「ドローン前提社会」の実現に向けた取り組みが本格始動した神奈川県。9月2日には第1回目となる「かながわドローン前提社会ネットワーク」を開催。ドローンを活用して社会課題を解決するニーズとシーズのマッチング、県民理解の醸成や規制の緩和などが議論された。今回は、こうした動きのエンジンとなり尽力するお二方、政策局未来創生担当部長の脇雅昭氏、慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアム副代表の南政樹氏に詳しくお話を伺った。

慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアム副代表の南政樹氏(左)と政策局未来創生担当部長の脇雅昭氏(右)

神奈川県が「ドローン前提社会」に向けたモデル事業を募集するワケ

 8月1日、神奈川県は、「ドローン前提社会」の実現に向けたモデル事業を募集することを発表した。第1弾は、9月12日で募集締切となったが、神奈川県では今後も継続的な募集を検討しているという。

 狙いは、県が目指す「ドローン前提社会」実現に向けた、社会実装の促進と県民の理解促進だ。社会課題の多様化・複雑化が加速するいま、そのソリューションとしてドローンなどのテクノロジーを活用し、新たな産業を育てたいとする地方自治体は少なくない。けれども、住民の理解や受容性が高まらない限り、その先の未来は訪れない。

 モデル事業を推進する、政策局未来創生担当部長の脇雅昭氏は、意気込みをこう語る。

 「テクノロジーの力を活用して、日本の社会課題解決をいかに図っていくか。このチャレンジの裏テーマが、行政の価値の再定義だ。補助金を用意するなど従来型の手法だけではなく、規制緩和や住民の理解・信頼など、行政が間に入ることで、人や企業をつなぎ、自発的に発揮する力を最大化できるよう、きっかけ作り、環境作りに尽力したい。」(脇氏)

神奈川県は、日本の「縮図」

 ドローン前提社会に向けたモデル事業では、様々な社会課題に対するソリューションが募られた。火山活動の監視、海水浴場などの水難救助、買い物弱者への物資配達、公共施設の点検、箱根や鎌倉など観光資源を生かしたドローンツーリズムなど。

 都会のイメージがある神奈川県だが、山林への産業廃棄物の不法投棄に悩む自治体もあるという。「ドローン前提社会」というキーワードの生みの親、慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアム副代表の南政樹氏は、神奈川県の”ポテンシャル”をこう語る。

 「いま、日本の地方自治体が抱えている課題は、エリアごとの特性が背景にある。エリア特性に合わせたソリューションや仕掛けが必要。神奈川県は、県内33の市町村ごとに、抱える社会課題がさまざま。まさに日本の縮図だ。多様化・複雑化する社会課題に対して、ドローンという黎明期のものが入ってくる。神奈川県におけるこのプロセスが、やがて日本全体の1つのベースモデルとなることを期待している。」(南氏)

 神奈川県は日本の縮図だという南氏からの指摘を受けて、脇氏は神奈川県内での動きをこう話す。

 「実は、かながわドローン前提社会を目指し、黒岩知事の強いリーダーシップが発揮されるなか、各市町村からも、こういう風にドローンを使えるのではないか、自分たちのエリアのこの場所ならフィールドに提供できる、といった提案が出始めている。」(脇氏)

 また脇氏は、トイドローンは数千円〜2万円で購入でき、未来創生課メンバーの一人が入手したという例も挙げて、「テクノロジーというと多種多様で敷居の高いものも多いが、誰もが比較的手に入れやすいテクノロジーだという点でドローンは有効だ」と話す。実際に触れて使っていく人が増えることで、用途のアイデアもまた膨らむ。まずはドローンから、と神奈川県発「空の民主化」へ熱い想いをにじませた。

神奈川県で、新たな産業を育てていくために

 新たなテクノロジー、産業を育てるためには、トライアンドエラーを繰り返せる環境がとにかく大事だとしたうえで、「かながわドローン前提社会」の肝になる要素は「魅力作り」と南氏は示唆。

 神奈川県には、ドローンを見たことがある住民の方や事業所も多い。ドローンに対する認識がすでにある。これからは、ドローンがどんなことに使われ、どう便利なのか、具体的な話をもっと発信しなければならないという。モデル事業は、まさにその一翼を担うだろう。

 「各市町村が抱えるさまざまな社会課題解決にドローンを、という一方で、もう少し身近なところでドローンが魅力的に伝わると良い。例えば、観光地でドローン空撮による1枚の写真が思い出になる、海水浴場でドローンが見守ってくれる安心感など。県民の方の思い出の中にドローンが入ることで、魅力になり、結果としてテクノロジー、産業が育ちやすくなる。」(南氏)

 「人がワクワクするという経験はすごく大切なこと。社会課題をいかに解決するかということも大事だが、より楽しく、ワクワクするという価値を創造し、若い人の参加や次のプレイヤーを生むきっかけになる、そんな提案もモデル事業として出てきてくれるとうれしい」(脇氏)

 また、情報と知の集積地を目指すという戦略方針も話題に上がった。日本は人件費、土地、税金も高い。株式会社エアロネクストの知財戦略を例に挙げ、生産力勝負ではなく、優秀な人材が集まり自由な発想をできる土地を目指す、そのためにPoC(概念検証)ができる環境整備や設計者等の誘致など、話題は具体的に発展。

 日本の縮図である神奈川県が、地方創生のモデルケースとなり、さらに世界からも注目を集める。そんな未来の扉が開きつつある。神奈川県では今後も継続的に、モデル事業の募集や、かながわドローン前提社会ネットワークによる勉強会・交流会などを実施する予定だ。