横浜市水道局とNTTコミュニケーションズ、酉島製作所、コネクシオは、2024年夏から実施している、ドローン等を活用した配水ポンプ場の遠隔巡視の取り組みを、同年11月19日に、横浜市保土ヶ谷区の仏向ポンプ場にて報道関係者に公開した。

水道局職員による現地点検の負担を遠隔ドローンで軽減

 神奈川県横浜市は横浜港を中心とした港湾都市として知られている。しかし、横浜駅周辺を除いてそのほとんどが起伏の多い丘陵地帯となっており、上水道は多くの地域でポンプによって配水が行われている。このポンプが故障すると大規模な断水につながることもあり、ポンプ設備の機能を維持するために、市内に23か所あるポンプ場で水道局職員による巡視・点検が行われている。

 作業はポンプの外観を目視して水漏れなどを確認するほか、ポンプに取り付けられた計器の指示値を確認、さらに聴診棒を使ってポンプの振動を確認。異常な振動を確認した場合は、ポンプの軸受け部などにグリスアップ(給油)を行う。こうした巡視・点検はポンプ場1か所につき、1か月に1回、職員4人程度が1日かけて作業している。

 点検を行う職員は、拠点となる浄水場から移動するため、ポンプ場によっては往復最大2時間がかかる。また、点検作業は職員が視覚や聴覚、触覚といった五感を使って確認し、異常の有無を判断するという暗黙知に依存しており、今後、多くのベテラン職員の退職が控えている中では、技術の継承が大きな課題となっているという。

写真:仏向ポンプ場の様子
神奈川県横浜市保土ヶ谷区にある仏向配水池にあるポンプ場。5台のポンプが設置され、保土ヶ谷区と旭区の一部、約3万1500戸に給水している。
写真:職員がポンプの計器の数値を指差し確認する様子
写真:職員がポンプを点検する様子
写真:職員が聴診棒をポンプに当てる様子
ポンプをはじめとした設備の点検は、目視のほか聴診棒による聴診など、職員の五感を使って異常を判断している。
写真:点検員がグリスを注入する様子
振動が多くなってきた場合には、ポンプの軸受けなどにグリスを注入する。

 そこで水道局ではICTを活用した効率的かつ持続的な維持管理方法を確立するとして、今年度からドローンとセンサーを活用した配水ポンプ場の遠隔巡視をテーマに、仏向ポンプ場で実証実験を行っている。ドローンが撮影した映像をもとにポンプの漏水や漏油の有無を確認するのと、ポンプに取り付けたIoTセンサーを使ってポンプの振動や温度を確認するというもの。いずれもドローンやIoTセンサーが得たデータは、インターネット経由で浄水場の執務室で確認できる。

 ドローンによる遠隔巡視は、NTTコミュニケーションズが提供するSkydio 2+とSkydio Dockを使用。ポンプ場内に設置されたSkydio Dockから離陸したSkydio 2+が、ポンプ周囲をあらかじめ決められたルートに沿って飛行し、ポンプ本体や配管、計器を撮影し、そのデータをリアルタイムでクラウド上にアップロードするというもの。

写真:ポンプ場に設置されたSkydio Dock
ポンプ場の一角に設置されたSkydio Dock。
写真:ポンプの軸受け上部に取り付けられた白い立方体のセンサーと、筒状のセンサー
ポンプの軸受け部に設置されたIoTセンサー。
写真:ポンプ場内に設置されたメッシュWi-Fiルーター
Skydioと通信を行うPicoCELAのメッシュWi-Fiルーターを、この日はポンプ場内に2機設置。
ポンプが写る写真に記された飛行ルート(資料)
この日のSkydio 2+の飛行ルート。(出所:横浜市水道局)

安定した自動飛行で複数の点検箇所を確実に記録

 この日、報道関係者に公開された実証実験では、仏向ポンプ場に5台あるポンプのうち、2号機と呼ばれるポンプに対して、ドローンの飛行による巡視点検のデモンストレーションが行われた。ポンプ場の一角に設置されたSkydio Dockから離陸したSkydio 2+は、ポンプのモーターの軸受け部や圧力、流量などの計器、バルブといった、あらかじめ決められた点検箇所のそばに来ると、その都度ホバリングして写真を撮影。この日は10か所余りのポイントを撮影し、数分でSkydio Dockに戻った。

 Skydioはポンプ場の建屋内に設置したメッシュWi-FiであるPicoCELAのルーターからStarlink Businessを介してインターネットに接続されており、同機が撮影した映像はクラウドにアップロードされる。この日は水道局の執務室を模した形で、報道関係者の前に置かれたPCの画面上にリアルタイムで表示された。

写真:ポンプの付近を飛行するドローン
写真:計器を撮影するドローン
ポンプなどに取り付けられた計器を撮影するSkydio 2+。
写真:ポンプを撮影するドローン
ポンプ本体の各部を撮影して水漏れや油漏れがないかを確認する。
写真:PCのモニターに表示された、クラウドにアップロードされたデータ(サムネイル)
写真:PCのモニターに表示された、クラウドにアップロードされたデータ(計器部分の撮影画像)
Skydio 2+が撮影した写真は、逐一クラウドにアップロードされて、すぐに確認することができる。

 こうした横浜市水道局の取り組みは、センサーによる遠隔巡視が7月頃から、ドローンによる遠隔巡視が8月頃から始められていて、ドローンについては12月、センサーについては2025年3月に実証実験の結果を取りまとめる予定となっている。現段階では1か月に1回のペースで、その都度Skydio Dockを設置してドローンを巡回飛行させ、障害物回避やバッテリー残量が低下した時の挙動の確認、そして撮影した画像から異常を判断できるか、といったことを評価する段階であり、その結果はまだ出ていないという。また、今後はポンプやパイプの下にもコースを設定するといったことも検討している。

 一方、センサーによる遠隔巡視は、10,000Hz付近の周波数の振動値が高くなるとメールの通知が行われ、その通知に従って職員がポンプ場に赴き、ポンプのグリスアップをしたところ、振動が改善したことから有効性があるとしており、今後はセンサーによる解析を職員の五感による確認とすり合わせていくとしている。

 こうしたドローンやセンサーを使った遠隔巡視の導入により、移動時間を含めた現地での作業時間を短縮できるとしている。また、横浜市水道局では西谷浄水場の再生事業に取り組んでおり、こうしたポンプ場の巡視・点検を遠隔点検に置き換えて省力化を図ることができれば、二十数名の設備職を再生事業に従事させることができるという。

 横浜市水道局では2024年度の取り組みで有効性が確認できた場合、2025~2027年度にかけて、1年に1か所のペースでポンプ場にドローンとセンサーを導入していく。この3年間の運用状況を踏まえて、2028年度以降、すべての配水ポンプ場に順次導入を進めるとしている。

日にち、周波数、振動値を表したグラフ
IoTセンサーが計測した振動値の変化から劣化兆候を確認し、ポンプにグリスアップを行ったところ振動が収束した。(出所:横浜市水道局)
飛行中のSkydio 2+のカメラが撮影した映像。
ポンプのある建屋内を飛行するSkydio 2+。