テラ・ラボは、長距離無人航空機を活用した災害情報支援システムの研究開発を行うディープテックベンチャーだ。高範囲、高精度、高速に3次元データを取得できるシステムの開発と運用を行い、災害時だけではなく、平時のインフラ点検におけるDXも目指しているという。
例年、Japan Drone展では、全幅8mという大型の固定翼機や、テレビ中継車を転用して開発した車両管制システムなどを展示して注目を集めてきたが、今回は従来機をベースに開発した滑走路不要なVTOLタイプの新型モデル「TERRA Dolphin VTOL」を初お披露目ということで、連日多くの来場者がスマホで機体を撮影したり説明員と談話する姿が見られた。
テラ・ラボが開発してきた固定翼機TERRA Dolphinは、災害時に長時間飛行して広範にデータ取得することを主眼に置き、もともと多目的対応の「マルチパーパスプラットフォーム」として開発されてきた。具体的には、例えばジェットエンジンやレシプロエンジンなどのさまざまな推進装置に変更できる特殊仕様で、観測装置も用途に合わせてさまざま搭載でき、2.4GHzと衛星通信に対応している。
今回、新たに登場したTERRA Dolphin VTOLは、「長距離高速飛行」という従来の利点を失うことなく、「マルチパーパスプラットフォーム」の思想を受け継ぎ、なおかつ滑走路不要な垂直離着陸が可能となった新型機種だ。
後方ローターの動力源にモーターではなく電子制御燃料噴射装置が搭載された固定翼UAV用エンジンを採用したが、用途に合わせて電動への変更も可能だという。また、機体上部4か所にローターを装備してVTOL化したが、このVTOLシステムを取り外して通常の固定翼機として運用することも想定内だという。
「航続時間10時間・航続距離1,000km」を実現したという点も画期的だ。会場の説明員によると、「環境条件にもよるが、うまくいけば航続距離2,000kmの飛行能力がある」そうで、松浦氏も「VTOL型で航続距離1,000kmが可能な機体は、世界でもほとんどないはずだ」と自信を滲ませる。
また、それでいて“スピードコントロール”にも長けているという。例えば、発災時に現場までは最大速度250km/hの高速で駆けつけ、情報収集時は最低速度70km/hでゆっくり飛ぶことも可能だ。
松浦氏は、ブース内プレゼンで「実際の災害時に滑走路を探していては、とてもフライトが間に合わない」と従来の課題を指摘しつつ、今年2月に静岡県富士川近辺で行ったTERRA Dolphin VTOLの飛行検証でも安定飛行できたと報告した。加えて、災害時のデータ活用についてもこのように説明した。
「災害情報の中で最も重要なのは、現況図をいかにタイムリーに更新していくか。災害前に地形情報をきちんと精緻に取っておく、災害後の地形情報を更新し続ける、そこに河川や道路、線路、住宅のデータを重ね合わせ、最後に災害情報をリアルタイムに更新していく、とデータを取得する順番が非常に重要だ。さらに、ブラウザで閲覧できるようにすることで、誰でもどこからでも情報にアクセスできる」(松浦氏)
また松浦氏は、本誌ドローンジャーナルの独自インタビューで「民生技術の防衛への転用」についてもコメントした。
「海の上で長時間飛ばして情報収集できる、安定して情報収集するためにゆっくり飛ばせて、目的地に行く時は速く飛ばすという、TERRA Dolphinの触れ幅の広さが、実は防衛のニーズとも近しいところにあった。災害対策システムで得られた知見は、さまざまな危機対応にも使えると感じている」(松浦氏)
なお、国内での機体認証は未定とのこと。仕様を固めてしまう前に、もうしばらくは新規顧客や用途開発が優先される模様だ。
また「南海トラフ地震が発生した場合に、割と広範囲に津波が押し寄せてくるという被害予測が立っている」とも言及。実装化に向けた「愛知モデル」の策定も急ぐという。「本当の災害時に使えるものであってほしい」という松浦氏の力強い言葉はとても印象的だった。