スイスFlyability社の球体ドローン「ELIOS」の輸入、販売を手掛けるブルーイノベーションは、9月20日、東京都内で新型の「ELIOS2」の発表会を行った。ELIOS2は一見すると従来のELIOSと同じ球体のドローンだが、その構造は大きく異なっており、同時にフライトのスタイルや得られるデータも異なるものとなっている。また、ブルーイノベーションではこのELIOS2の発表に合わせて、「Blue innovation Conference 2019」を開催。同社の顧客を中心に150名を招待し、屋内点検と物流をキーワードにパネルディスカッションを行った。

「ELIOS2」を披露するブルーイノベーション社長の熊田貴之氏。

対象物との距離を測る22のセンサーを搭載

 ELIOSはスイスのFlyability社が開発した、非GNSS環境下の屋内空間などの飛行特性に優れたドローンだ。2018年にブルーイノベーションがサービスを開始した屋内点検サービス「BIインスペクター」に使用されるELIOSは、球体状のガードを備えたクワッドコプターで、コンパスエラーが出にくいという特性を持っているのが最大の特徴。そのため、配管やボイラー、煙突といった、狭い屋内空間での点検に適している。

今回発表された「ELIOS2」。球状のケージの直径は約400mmで、機体重量はバッテリーも含めて1450g。
ELIOS2はクワッドコプター形式の機体が、ゴムダンパーを介してケージに固定されており、機体上部にはカメラ等は搭載しない。
ケージに五角形のカーボン製フレームを介して取り付けられるカメラジンバル。上下180度にカメラ部を向けることができる。オレンジ色のカメラ部には、有効画素12.3メガピクセルの1/2.3型CMOSセンサーとFLIR製Lepton3.5赤外線カメラ、赤外線レーザーを搭載。ジンバル向かって左側には、機体の揺らぎを検知するオプティカルフロー用カメラ3つと、赤外線レーザー3つを装備。向かって右側にはオプティカルフロー用の赤外線ライト3つを装備している。
ローターアーム先端に取り付けられた赤外線レーザーセンサーとオプティカルフロー用カメラ。

 今回新たに発表されたELIOS2は、従来のELIOSを発展させたモデルだ。クワッドコプターの周囲に、球状のワイヤーケージを備えたスタイルはELIOSと共通。しかし大きく異なるのが、ELIOSがケージの中で機体がジンバルで支持されていて自在に動くようになっているのに対して、ELIOS2は機体はローターアームの先端でケージに接続されており、さらにカメラジンバルがケージ前面に固定されている。

 この構造の違いが飛行方法の違いにもつながっており、ELIOSはケージが対象物に接触しても機体は常に水平が保たれるため、ケージを対象物に接触させながら飛行することで、カメラと対象物の離隔を一定に保たれることになっている。一方、ELIOS2はケージが機体に固定されているため、対象物にケージが接触すると機体の姿勢に影響を与えることになる。そのため、あくまでもケージはガードとしての役割であり、原則として機体は対象物に接触させずに飛行させるスタイルに改められている。「ELIOS2は対象物に接触せずに飛行するため、触れると崩落の危険性がある採掘場や災害現場で飛行できる」(説明員)。

7つのセンサーを駆使して周囲との距離を測定。常に一定の距離を保ちながら飛行することができる。
ELIOS2(左)と既存モデルのELIOS(右)。ELIOSはケージの中に2軸ジンバルを介して機体が取り付けられているのに対して、ELIOS2はケージと機体が固定され、カメラジンバルはケージに取り付けられている。

 この飛行スタイルの変更に合わせて、ELIOS2では新たに7つのセンサーが追加された。4つのローターアームには赤外線レーザーセンサーとオプティカルフローセンサーを搭載し、さらにカメラジンバルにも、前面、上面、前方下に向けた同センサーを装備し、これら7つのセンサーで周囲や対象物との距離を測り、機体の姿勢や距離を保ちながら飛行することを可能としている。また、ケージが対象物に接触して機体姿勢が45度以上傾いた場合に、ローターを逆回転することで姿勢を維持するという機能も搭載している。

ELIOS2の飛行の様子。調光可能なライトは10000ルーメンの明るさを持っている。飛行時間は5200mAhのバッテリーを使って約10分。

対象物の劣化を浮かび上がらせる1万ルーメンの強力なLEDライト

 ELIOS2ではカメラジンバルを機体から切り離し、ケージに固定してある。事実上、ケージの表面にカメラがあるため、撮影した映像にケージが写らないというのがELIOSとの大きな違いだ。カメラジンバルには可視光領域で水平114°の画角を持つ4Kカメラと、160×120ピクセル/9fpsの赤外線カメラを搭載している。

 さらにカメラジンバルの周囲には10000ルーメンの明るさを持つLEDライトを装備。このLEDライトは粉塵の中で撮影しても、粉塵が写りにくいような仕様となっているほか、点検対象のひびや窪みを鮮明に映し出せるように、カメラの光軸に対して斜めから光を照射する配置とされている。映像は最大4Kの動画のほか、JPEGの静止画を撮影することが可能だ。

10000ルーメンのLEDライトは斜めから照射するため、対象物の凸凹が浮かび上がりやすくなっている。

 ELIOS2のオペレーションは、タブレット端末を装備した専用のコントローラーで操作し、各種設定や飛行計画などは専用アプリケーション「COCKPIT2.0」で行う。また、パッケージには検査用ソフトウェアとして「INSPECTOR2.0」が付属しており、歪曲した映像を平面的に補正したり、対象箇所の長さを計測するといった機能を搭載している。

 これまでブルーイノベーションではELIOSを使った点検オペレーションを100現場弱行ってきており、今後は販売パートナーと運用パートナーを増やし、「1年間で3倍程度の実績を目指したい」(熊田氏)という。機体はソリューションを販売するほか、オリックスレンテックを通じてレンタルする形で提供し、そこにパイロットを派遣するといったサービスも想定。なお、機体の価格は現在調整中ということで、「およそ500万円程度」(熊田氏)となっている。

機体はコンポーネント化されており、ユーザーが破損部分を交換することができる。

風や熱に強い点検用ドローンがあれば不稼働損をさらに抑えられる

 ここまでのELIOS2発表会に続く形で「ELIOSが切り開く新ビジネス」と題したパネルディスカッションを開催。ブルーイノベーションの那須隆志常務取締役をモデレーターに、JERAの中神和香氏、IHIの菊池威彦氏、新和商事の田村卓也氏と、実際にELIOSを利用しているユーザーの立場から3人のパネラーが登壇。ELIOSの有用性についてそれぞれの立場で語った。

JERA東日本O&M営業部営業ユニットの中神和香ユニット長。
IHI資源・エネルギー・環境事業領域ボイラSBU建設部エンジニアリンググループの菊池威彦氏。
新和商事営業部の田村卓也係長。

 東京電力と中部電力が出資して共同で火力発電所を運用しているJERAの中神氏は「今年度からELIOSを設備点検用して導入し、点検範囲の拡大を模索する一方で、新規事業として外販を視野に入れている」と説明。社内で休止火力発電所を利用して飛行訓練を行う中で「単にELIOSを飛行させるという練習だけでなく、何をどう点検するかという目的に合った練習が必要」だと語った。

 IHIの菊池氏は火力発電用ボイラーを扱う部署に所属していることもあり、「ドローンは点検の省力化、工事期間の短縮、安全性を確保するためのコアアイテムとして着目した」といい、ELIOSの対象物に接触させながら飛行させるスタイルが「大胆に飛ばせるので点検時間の短縮が図れる」とそのメリットを評した。

 また、製鉄所や鉱山といった顧客が多い新和商事の田村氏は、これまでELIOSを販売する立場から、「ELIOSを点検に利用することで、顧客が点検のために工場を停止する時間が短くなったという点で評価されている」と語った。さらに、「工場の配管は稼働を止めても常時風が流れていることが多い。そのため風に強い点検用ドローンが求められる。また、同じように製鉄所のような工場では、稼働を停止しても数時間から24時間といった単位で点検個所の温度が冷めることがない。そのため熱にも強いドローンがあれば、もっと早いタイミングで現場に入れるようになり、工場の稼働率が挙げられる」と希望を述べた。

ディスカッションの第1部では、実際にELIOSを運用・販売する立場からパネラーが事例を紹介した。

無人地帯のドローン物流には携帯電話の基地局が少ない

 第2部の後はブルーイノベーションのインドアフライトプラットフォーム「BI AMY」のデモンストレーションを挟み、「ドローンポートが繋ぐ物流サービスの可能性」と題したパネルディスカッションが行われた。このディスカッションには日本郵便の畑勝則氏、NTTドコモの山田武史氏、IHI運搬機械の村井厚則氏、自律制御システム研究所の鷲谷聡之氏が登壇。ブルーイノベーションが提唱しているドローンポートを中心にした、ドローン物流の未来について意見が交わされた。

日本郵便本社オペレーション改革部の畑勝則部長。
IHI運搬機械パーキングシステム事業部プロジェクト推進統括部の村井厚則理事・統括部長。
自律制御システム研究所の鷲谷聡之取締役最高執行責任者COO。
NTTドコモ法人ビジネス戦略部の山田武史ドローンビジネス推進担当主査。

 ドローンポートに関する課題としてIHI運搬機械の村井氏は「ドローンポートはそこに離発着する機体や運ぶモノ・量で技術が変わってくる。さらに物流業者によっても異なってくることが想定され、ドローンポートは量産品というよりも、個別のオプションやカスタマイズで対応する必要がある。この点をビジネスとしてどう成立させるかが課題」だと語った。またIHI運搬機械の提唱するドローンポートは、UGVやクルマとの連携拠点としての位置づけである。この点について「我々は10年先ではなく2〜3年先に実現することを考えている。そのためには法整備が必要で、当座、UGVなどとの連携は限定された敷地といった場所で始めることとなる。今後はこうしたドローンが活かせる場を社会で作っていく必要がある」と訴えた。

 早くからセルラードローンによる物流の実証実験に取り組んでいるNTTドコモの山田氏は、「これまでのレベル3による物流は、無人地帯でドローンを飛行させてきた。しかし一方で、携帯電話網は人がいるところに基地局を配置しており、無人地帯には基地局が少ない。この矛盾をどう解消していくかが今後の課題」だと話した。

 また、今後の展望を聞かれた日本郵便の畑氏は、「ユニバーサルサービスとして位置付けられる郵便事業は、どんな僻地、山間地でも郵便物を届けるミッションを与えられている。このユニバーサルサービスとビジネスとしての両立が難しく、ドローンにおいてもそれを運用するコストと事業の収益をどう両立させるかが課題だ。しかし、ユニバーサルサービスを効率よく実現する手段として、まずは中山間地、離島を中心にドローンを飛ばしていきたい」と語った。そのために「より大きな機体のペイロードを認めて欲しい。また、確実につながる通信技術が欲しい」と付け加えた。

 ブルーイノベーションも関わるドローン物流の実証実験などに機体を供給する自律制御システム研究所の鷲谷氏は「物流用のドローンは今後、とても重たいものを一気に運ぶ幹線物流用と、個宅に配達するといった目的の小型のドローンという2つのタイプで開発が進むだろう」と話した。

ディスカッション第2部ではドローンポートに関わる事業者の立場で、ドローン物流に関する課題や展望についての意見交換が行われた。