ドローン運航のやり取りから理解する具体的なCRMスキル

 CRMスキルがヒューマンエラーを削減し、事故を未然に防ぐ考え方を身に付けるものであることは分かったが、具体的にどのようなものなのか?日常的な操縦者と補助者のコミュニケーションや行動の中でも事故につながるやり取りが隠れているので、操縦者と補助者の2名でドローンを飛行させた場合の例を紹介しよう。

 以下の考え方や伝え方は事故やトラブルを招きかねない。CRMスキルを学ぶことで、ものごとを正しく伝えるコミュニケーション方法や、トラブルを防止するための運用体制などが身に付けられ、以下のような例を防止することが可能になる。

1. 以前と同じ場所で飛行させるので「ブリーフィング」を簡略化した。
・飛行環境(気象や機体、周辺状況)は毎回変わる。またブリーフィングはフライトにおける「共通認識」を持つ大切な機会でもあるので最初に必ず行う。

2. 補助者が操縦者から飛行前確認のチェックリストを「チェックしておいてください」と伝えられた。
・チェックリストは最後の砦とも言える大切な物。チームまたは2名以上で確認する事で抜けやミスを防ぐ。大切な場面で「~しておいてください」という伝え方は「チームの形成」や「状況認識」という部分でも不適切。

3. 過度に高い権威勾配は、聞きたいことがあるが聞けないという「コミュニケーション」の弊害の要因となり事故を招く可能性が高い。これは、上司が「チームに適した雰囲気づくり」を構築できていないだけでなく、部下においても「リーダーシップ」が足りていないことも原因。

 以上のように、日常的に使いがちな言葉や判断が事故を招く可能性があり、CRMスキルはこれらを改善することができる。

 実際にCRMスキルの講習を受けた受講生からは、「最初はどういうものなのか分からなかったが、実際に受講すると、今までできていなかったことが明確化され、考え方にも変化が出てきた」という声も寄せられたという。

ドローンや航空機の安全運航を実現する「意識改革」

 CRMスキルを浸透させるためには“意識改革”が必要だ。これについて大原氏は「例えば、問題の例に出てきた上下関係のコミュニケーションは、日常的に下の者が上の者へ意見を言える体制を整えておかなければなりません。これは、意見であって文句ではありません。こういった意見を受け入れる関係性を築くのは組織の意識改革が必要です」と話す。続けて、「昔の航空会社は、機長がもっとも権威があり、責任と共にあらゆる判断を行う立場にありました。しかし、CRMの浸透と共に徐々に航空業界の意識改革が始まり、今は機長に対してクルーが意見を言い、機長は意見を取り入れて判断する体制に変わりました。もしも安全に関する主張に対して機長が意見を聞き入れなければ、場合によっては降格や解雇に値するほど重要な体制とされています」と説明してくれた。

 一方、ドローンにおいては、「ドローンを扱う業界は多岐にわたり、土木建築業や農業、建設業、運送業など上下関係の厳しさをはじめ、意識に対するレベル感は大きく異なります。CRMスキルは関連する業界全体に浸透させなければいけないため、非常に難しいとされます。日本に数十社の航空会社ですら、浸透するのに数十年の期間を要しましたが、幅広い企業が係るドローンにおいては、航空局や登録講習機関といったドローン全体に係る人たちが意識的に浸透させていく必要があるでしょう」とドローンにおける意識改革の難しさに触れた。

 最後に航空機パイロットから見たドローンとはどういった存在なのか?と伺った。「ドローンと航空機の境目は確実に近くなってきていると言えます。今はドローンに加え、さまざまなエアモビリティも実現に向かっています。高高度を飛行するものや長距離飛行を行うものが出てくると、航空機と同じ空域を飛行するものが増えるでしょう。そうなると、航空機パイロット同様の知識や運航スキルが必要になってくる可能性が高くなります。例えば雲の中に入って周囲が見えない時に使われる計器飛行方式や管制官とのやり取りに使う航空無線の知識などは、目視外飛行という意味でドローンも航空機も同じですが、現状、これらの知識を習得しているのは航空機パイロットと管制官です。一方、航空機もドローンと同じようにオートメーション化が進んでいます。自動航行になるとさらにドローンとの垣根がなくなってくることでしょう。今後はドローンも航空機同様に高度な運航スキルが必要となり、その中でCRMスキルが重要視されていくと思われます」と話してくれた。

【DRONE FLIGHT SAFETY】

Vol.2 実体験から学ぶドローントラブル
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