推進されるといった動きもある。

 天塩町で酪農を営む宇野牧場は、創業以来20年以上にわたり放牧での生乳づくりにこだわっている。しかしながら、160haの広大な牧草地で行う放牧には、牧草の管理(生育状況の把握・草刈り)やその日の放牧エリアの区画整理といった大変な管理業務が必要である。365日乳牛管理を行う中で、人手不足による多忙や、後継者不足といった課題もある。

 本実証実験では、それらの課題に対して持続可能な酪農運営の可能性を検証する。

※1 農林水産省「畜産統計(平成30年)」より、肉用・乳用の合算値で算出
※2 Food and Agriculture Organization of the United Nations Food Outlook(November 2019)

主な機能

1. 最良な草地を自動選定

 宇野牧場が持つ160haの放牧地を区画し、ドローンが各区画の牧草を撮影。その撮影データから牧草の生育具合をAIで自動判別し、その日の最良な放牧エリアを選定する。

2. 放牧エリアのゲート自動制御

 各区画の境界線にはリモートで制御可能なゲートが設置されており、AIが放牧エリアを選定したあとは、各ゲートの開閉によりその日の放牧エリアを自動形成する。

構築基盤にオラクルクラウド

 これらのサービス基盤として「Oracle Cloud Infrastructure」を選定した。INDETAILではこれまでも、北海道厚沢部町で行った「ISOU Project」や宿泊施設向け多言語対応スマートチェックインサービス「maneKEY」の検証基盤として「Oracle Cloud Infrastructure」を採用した実績があり、使い慣れた環境でシンプルな環境構築を行うことができることから、実証実験までの早期開発が可能になる。

 また今後のサービス拡大に向け、高速かつ効率的な運用管理が可能な「Oracle Autonomous Database Cloud」の活用も視野に入れており、コンテナ化されたアプリケーションの統合管理、AIのためのデータサイエンス基盤などへの将来的な拡張性と親和性も高く評価しているという。

期待される効果

1. 時間短縮・人件費の削減

 放牧エリアの選定は、酪農において最も重要な作業のひとつと言える。現状では、放牧地の選定を含む放牧作業は人力で行っているが、ここにドローンやAIを導入することで、乳牛の日ごとの食育量の管理や、刈り取りに必要な草量や肥料の適正量が迅速に把握できることから、それらにかかる人件費の最適化を果たすことができると予想される。

2. 牧草地の利用効率の向上

 広大な牧草地でもドローンによって生育状況を把握できるため、人間の目では困難だった高い網羅性でその日の放牧エリアをスピーディに選定できる。牧草地全体を余すことなくフィールドととらえることで、牧草地の利用効率を最大限に高めることが期待される。

3. 牛の健康維持

 放牧する乳牛に対して提供する草が多すぎてしまうと、食べ残された牧草を刈り取る手間が発生してしまうが、逆に少なすぎる場合には、乳牛の搾乳量を最大限に引き出すことができなくなり、最悪な場合、乳牛の病気につながることもある。高性能カメラによって集められる詳細なデータから、適正な牧草量を提供することは乳牛の健康維持にも貢献すると考えられる。

4. スタッフの安全

 宇野牧場では放牧地を移動する際にバギーを利用するが、ほぼ自然の地形を活かした放牧用地ではバギーの激しい揺れや横転による事故リスクがある。さらに敷地内には電気柵が点在しており、この柵への誤接触も絶えない。人に代わりドローンがフィールド内を選定することで、スタッフはこれらの事故リスクがなくなり、より安全な環境で酪農運営に携わることができる。

5. ビッグデータの活用

 ドローンで撮影された画像や動画をビッグデータとして蓄積し、フィールドの状態を長期的な視野で分析可能とすることで、これまでよりも安定した牧場経営の実現を図ることが可能となる。

今後の展開と将来への展望

 2020年7月よりドローンによる空撮などで現地調査を行い、2020年9月下旬~10月上旬ごろよりスマート酪農の実証実験を開始する予定である。

 また、両者は放牧酪農が持つ潜在能力を高く評価しており、放牧による安全安心な生乳の国内比率を高めていくことを目的に、将来的には農業法人を立ち上げ、放牧酪農への新規参入も図っていく。

 搾乳の自動化はすでに多くの酪農家が取り組んでいるが、牧草の管理においては未だ自動化が進んでおらず、その指標となる考え方や管理基準なども統一化されていないことから、今回の実証実験の意義は大きいと考えているという。

 北海道での乳業は、増産意欲は高いものの運営コスト増や後継者不足といった課題もある。先進技術を取り入れたスマート酪農の基盤を作ることで、安定した事業継続の実現を図るとともに、職業としての酪農の魅力を向上させ、次世代の担い手に夢や希望を与えられるような事業の創出に向けてより一層力を入れていく、としている。