レベル1、2飛行に分類される目視内飛行は、専門知識や操縦技術(テクニカルスキル)を高めることで安全な運用が担保されてきた。しかしドローンの技術進歩によって操縦の自動化が進み、レベル4飛行においては2022年12月の航空法改正の施行をもって新設される「無人航空機操縦者技能証明の制度」によってライセンス(国家資格)として担保されていくこととなる。
※第三者上空以外における一定の空域(空港周辺、高度150m以上、人口密集地域上空)、一定の飛行方法(夜間飛行、目視外飛行等)では、ライセンスを取得せず飛行ごとに許可・承認を得て飛行することが可能。

 国土交通省はライセンスの科目や教則を順次公開しており、無人航空機の飛行及び学科試験において求められる最低限の知識要件についてまとめられた「無人航空機の飛行の安全に関する教則」の中には、「安全な運航のための意思決定体制(CRM等の理解)」という項目が設けられている。

 このCRM(Crew Resource Management)スキルとはどういったものなのか。講習カリキュラムにCRMを取り入れているJUIDA認定校のNEXAIRS DRONE ACADEMY(ネクセアズドローンアカデミー)に話を伺った。

航空機運航で重要視されているCRMスキルとは何か?

NEXAIRS DRONE ACADEMY(ネクセアズドローンアカデミー)大原大 代表。
民間航空機パイロットの増尾ふゆの講師。

 NEXAIRS DRONE ACADEMY(ネクセアズドローンアカデミー)はNext Generation Air Safety(次世代の航空安全)を目指して、航空機パイロットの大原氏らが2022年1月に設立したドローンスクールだ。大原氏はボーイング777の操縦士を務めており、共に講師を務める増尾氏も現役航空機パイロットとして活躍中だ。安全運航のプロフェッショナルである航空機パイロットのもとでドローンのスキルを学ぶことができるのが同校の最大の魅力といえる。

 今回のテーマであるCRMスキルは、航空機を安全に運航するために必須の知識として、パイロットをはじめとする多くの航空会社の従業員が習得している。このスキルは193ヵ国(2020年7月現在)が加盟し、航空業界の安全かつ健全な発達のために各国の協力を図ることを目的とした国際民間航空機関(ICAO)が策定したものだ。近年、ICAOはドローンについても「(ドローンパイロットを想定した)リモートパイロットライセンスの保持者には、安全の脅威に対処する能力を身に付けること」と示しており、CRMスキルの重要性を提唱している。このことから「無人航空機操縦者技能証明の制度」の中でも触れられることとなった。

出典:ネクセアズドローンアカデミー

 それではCRMスキルとはどういったものなのか?大原氏は「CRMスキルを端的に言えば、“安全で質の高い運航を達成するためにすべての利用可能な人的リソース、ハードウェアおよび情報を有効活用する”といったもので、ヒューマンエラーを削減し、さまざまな事柄に対して的確に判断する力を身に付けるスキルです。状況認識、チームの形成、意思決定、業務負荷マネージメント、コミュニケーションなどを通じて、関わる人全体で事故防止に努める手法になります」という。続けて、「例えば、毎日あたりまえにできていることを間違えてしまうというのがヒューマンエラーに該当します。航空機では車輪やフラップを操縦するスイッチ類にも工夫が施されており、操縦ミスが無いようにスイッチを車輪やフラップの形状にしているものもあります。このような環境整備もヒューマンエラーをなくすというCRMの考え方の一つなのです」と話す。

 大原氏はリスクマネジメントのモデルとなる「スイスチーズモデル」を用いて、重大事故の発生について説明してくれた。

事故につながる・防止する行動をチーズで表現したスイスチーズモデル。

 数枚のチーズには穴が空いており、矢印が穴を通過する図が描かれている。スイスチーズには大小の穴がいくつも空いていることから、チーズの層を安全対策、穴を脆弱な部分(リスク)に例え、ヒューマンエラー(危険)がすべての穴を通り抜けた時に事故やトラブルが起きる、としたものである。

 矢印は危険が進行していることを表し、チーズはそれをブロックするものであるが、上の図では危険を防ぐ判断タイミングが3回あり、すべてのブロックタイミング(チーズの壁)を逃すことで、重大事故につながるということを示している。一方、下の図はチーズの穴の空いている場所が異なることから、ひとつでも異なる判断ができれば事故が防げることを表す。大原氏は「事故というのは、何重もの安全対策をすり抜けることによって起こります。だからこそ、一つでも穴を塞いだり、穴の場所が異なるように対策したりすることが大切です」と説明してくれた。

出典:ネクセアズドローンアカデミー

 それでは何故CRMスキルがドローン運航に必要なのか?大原氏は「航空会社は1960年前後から事故の歴史があります。死亡者数は減っていますが、未だ事故を無くすことはできていません。それはヒューマンエラーを無くすことができていないためであり、航空機が技術的にオートメーション化されたとしてもフライトクルーの行動とコミュニケーション、パフォーマンスによる事故は減らないのです。ドローンも航空機と近しく、レベル4飛行が始まると、これまでの人対ドローンの関係から人対人(チーム)での運用が増えてきます。そうすると航空機パイロットと管制官の関係と同様にコミュニケーションの取り方や責任の所在、判断の下し方、意見を述べられる体制などが重要となり、関係者全員がCRMスキルを習得し、業界で意識改革を行う必要性がでてきます」という。

出典:ネクセアズドローンアカデミー

 航空会社はICAOが策定したCRMスキルに、過去の事故やトラブルの事例を加え、独自に開発した内容を社内で共有しているという。入社するとパイロットはCRMスキルを集中的に学習し、共通認識を身に付け、その後は毎年CRMスキルのアップデートが行われ、1年に1度リマインド学習と審査を全員実施しなければいけないほどに航空会社では重要視しているスキルとなっている。

 また、2010年代にはCRMスキルをアップデートしたMCC(Multi Crew Co-operation)が重要視されはじめた。これは、チームの中で1人だけがCRMの考え方を習得していても意味をなさないため、組織として考え方を身に付け、安全を守っていくためのスキルとなる。