2025年開催の大阪・関西万博では、空飛ぶクルマの運用が話題になっているが、実は海のモビリティに関する最新テクノロジーの公開も進められている。大阪・咲洲にある複合商業施設ATCで4月13日から4日間開催されたプレ万博イベント「ATC OSAKA MIRAI EXPO 2023」では、自律航行船の実証実験が行われ、空飛ぶ船のアイデアも登場した。

小型船を自動運転に変えるプラットフォームを開発

 ロボティクスとAIを使って小型船向けの自律航行プラットフォーム「エイトノット AI CAPTAIN」を開発するエイトノットは、万博開催に向けて大阪ベイエリアの活性化に取り組んでいる。4月14日には大阪湾初の自律航行船の実証実験が行われ、サイクルシップ(自転車を積載可能な旅客船)としての利用が検証された。

自律航行は船の分野でもはじまっている。

 実証実験で使用された自律航行船は、小型のレジャーボートにカメラやLiDAR、GPSなどを搭載しており、自動操船アシスト機能を備えている。AIが目的地までの適切なルートを設定し、離岸から着岸までのすべてを自動化したものだ。現在のルールでは船舶免許を持つ運転士の同乗が必要だが、将来的にはボタン一つで目的地まで自動で航行できるようになり、運転士の同乗が不要になる可能性もある。

 当日は天候不順のためサイクルツーリズムとしての検証はキャンセルされたが、操船に関しては強風の中でも問題なくできることが証明された。

既製のレジャーボートにシステムを後付けして自律航行を可能にしている。(提供:株式会社エイトノット)

海の事故を減らし、経済圏として活性化させる

 障害物が少なく広い海での自律航行は、ドローンや自動車に比べて簡単に思えるが、天候や他船との衝突に注意しなければならず、さらには引き波を計算しながら操船する必要もある。特に着岸は難しく手動でも事故が生じやすい。そこで船を真横に移動させるという自動化ならではの方法を実現し、安全と効率性の両方を確立している。

真横に着岸する操船システムはルートの無駄がなく安全性も確保できる。

 エイトノットの共同創業者で代表取締役CEOを務める木村裕人氏は「当社の立ち位置は自動運転車の領域で例えるとティアフォー社に近く、20トン未満の小型船にお客さまのニーズにあわせた自動操船システムをカスタマイズできる」と説明する。1から自律航行型船舶を開発するのではなく、すでに船を持っているオーナーや企業に自律航行技術を提供することで、海を起点とした経済活動を盛り上げようとしている。

株式会社エイトノット 共同創業者兼代表取締役CEOの木村裕人氏。

 「この先、無人で自動航行できるようになれば、運転士の人手不足も解消され、海上タクシーや離島の送迎、観光などさまざまな用途で船のオンデマンド利用が可能になる。台数が増えれば製造コストも下げられ、今はまだ少ないがEV船にも対応できるので、ゼロエミッションにも貢献できる」(木村氏)と話す。

時速300km以上で”海の上を飛ぶ”船が登場

 万博では自律航行型船舶のほか、空飛ぶ船が海の次世代モビリティとして登場するかもしれない。正式には表面効果翼船(WISES=Wing In Surface Effect Ship)と呼ばれ、世界で複数のスタートアップが開発に取り組んでいる。

 万博での運用を目指して、大阪府と神戸市がスイスのスタートアップ2社(MobyFly社、Almatech社)とそれぞれ契約を結んだことが発表されているが、国内でも開発の動きがはじまっている。

 次世代モビリティの衝突回避自動管制技術を開発しているファーロスターは、自動管制システムを活用することでパイロットを不要にした空飛ぶ船を熊本高等専門学校と共同研究している。今年2月に試験機での初フライトを実施したが、残念ながら現時点ではまだ詳細は発表できないとのことで、展示会場では試験機のスケッチなどの情報が紹介されていた。

ブースで公開されていた空飛ぶ船のスケッチ。

 見た目は空飛ぶクルマにやや似ているが、海上で離着水できることが特徴の一つになっている。海面から1〜5メートルの高さを時速300km以上で航行し、実現すれば東京から宮崎までを約4時間で移動できるという。用途としては人の移動よりも陸上交通の代替として注目されており、ファーロスターではそうしたニーズにあわせて開発中の、荷物を自動で運ぶ四足歩行ロボットのプロトタイプも展示していた。

自動運搬ロボットのプロトタイプ。

 海を活用するためには、航行の妨げや景観を損なうといった影響を及ぼす海のゴミの清掃も行わなければならず、そこでも自動化の技術が開発されている。会場では、フランスの海洋ドローン開発ベンチャーIADYS社が開発する廃棄物収集用マリーンドローンの実機展示と航行デモが行われていた。目が届かない水中のゴミや細かなマイクロプラスチックも回収可能で、水質や環境調査にも使用されている。

廃棄物収集用マリーンドローンはデモも披露された。

 イベントでは陸や空と同様に、海のモビリティやそれらを取り巻く技術が万博を機に実用化が一気に進もうとしていることがわかる。海に囲まれた日本では大きなビジネスチャンスに成長することが期待されるだけに、これからの動きにも注目していきたいところだ。

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