2016年からドローンの運航を気象情報という面で支える取り組みを行っているのが、大手気象情報会社ウェザーニューズだ。2016年4月に千葉市の幕張新都心でドローン宅配の実証実験が行われた際には、飛行可否判断のための気象情報を提供する形でドローンの運航を支援。2017年9月には筑波大学と共同で、都市気象の研究において、気象観測ドローンを用いて上空の風向・風速、気温、湿度、気圧を観測する研究を始めた。

 さらに2017年11月にはKDDIとスマートドローン構想実現に向けて、ドローン向け気象予測情報の提供や、基地局に設置した気象観測システム「ソラテナ」の活用に向けて業務提携を締結。その後のKDDIのスマートドローンで行った実証実験で、気象情報を提供している。そして2018年11月にはKDDIと共同でドローン向け高精細気象予測システムの開発を発表。これはウェザーニューズがKDDIの基地局に設置している全国3000カ所の気象観測装置「ソラテナ」と、ウェザーニューズ独自の観測点1万カ所の気象データを活用し、高度10m単位で250mメッシュの気象情報を提供するというものだ。

業界初の250mメッシュ、高度10m単位の高精細気象予測システム

海の安全のためにウェザーニューズは創業した

 ウェザーニューズという企業は、1970年に福島県いわき市の小名浜港で起きた、貨物船の沈没事故がきっかけとなって誕生した。沈没の原因となった爆弾低気圧の予測が当時難しかったこと、それに加えてそもそも航行する船舶のための気象情報サービスがなかったことが原因とされている。この事故で貨物船を用船する商社の配船担当だった石橋博良氏が、事故を教訓として1986年に創業したのが、気象情報会社「ウェザーニューズ」だ。

 同社は現在、44もの産業分野に気象情報を提供しており、その顧客は50か国2500社にも及ぶ。千葉県千葉市幕張をはじめオクラホマ(アメリカ)、コペンハーゲン(デンマーク)、アムステルダム(オランダ)、パリ(フランス)、マニラ(フィリピン)、ヤンゴン(ミャンマー)など21か国32拠点で、24時間365日世界の気象と顧客の事業をモニターしている。ウェザーニューズが気象情報を提供している産業分野は、航海、航空、道路、鉄道、輸送、流通、イベント、農業、スポーツ、放送など44市場。一般的に気象情報というと“天気予報”がおなじみだが、ウェザーニューズが提供しているのは単に気象の情報だけでなく「リスクコミュニケーションサービス」だ。

 例えば流通分野では全国のコンビニエンスストア6万8000の店舗に対して、その日の気温や前日との気温差といった情報を提供し、その日の商品の入荷に役立ててもらっている。また、鉄道分野では、これまで観測値が一定のしきい値を超えると徐行や運休といった対応をとってきたものを、予測した気象情報をもとに、徐々に間引き運転をするといった運行計画の調整に貢献している。道路の場合は冬の高速道路で、降雪状況に応じて除雪車の配置や凍結防止剤を散布するタイミングといった推薦も行っている。

 こうしたリスクコミュニケーションサービスのなかでもウェザーニューズの礎業といえるのが「航海気象」だ。現在、航海気象チームは全世界で航行している外航船舶約2万隻のうち約7000隻に対してサービスを提供している。航海においてはなるべく最短距離を航行することが経済的だが、途中に悪天候が予想されれば安全のためにそれを回避しなければならないというジレンマがある。そこでウェザーニューズは、気象の観点から最適な航路と速度(スクリュー回転数)といった情報を、船会社を通じて船舶に提供。この“最適な航路”という情報は、小麦を積んだバルク船なら多少の揺れは許容できても、傷一つ付くだけで商品性が落ちる自動車航送船なら波の穏やかなルートを選ぶといった形で、船の積荷まで考慮した航路の推薦を行っている。

航空機の運航判断支援を担う航空気象サービス

 航海気象と同じくウェザーニューズの大きな情報提供分野となっているのが航空気象である。現在、LCCを含めて日本のほとんど、一日1万3000便もの航空便に対して、気象情報の提供と余剰燃料搭載推薦を行っている。航空機は機体、パイロットと到着地の空港のカテゴリーによって着陸の可否が決まってくる。そのため、目的地の気象条件によっては上空待機や場合によっては他の空港への着陸に備えて余剰の燃料を搭載する。この余剰燃料を航空便ごとに気象条件から算出し、各航空会社の運航管理者と機長に推薦するのがウェザーニューズの役割だ。

 毎日始発便が離陸する前の午前3時半から6時がウェザーニューズの担当チームにとって最も忙しい時間になるという。情報を航空会社に送るだけでなく、テレビ会議や電話でその根拠を説明するなど、気象と共に航空機に関する理解がないとできない。航空会社や航空機に情報を気象提供する事業者はあっても、こうした運航判断までのサポートは世界的に見てもウェザーニューズ以外にはないという。また、こうした情報の提供のほかに、リアルタイムに航空機のパイロットからのレポートを受け、それを分析してそのほかの航空機に情報を提供するなど、エアラインにとっては欠かせない存在となっている。

航空気象チームの運営の様子

 こうしたエアラインの航空機以外にも、警察、消防、防災関係機関やドクターヘリ、それ以外のVFR(有視界飛行)の航空機の位置を把握し、ライブカメラ、雲画像、雨雲レーダーなどの情報を見ながら、飛行ルート上の天候の変化といった情報を、各運航会社・団体を通じて提供している。また、2013年5月からはドクターヘリに対して運航動態管理サービス「Flight Watch」をスタート。ウェザーニューズが開発した動態管理システム「FOSTER-CoPilot」を搭載することで、ヘリコプターのリアルタイムな飛行位置と気象情報を確認することが可能となった。今後はこのFOSTER-CoPilotをドローンに搭載することで、有人機・無人機を同時に監視できる運航管理システムの実用化を目指している。

ドローンの運航判断を支援する高精細気象予測システム

 こうしたウェザーニューズがこれまでに培ってきた気象情報サービスの技術のノウハウを生かして2018年11月から始めたのがドローン向けの高精細気象予測システムだ。もともとウェザーニューズとKDDIは、スマートドローン構想がスタート時から協業してきたが、このシステムはKDDIが今年3月から提供しているスマートドローンプラットフォームで利用可能になるというものだ。

 システムはKDDIが運用する全国3000カ所の携帯電話基地局に設置してある気象観測装置「ソラテナ」と、ウェザーニューズが全国1万カ所で収集している観測データをもとに、高度10mごと、250mメッシュで、飛行運航予定日時の気象予測を提供する。上空150mまでの風向・風速を10分間隔で予測し、離陸のタイミングの判断に必要となる一時的な風の強まりや、地形的な風の収束エリアまで細かく表現できるため、悪条件を回避する最適な運航判断支援への活用が期待されている。

 気象条件の悪いエリアを迂回するためには、通常のルートよりバッテリーの電力を多く消費することになるためなるべく避けたいところ。このため、本システムはなるべく迂回を最小限にとどめる飛行可能ルートの選択肢を多く提供するという。こうした機能はウェザーニューズがこれまでに行ってきた航海気象や航空気象といったサービスのノウハウが生かされているといえる。現在はKDDIのスマートドローンプラットフォームを通じて、おもに長距離飛行が必要となる物流やレスキューといった分野でこのシステムが利用されているが、今後は例えば農薬散布で風予測により区域外への農薬飛散を防ぐといった形で、測量や点検といった分野などにもその利用を広げていくという。