2025年5月9日、海上保安庁は、小笠原諸島父島北西沖の金曜海山で自律型潜水調査機器(以下、AUV)による精密海底地形調査を実施し、溶岩流の痕跡を発見したと発表した。

 同庁は、2025年2月21日・28日に小笠原諸島父島の北西沖約180kmの金曜海山において、海域火山基礎情報調査の一環として、測量船「拓洋」およびAUV「ごんどう」を用いた海底地形調査を実施した。

 測量船拓洋による海底地形調査の結果、金曜海山を形成している北東峰と南西峰の2つの峰のうち、北東峰の火口とみられる地形は不明瞭である一方、南西峰の火口は明瞭であったことから、南西峰の火山活動は北東峰に比べて新しいと考えられる。

海底地形の平面図
今回の調査で明らかになった金曜海山の海底地形(平面図)

 また、AUVごんどうによる精密海底地形調査の結果、南西峰の山頂部(水深661m)の北側斜面部で溶岩流の痕跡を発見した。溶岩流は水深約1500mの斜面から流れ出し、長さ約3km、幅は最大約400m、厚さは最大約80mに達するものであった。

AUV「ごんどう」の調査範囲
金曜海山の溶岩流地形の平面図
金曜海山の溶岩流地形の鳥瞰図(北から俯瞰、鉛直方向を2倍に誇張)

 これらのことから、金曜海山の山頂部では火口を形成する爆発的な噴火が、斜面部では溶岩流を伴う比較的穏やかな噴火が起きたことが判明した。

 今回の調査を含め、海底火山の地形調査結果は、噴火の形態や規模などを評価するための基礎資料として活用される。

自律型潜水調査機器(AUV)「ごんどう」

 AUVは、プログラムされた経路を自動で潜航して調査を行う。海底近傍まで潜航して調査することで、詳細な海底のデータを収集することができる。

写真:「ごんどう」を船から海に投入する様子
自律型潜水調査機器(AUV)「ごんどう」

【要目】

全長4.8m
重量810kg
観測機器マルチビーム音響測深機、サイドスキャンソナー、サブボトムプロファイラー、流向流速プロファイラー(ADCP)、塩分・水温・水深計(CTD)等
AUVの運用イメージ図

【測量船とAUVによる取得データ比較】 (金曜海山の溶岩流地形)

測量船による調査イメージ
AUVによる調査イメージ
左:測量船による調査は、水深が深いところでは微細な海底地形を検出することができない
右:AUVによる調査では、水深が深いところでも海底に近づくことで微細な海底地形を検出できる
測量船「拓洋」で取得した海底地形、ぼやけている
AUV「ごんどう」で取得した鮮明な海底地形
左:測量船「拓洋」、右:AUV「ごんどう」

金曜海山

 1989年に海上保安庁が実施した地形調査により、金曜海山は火口を有する2つの峰(北東峰、南西峰)から成ることが知られていた。1994年にそれぞれの山頂部付近で比較的新しい火山岩(安山岩)が採取された記録があるものの、火山活動の詳細はよく分かっていない。

金曜海山の海底地形図
1989年の調査で得られた金曜海山の海底地形図(長岡ほか 1991, 水路部研究報告)