初の「レベル4飛行」事例紹介と、使用機体の特徴

 セッション2は、前半にACSLの伊藤氏が、2023年3月に日本郵便と行った日本初のレベル4飛行の実証実験について、後半にACSLの中村氏が、日本初の第一種認証機体「PF2-CAT3」の特徴について解説した。

日本初のレベル4飛行について

ACSLの伊藤氏

 最初に伊藤氏は、ACSLと日本郵便のドローン輸配送の取り組みの歴史を振り返ったうえで、2023年3月に東京都奥多摩町で行った、日本初となるレベル4飛行での実証実験の概要を説明した。

 ACSLは、日本郵便と2017年に当時の国土交通省物流政策課のドローンポートとドローンの連接活用の実証実験をきっかけに、2018年9月には日本初のレベル3飛行を実施した。2019年度からは4年にわたって、東京都奥多摩町でのオペレーションなど、レベル3飛行の取り組みを協働で行ってきたという。2021年6月に資本業務提携を締結して、改めて関係性を強化し、2023年現在は物流専用機体の開発も進めている。

ACSLと日本郵便の取り組みの歴史

 日本郵便におけるドローン利活用イメージは、例えば「山の上のポツンと一軒家」。将来的に人手不足が顕在化してきたとき、ドライバーによる配送が非効率なところをドローンなどのロボットに置き換えることで、ユニバーサルサービスとしての持続可能性を維持できると見込む。

日本郵便におけるドローン活用イメージ

 両社は、このような背景を踏まえて、2023年3月に奥多摩でレベル4飛行の実証を行ったという。

 東京都奥多摩町は、人口約4,900人、最大標高差600mで、面積の約85%が森林あるいは山になっている。これまでレベル3飛行の実証を行ってきた奥多摩郵便局は、裏手側に川が流れているため、できるだけ無人地帯の上空を飛行できるよう、従来は川の上空をたどりながら一部道路を横断していた。しかし今回、レベル4飛行の許可承認を得たことで、住宅街の上空を通過することが可能になった。

東京都奥多摩でのレベル4飛行概要

 伊藤氏は最後に、「レベル4飛行の実現によるメリットは、大きくは3つある」と話した。1つめは、第三者の立入管理措置を前提とした経路設計が不要となるため、「飛行可能な場所が増える」。

 2つめは、レベル3飛行では人や車の往来があればそちらを優先して、安全確保を確認できた後にドローンが通過するというタイムロスがあったが、レベル4飛行ではそれがなくなるため、「定時オペレーションが可能になる」。伊藤氏は、「決まった時間に、決まった宛先に、何分ぐらいで届けられるかが明確になれば、1日あたりの稼働計画を立てられる」と、ビジネスサイドとしてもベネフィットは大きいことを強調した。

 3つめは、「安全性の向上による、受容性の向上」。事前に必ず実施する住民への説明時、“機体認証、技能証明という、国のお墨付きを得ている”と言えることで、ドローンの飛行を受け入れてもらいやすくなったという。

レベル4飛行のメリット

日本初の第一種認証機体「PF2-CAT3」について

 続いて登壇したのは、第一種認証機体「PF2-CAT3」開発のプロジェクトマネージャーを務めたACSLの中村氏だ。中村氏は、「制度施行時に素早く申請できるよう、機体のコンセプトの作り込みなどは、かなり早い段階から取り組んでいた」と明かす。

 同機体は、2023年3月13日に日本初の型式認証、同月15日に機体認証を取得して、同月24日のレベル4飛行で使用されたが、実は約2年前の2020年12月には、機体開発の検討を始めていたという。

ACSLの中村氏

 機体開発における最大のポイントであり、かつ最初に考えたのは、「機体に対して設定する飛行条件」だという。

「航空法で定められた飛行禁止区域や飛行方法はもちろん、気象環境や、適用するべき制度上の要件、我々の技術的な要件など、さまざまな観点で機体に対して設定するべき飛行条件を洗い出し、それに対して技術的にどのように適合していくか、また市場やカスタマーのニーズも鑑みると機体をどのように作り込んでいくべきか、そういったことを最初に検討した」(中村氏)

機体に対して設定する飛行条件

 中村氏はこのように話して、「その出来上がった条件を、運航概念図(ユースケース)として、1枚の絵に落とし込んだ」と説明した。

 最大飛行速度、耐雨性、通信などの適用要件や、市場のどのような機器を活用するかなども含めて、1枚の絵図に起こすことで、分かりやすくなるよう工夫した。そして、こうして磨き上げた概念図をもとに、正式な申請書類である「設計概念書(Concept Of Operations)」を記載していったという。

運航概念図
設計概念書

 続けて中村氏は、型式認証における重要な5つのキーワードを説明した。機体メーカーは、この5つのキーワードの順を追って、型式認証機体を開発していくことになるという。

 1つめは「設計概念書」だが、これができたら次に「安全基準」と「均一性基準」を定める。安全基準とは、航空法において設定されている内容で、航空機を安全に飛行させるためにメーカーとして必ず満たさなければならない基準だ。均一性基準とは、同じ機体を量産するためにメーカーが満たさなければならない基準である。

 その次に、この2つの基準に対して機体をどのように適合させるかをまとめた「適用基準」を定める。例えば、「夜間に飛行しないので、この基準に対しては適合させませんが、この基準に対してはこのように適合させます」などを説明するのが、適用基準だ。

 そして最終的に、適用基準で定めた内容を、どのような試験を行って証明するのか、具体的な方法を示すものとして、「適合性証明計画書」を作成するという。

型式認証に必要な5つのキーワード

 加えて中村氏は、型式認証と機体認証の違い、レベル4の認証制度におけるメーカーとユーザーの役割についても言及した。

 レベル4飛行に必要となる機体認証を取得するためには、設計のみならず、製造に関しても検査が必要になるため、これらの検査を省略するために、型式認証を取得するのだという。型式認証は名古屋にある航空機技術審査センターで、機体認証は無人航空機安全課に申請し、それぞれ検査を経て認証を取得する流れだ。

 実際のレベル4飛行を行うためには、メーカーが機体認証を取得するだけではなく、ユーザー側ではそれを受けて、運航管理体制の承認取得や、機体を維持するための整備などを行う必要がある。また、機体認証の期間は1年のため、機体認証取得機体を保有したユーザーは、車の場合も同様だが、自分たちで更新手続きすることになる。

 メーカーが行う型式認証のプロセスはこうだ。まずは名古屋にある航空機技術審査センターに申請を行う前に、双方で事前調整を行ったうえで、実際の型式認証に必要な内容を詰めていく。申請が受理されると、最初に設計概念書を提出し、双方で「初回審査会」を開催して、前述の5つのキーワードについて認証活動の合意を形成していく。合意がなされた段階で、さまざまな書類検査、実地検査を経て、最終的に全ての要件が満たされたという段階で、双方で「最終審査会」を開催して、問題がないことが確認された後に型式認証書が発行される。

型式認証活動の流れ
第一種認証機体「PF2-CAT3」の型式認証書

 続いて中村氏は、「PF2-CAT3」の特徴を説明した。アーム6本のヘキサコプターで、最大離陸重量9.8kg、最大積載重量1kg、最高飛行速度10m/s(時速約36km)、1kgの荷物搭載時の最長航続時間は17.5分だ。

 機体の安全対策として設けたのは、「リダンダンシー(冗長性)」と、「フォルトトレランス(耐障害性)」だという。

 リダンダンシーとは、故障が生じた際にもうひとつの機能でカバーして飛行を継続するための対応のことで、具体的にはGNSSアンテナ、IMU、磁気センサーなど、クリティカルな部品について、全く同じ装備を機体左右の両方に搭載した。

 フォルトトレランスとは、不具合が生じて飛行を維持できなくなったとき、それを検知して安全を確保し、最終的には安全に着陸できるフェールセーフの核となる機能のことで、具体的にはプロペラが1枚壊れたら、片方側のプロペラを自動的に止めて4枚で飛べるようにする、2枚以上壊れたらパラシュートを開くなどの機能を搭載した。パラシュートの効果について中村氏は、「何もしなければ40m/sの速度で落下するが、パラシュートを開くことで約85%減速可能であることを確認し、地上リスクに備えた」と話した。

機体の安全対策

今後の機体開発について

 なお、今後のレベル4飛行に向けた機体開発の取り組みについて、伊藤氏と中村氏はこのように話している。

「日本郵便さんとは、すでに新たな物流専用機体の開発を進めている。この機体の特徴は、5kgまでペイロードを増やし、かつ最大離陸重量25kg未満を維持すること。第一種の認証も申請する予定で、日本郵便さんからはこの機体をもって実用化をスタートする、という意向を伺っている。飛行距離35kmということで、日本郵便さんが全国に持つラストワンマイル配送エリアの大部分をカバーできる想定だ。また、最大積載重量5kgあれば、薄型小物が中心となる郵便物(年間約140億通)をカバーできる想定。実際にこれが実現できれば、中山間地域における配送はドローンにより省人化配送が可能になってくる」(伊藤氏)

「今回は、物流に特化した形で機体を生み出したが、レベル4飛行は物流以外にも様々な分野がある。同じプロセスを踏めば、機体認証、型式認証を生み出すことはできると思う。しかし、証明のプロセスは同じでも、機体の中身は全然違うものになるはずだ。適用基準も違うし、証明方法も違うため、つまり証明するべき内容の中身が全く異なるものになる。このため、どのような環境で飛ばしたいのかを、我々開発者が最初に知ることが非常に重要になってくる。そうでなければ、結局ユーザーさんが使いづらいものになってしまうので、今後もいろいろなニーズを深く捉えて、レベル4の機体を生み出していきたいと思う」(中村氏)