申請手続きのプロセスとポイント、運航設計と実務の要点

 休憩を挟んでセッション3は、ACSLの伊藤氏が申請手続きのプロセスとポイントについて説明した。またセッション4では、ACSLの伊藤氏がモデレーターをつとめ、奥多摩でのレベル4飛行で運航責任者兼操縦者をつとめた株式会社ドローンオペレーション出口氏が、「運航設計と実務の要点」と題したディスカッションに登壇した。

申請手続きのプロセスとポイント

 伊藤氏は冒頭、「しっかりお話したいと思って事前に試したら4時間かかった。今日はそれを30分に凝縮している」と前置きしたうえでスタートした。

 このセッションで最も重要な観点は、「レベル4飛行を含むカテゴリーⅢ飛行は、機体認証と技能証明を取得するだけではできない。それはなぜか」ということだという。

 最初に押さえておくべきは、申請窓口はレベル3とは異なることだ。地方航空局ではなく、国土交通省無人航空機安全課が審査を行う。そして、レベル4飛行の許可承認プロセスにおいては、2つのポイントを押さえておく必要がある。1つは、「初期操作と整備訓練」。もう1つは、「飛行マニュアルの作成」だ。

レベル4飛行を含むカテゴリーⅢの実施の条件
レベル4飛行における調整先機関

 初期操作と整備訓練については、従来のように操縦者が有する技能や実施する訓練の内容を飛行マニュアルに記載するだけでは不十分で、レベル4では「マニュアルに記載されている訓練の内容がしっかりと履行されており、操縦者がその能力を有しているということを証明」したうえで、申請しなければならない。

 飛行マニュアルの作成については、レベル4では「リスク評価を行った上で、十分な安全確保措置を反映させた飛行マニュアルを作成すること」が求められているがゆえに、「運航設計書(CONOPS)」と「リスクアセスメントの結果」を、飛行マニュアルとあわせ3点ワンセットにして提出しなければならない。

レベル4飛行の許可承認申請プロセス

 つまり、申請において従来と最も異なり新たに必須となるのは、「機体のCONOPSに対応する運航のCONOPS(運航概念計画)を定義し、それにもとづいてリスクアセスメントを行ったうえで、飛行マニュアルを作成しなくてはならない」という点だ。

 伊藤氏は、「要するに重要なのは、機体のCONOPSと運航のCONOPSが合致する前提で、オペレーションを考えていく必要があるという点だ」と整理したうえで、まずは「運航CONOPS」の策定の具体的なポイントの解説に移った。

レベル4飛行の許可承認申請に必要となる項目

 運航CONOPSは、大きくは2つの項目から成る。1つは「運航体制を確認するための情報」で、もう1つは「使用する機体の情報」だ。後者は、メーカーから取得する情報があれば網羅できるため、結局のところ申請において問題になるのは前者だという。

 そして、その運航体制構築において大事な点は、組織体制や、運航、訓練などいくつかの項目があるが、なかでも「組織体制をしっかり作って、組織における役割分担を明確にし、組織として安全を確保できる前提に立つこと」が、最重要事項として求められるという。ちなみに、前述の福島ロボットテストフィールドが作成したガイドラインを参照することが、国交省からは推奨されているそうだ。

組織体制イメージ

 このようにして「運航CONOPS」の定義ができたら、次は「リスク評価(リスクアセスメント)」だ。大きくは、「地上リスク」と「空中リスク」という2つのリスク度合いをそれぞれスコアリングして、その合計から全体としてのリスクスコアである「SAIL(セイル)」を導き出す。

 地上リスクをスコアリングする際には、リスク軽減策を講ずることで、リスクをどの程度減らせるかの検証が求められる。また、空中リスクのスコアリングでも、運航前に講ずることができる戦略的対策と、運航中の有事の際に講ずるべき戦術的対策をあらかじめ設定しておくことで、リスクをどの程度減らせるのか検証が求められる。伊藤氏は、奥多摩の事例におけるリスク評価のやり方も紹介していた。

リスク評価(リスクアセスメント)実施のポイント

 このようにして地上リスクと空中リスクのスコアが導き出されたら、SAILを決定し、SAILのレベルごとに異なる安全目標(OSO)と、それに対してどのような安全措置を講ずるべきかというロバスト性を決定、さらなる充足を確認していく。

 ロバスト性の充足においては、「安全性の水準」と「保証の水準」という2項目を定める。安全性の水準とは、対応しようとする対策によってどの程度の安全性が担保できるのかという安全のレベル。保証の水準とは、安全性の水準として定めた内容をどの程度確実に実施できるのかという実施確率の水準だ。

 伊藤氏は、「どうしたら安全を確保できるのかを自分たちで考えていくこと、そして航空局さんと一緒にそれが妥当かどうかを検討する、そのうえで納得していただく、このプロセスをどれだけ回せるのかが、重要な部分になってくるのではないかと思う」と話した。

ロバスト性の充足について

 また、「飛行マニュアルの作成」について伊藤氏は、「審査をお願いする側も、審査をする側も、まだ見慣れていないというのが実情」だと言及して、記載項目と引用元をわかりやすく整理するだけでも審査が進みやすくなると伝えた。

飛行マニュアル作成のポイント

 セッションの最後には、レベル4の審査要領とカテゴリーIIの審査要領の違いにフォーカスした飛行マニュアル作成のポイントや、そもそもの「有人地帯」の定義についても解説して、「許可承認申請の実務をしたことがない方には、少し込み入った内容だったかと思うが、不明な点はぜひご質問いただければ」と呼びかけていた。

運航設計と現場の実務について

 最後のセッションでは、奥多摩でのレベル4飛行で運航責任者兼操縦者をつとめた株式会社ドローンオペレーション出口氏が登壇して、伊藤氏とのディスカッション形式で、実務におけるレベル4飛行ならではの注意点を掘り下げた。

株式会社ドローンオペレーション出口氏

 1つめのテーマは、「レベル4飛行を実施するとき、操縦者としては一体何が必要なのか」。出口氏は、「ギャップ」というキーワードを挙げて詳しく説明した。

 レベル4飛行の大前提としては、一等無人航空機操縦士の資格と、目視外飛行になるため目視内限定解除が必要だ。また、機体認証を取得した機体や、運航で用いるソフトウェアに対する理解や習熟も必須となる。さらに業務遂行においては、依頼元別に異なるオペレーションの目的や手順への理解と遂行力も求められる。

 しかし、例えば資格を取得したからといって、すぐにレベル4飛行を実行できるわけではない。「ギャップ」として実務において求められるものは、「補助者なし目視外飛行、レベル3の飛行の運航経験や実績、ノウハウを有しているか」「フライトプランを設計する能力や知見を持っているか」「自ら設定したフライトプランを実行するうえで何らかの不具合が生じた際に、FPVの映像だけで安全に機体を戻せるための地理的理解など、フライトプランへの認識能力があるか」「クルーリソースマネジメント能力があるか」などさまざまだ。

 端的にいうと、資格取得だけでは証明されていない多岐にわたる技能こそ、実務においては極めて重要になるということだ。

「ギャップ」の説明資料

 2つめのテーマは、「事前のオペレーションの設計においては、何が重要になるのか」。出口氏は、「第三者上空」というキーワードを挙げて解説した。

 レベル4飛行では、繰り返しになるが第三者上空を飛行することになるため、想定すべき事項として一番重要なのは、「第三者リスク」だ。たとえば、奥多摩の事例では離陸地点の郵便局があるエリアは第三者リスクが存在する市街地だったが、機体に何らかの故障が生じて何らかの対策を講じなければならないとき、再度市街地上空を飛行して離陸地点に機体を戻すのかというと、それは違うという。

 出口氏は、奥多摩の実証では、「無人地帯での機体の墜落よりも、第三者上空でのインシデント発生の方がより高いインシデントを招く可能性が高いのではないか、という運航判断の下で運航設計が行われていた。そのため、離陸地点が近くても第三者上空エリアを抜けるタイミングでアクシデントが生じた場合、敢えてそのまま飛行し、無人地帯エリア側に移動するなどの取り決めを事前にしていた」と説明した。また、周辺の山頂部にあるヘリポートの位置を事前に確認し、そこよりも高度を上げないルートを設計していたという。

「第三者上空」の説明資料

 3つめのテーマは、「実際の現場のオペレーションでは、何に気をつけなければいけないか」。出口氏は、「飛行規定」と「飛行マニュアル等」というキーワードを挙げて説明した。

 レベル4飛行では、「飛行規定」「飛行マニュアル」「運航手順」など、事前に定義した規定を逸脱しないようにフライトすることが、特に重要になる。奥多摩の事例では、「どこで何があった場合に、どう対応するのか」といった「非常時の手順フロー」を事前に規定したという。

 具体的には、機体の取扱説明書に記載されているエラー内容ごとに、飛行エリアにおける第三者リスクの有無や目視内/外といった状況をかけ合わせて、操作はどのように行うのか、操作後の現地対応はどのようにするのかを、あらかじめ「整理シート」として可視化し、規定した。

 そして、訓練のなかで可能な限りエラー発生時の机上演習を実施するなど、訓練を工夫したという。また、操縦者だけではなく、プロジェクトオーナーであり運航設計の主体となった日本郵便の担当者も同じ訓練を行い、有事の際の対応がスムーズになるよう準備した。

整理シート(イメージ)

 ほかにも出口氏は、操縦者のヒューマンエラーなどの「NGアクション」を未然に防止するため「クルーリソースマネジメント」という手法を用いたという。ダブルチェック体制を作る、機材セッティングでは動線を毎回同じくする、疲労管理の規定を定める、さらにこれらを運航チェックリストに反映させていくなど、さまざまな工夫をこらしたことも紹介した。

 最後に出口氏は、「レベル3などの経験がない状態でレベル4に挑むよりは、まずは運航体制を自分たちで構築してみる、また操縦者の技能の成熟を図るという意味でも、レベル3から始めてみるとよいのではないかと思う」と話して、本セッションを締めくくった。

 1~4の全セッションが終了した後は、約3時間という長丁場のセミナーだったにも関わらず、リアルとオンラインのどちらの聴講者からも質問が多数寄せられ、レベル4への関心の高さがうかがえる場となった。