ドローンを使った点検、調査業務や、ドローンフィールドKAWACHIの運営などを行っている東京都新宿区のアイ・ロボティクスは、管路や天井裏、床下といった狭隘部の点検をドローンで行う「狭隘部ドローン点検サービス」を開始し、7月29日にその発表会を開催した。このサービスは汎用のドローンではなく“マイクロドローン”を使い、狭隘部に機体を進入させて、画像の撮影を行うというものだ。また、このサービスの開始に合わせて産業機械の販売、保守を行うリックスと提携すると同時に、マイクロドローンのレースなどを開催しているJDRA(日本ドローンレース協会)と、マイクロドローンの映像撮影の第一人者である増田勝彦氏が代表を務めるエウレカと提携する形で、技術サポートや技能研修プログラムの開発・展開で提携していく。

7月初旬にアイ・ロボティクスが発表した「狭隘部ドローン点検ソリューション」。配管や煙突といった狭隘部を、マイクロドローンや小型ドローンで点検する。

 アイ・ロボティクスは2010年に、ハード、ソフト、通信技術、プラントの技術開発、AI、ブロックチェーンという各分野の専門家が集まって、ロボットを使って世の中の課題を解決する産業用ロボティクス勉強会からスタートしたという安藤氏。これまでにも大小さまざまなドローンやロボットを使って、プラントや建築・建設分野向けのソリューションを提供してきた。「すでに汎用ドローンを使った点検サービスは、さまざまなところで始まっているが、日本は小型化、軽量化がお家芸。ドローンに載せるカメラやセンサー、バッテリーを超小型化して産業利用できるのは日本だけ。ドローンで世界に勝負できるのは、マイクロドローンだと確信している」と安藤氏は述べた。

安藤嘉康 アイ・ロボティクス代表。

SLAMによる自律飛行が可能なIBISも併用

 狭隘部点検サービスに使用するドローンは、“マイクロドローン”と呼ばれるローターピッチ10cm以下程度の超小型ドローン。このドローンを機体に搭載したカメラの映像をゴーグルなどで見ながら、FPV(一人称視点)で飛行させて点検を行う。もともとホビーとしてのドローンレース向けに登場したマイクロドローンは自律安定性が低く、高度の維持は常にスロットル操作を必要とするなど、操縦の難易度は高い。そのため、機体の運航はJDRA側が選抜したオペレーターに委託する形となる。JDRAとしてはマイクロドローンなどでドローンを始めたユーザーに、産業用ドローンの仕事という“出口”を提供する形となる。

マイクロドローン(右下)とオペレーターが機体のカメラが撮影した映像を見るゴーグル(左上)。
会場に用意された管路をイメージした直径約20cm程度の配管内を飛行するマイクロドローン。
マイクロドローンの機体から送信された映像。オペレーターはこの映像をゴーグルで見ながら飛行する。
ゴーグルを着けてマイクロドローンを操縦する増田氏(左)と横田氏(右)。
この日は360度カメラを搭載したマイクロドローンも用意。一度に全周が撮影できるため、通常のカメラでは6方向を撮影するのに6回飛行する必要があるが、360度カメラであれば一度飛行するだけでいい。

 点検作業の現場では、マイクロドローンから電波で伝送された映像を、オペレーターと同時に各分野の専門家が見て状況を把握するほか、機体側でFHD以上の動画や写真で記録することも可能。この映像や画像をもとに、これまでアイ・ロボティクスが蓄積したノウハウで、画像解析を行いレポートにまとめることもできるという。

マイクロドローンの技術サポートと技能研修プログラムの開発・展開を行うJDRA(日本ドローンレース協会)の横田淳理事。
同じく技術サポートや技能研修プログラム、機体の開発・展開で協力する、エウレカの増田勝彦氏。映像作品「オンナノコズ:”Onnanocos”×Micro Drone」で知られる、日本のマイクロドローンの第一人者だ。

 また、狭隘部点検サービスではマイクロドローンと並行して、千葉県千葉市のリベラウエアが開発した小型ドローン「IBIS(アイビス)」による撮影メニューも用意。IBISはGNSSによる位置推定ができない閉鎖環境下で、SLAMによって飛行が可能なドローンだ。モーターには日本電産製の耐塵性能に優れたモーターを採用するなど、粉じんの中でも安定した飛行ができるといった特徴がある。また、強力なLEDライトを搭載しており、真っ暗な管路やボイラーの内部の飛行も可能だ。

リベラウエアの閉鎖空間点検用ドローン「IBIS」を紹介する説明員。
壁に引き寄せられにくい、壁にぶつかっても姿勢をくずさない制御が行われるというIBIS。

狭隘部点検サービスを通じてエコシステムを提供する

 狭隘部ドローン点検サービスは、施設所有者、管理者や点検サービス事業者がソリューションを使って点検業務を行ったり、アイ・ロボティクスが現場作業を受託して、映像・画像素材を顧客に提供する、もしくは解析までアイ・ロボティクス側が行うなど、さまざまな形での提供をアイ・ロボティクスでは検討しているという。そのため、発表会では質疑応答で費用感に関する質問が出たが、案件によって異なるため一概には答えられないと安藤氏。「必ず事前に下見を行い、マイクロドローンを使うのか、IBISを使うのかと、そのためのパイロットをどうするのかなど、最適なソリューションを検討する。だからこそ、一日やっていくら、といった費用感の算出にはなじまない」と安藤氏は説明した。

 また、このサービスの営業やアフターサポートはリックスが行う。リックスはこれまでに産業機械の製造販売や、商社として流通に携わってきた長年のノウハウと販路を生かして、設備などの点検が必要な顧客と、ソリューションを提供するアイ・ロボティクスの間で、工法や工期、費用といった部分の調整役を担うこととなる。「リックスは“メーカー商社”として作業用の機械というメニューを数多く持っていて、遠隔化、自動化に対応できるというのが協業の理由」(安藤氏)だという。「リックスは全国の各エリアに、各産業分野の“業界プロ”と呼ぶスタッフが常駐している。彼らのノウハウを生かして、顧客と狭隘部点検サービスを結びつける役目を果たしたい」と安井卓代表取締役は述べた。

リックスの安井卓代表取締役社長。

 発表会の最後に改めて安藤氏は「それぞれの産業が抱えている課題に対し、サーベイを行い、打ち合わせをして、計画を立てて、作業計画書を出して点検を行い、我々で解析を行い、報告書をまとめる。この一気通貫のサービスで、産業の現場に沿ったエコシステムを提供していきたい」と締めくくった。

この日の発表会場はサービスの提供先であるプラントや設備を所有・管理する関係者で席が埋まった。