DJI JAPANは6月26日、東京都内で教育用ロボット「RoboMaster S1」の報道関係者向け体験会を開催した。6月12にDJI JAPANが発表したこのRoboMaster S1は、これまでドローンや撮影用機器を扱ってきたDJIにとって初めての地上走行型ロボットとなる。この日の体験会にはRoboMasterS1の日本発売と同時に発表された、ロボットプログラミング教育カリキュラムを提供するCOMPASSの木川俊哉氏と、今回の体験会の会場となった武蔵野大学付属千代田高等学院のラムジー・ラムジー教諭、そしてフリーランスのソフトウエアエンジニアでもあるタレントの池澤あやかさんがゲストとして登壇した。

ロボットコンテストから生まれたRoboMaster S1

 RoboMaster S1は4つのメカナムホイールを備えた地上走行用ロボットで、シャシーの上にはジンバルを介してブラスター(発射機)とカメラを搭載している。車体各部には31個のセンサーを搭載しており、このセンサーから情報をもとにさまざまな動作をさせることができる。Wi-Fiで接続したタブレットの専用アプリで遠隔操縦できるほか、アプリ内でプログラムを行いその指示に従って移動や動作をさせることが可能だ。

DJIの教育用ロボット「RoboMaster S1」。製品は40以上のパーツに分解された状態で提供され、ユーザーが購入後、自分自身の手で組み立てることでロボットへの理解を深める狙いがある。

 RoboMasterS1の“S1”は“Step1”の略で、これからロボット工学やAI、エンジニアニングを目指す人に、誰でも簡単にプログラミングに取り組めるようにというのがコンセプト。そのため専用のRoboMasterアプリを使って、簡単にプログラミングを行い、RoboMasterS1を動作させることができる。このアプリはiOS、Android、Windowsに対応しており、Scratch3.0とPythonをサポート。さらに、ユーザーの習熟度に応じて利用できる「カスタムスキル」「マスターへの道」「ロボアカデミー」といったメニューやチュートリアルが用意されている。

ジンバルにはゲル弾・赤外線ブラスターとFPVカメラ、通信ユニットが搭載されている。
車輪の表面に12個の樽(バレル)が付いたメカナムホイールと装備。車体後部には6つのPWM制御ポートがあり、サードパーティ製ハードウエアを追加できる。

 RoboMaster S1の名前は、DJIが2013年から中国で毎年開催している次世代ロボットコンテスト「RoboMaster」にちなんだものだ。この大会は世界中から2万人の学生、400校以上の参加があるといい、日本からも2018年から高等専門学校、大学、企業の連合チーム「FUKUOKA NIWAKA」が参加。このチームを支援するニワカソフトは、DJIが運営するRoboMaster委員会と共同でRoboMaster日本委員会を設立し、2020年に開催される「RoboMaster2020」の出場枠をかけた日本地区予選を開催することにもなっている。

RoboMasterはDJIが推進しているロボット技術プロジェクト。その中心となる対戦型のロボットコンテストには、参加者がオリジナルのロボットで参加する。

今夏からRoboMaster S1を使ったロボット教育プログラムを提供

 プレゼンテーションの前半は、COMPASSの木川氏がデモンストレーションを行った。COMPASSはこれまでタブレット教材「Qubena」やオンライン家庭教師サービス「Qubena Wiz」を提供してきたが、このノウハウを生かしてRoboMasterS1を使ったロボット教育プログラムを開発し、この夏から提供を開始するとしている。そのテストケースとして直営塾Qubenaアカデミーで、中学生と高校生4人を対象にRoboMaster S1を使ったプログラミングのワークショップを実施。その内容と参加した中高生の反応を紹介した。

木川俊哉COMPASS未来教育部部長。

 このワークショップでは自動運転をテーマに、導入、実践、まとめという3段階を追って参加者に理解を深めてもらうというのが狙い。2番目の実践のステップではRoboMaster S1のライントレース、信号検知、車体検知、自動追従という課題を、参加者が自分の手でプログラムを作ってクリアしていった。

木川氏が実施したワークショップの様子。参加者の中高生は自らの手でプログラムを書き、与えられたミッションに取り組んだ。

 木川氏によるとRoboMaster S1に初めて触れた子どもたちの反応は非常によく、特にRoboMaster S1の機動性やそのルックスが興味を引いたのではないかと考察。また、「プログラムのUIやUXが非常に優れており、生徒もすぐに慣れて使いこなしていた。今後教材として使うのにとてもいい」と評した。

「かわいい!」という高校生の反応がプログラミング教育の入り口に

 続いて今回の体験会場を提供した武蔵野大学付属千代田高等学院のラムジー氏が登壇。RoboMaster S1の高校教育での活用について語った。

ラムジー・ラムジー武蔵野大学付属千代田高等学院数学(IB)・情報教諭。

イギリス・ロンドン出身のラムジー氏は、キングス・カレッジ・ロンドンで情報科学教育のマスターを取得し、現在は武蔵野大学付属千代田高等学校で主に情報科学と数学を教えている。RoboMaster S1をラムジー氏が教えている生徒たちの前で披露したところ、「『スゴイ!』『かわいい!』というのが第一印象で、生徒たちは非常に強い興味を抱いた」(ラムジー氏)という。

 情報科学教育で基本的なインプット・アウトプットということを教えるために、このRoboMaster S1はいい教材であるというラムジー氏。さらに論理的問題を解決するのに「大きい問題を小さい問題に置き換えながら、技術的な問題を解決するのが情報科学の主題であり、ロボットを学ぶことは論理的な頭を作ることができる」と説明する。

情報科学教育という観点において、RoboMaster S1はカメラ、センサー、スピーカー、モニターといったものを通じて、インプットとアウトプットについて学ぶことができるとラムジー氏。
RoboMaster S1はブロックのスクラッチ3.0とテキストのパイソンでプログラムすることができる。

 さらにプログラミング教育という観点では、RoboMaster S1がブロックとテキストが使えることを評価。ラムジー氏としてはブロックでプログラミングの基礎を覚えたら、なるべく早くテキストに取り組んでほしいといい、教師次第でより深い学びができると紹介する。今後ラムジー氏は、「ロボット同士の対戦」「レーシングルートの最適化」「脱出ゲームを作ること」というプログラミング教育の3つのテーマに取り組んでみたいと締めくくった。

ラムジー氏は今後、3つのテーマでRoboMaster S1によるプログラミング教育を行っていきたいと語った。

RoboMasterアプリによって誰にでも簡単にプログラムが組める

 後半は“プログラムができるタレント”として知られる池澤あやかさんが登壇。自らの手でRoboMaster S1の箱開けから組み立て、そしてオリジナルのプログラムを書いた体験を、この会場でのデモ走行を交えて披露した。

フリーランスのソフトウエアエンジニアでありタレントの池澤あやかさん。

 RoboMaster S1を2時間ほどかけて組み立てた池澤さん。会場で披露された、その時の様子を収めたムービーはYouTubeにあるDJI JAPANのチャンネルにも上がっており、この中では「一から組み立てることで、ロボットの構造を知ることができる」と語っていて、会場でも「組み立てのところからロボット工学を学べるので教育にいいと思う」と語った。

 さらに、「テキストのいいところはただ書いてあるだけでなく、動画などを使ったビジュアルがわかりやすく、また、メカナムホイールがどういうものか、どう回転するとどう走るかといったことが丁寧に書かれていて、ロボットを基礎から学べる」と評した。

池澤さんはRoboMaster S1に付属のマーカーを使って4つのプログラムを作成した。

 今回の体験では「マーカーを自動認識してペットに芸をさせるようなプログラム」を書いたという池澤さん。「ピンクに光って回転する」「マーカーを中心に車体を左右に振る」「マーカーを追って走る」「自分の写真を撮ってくれる」という4つの動作をプログラミング。「ブロックでプログラムできるので、割とスイスイ組むことができた」という。

DJI JAPAN RoboMaster S1体験会その1

自らプログラム作成したプログラムを会場で披露する池澤あやかさん。

 プレゼンテーションが終わると、会場を体育館に移し、参加した関係者がレースモードと対戦モードの体験をはじめ、実際にRoboMaster S1を手にして、その機能や性能を確かめることができた。

DJI JAPAN RoboMaster S1体験会その2

プログラムを組むと、床に引かれた線に沿って走行することができる「ラインフォロー」機能。

DJI JAPAN RoboMaster S1体験会その3

RoboMaster S1アプリを使えば、アプリ上のUIを操作するだけでなく、タブレットを動かすことで、RoboMaster S1のブラスターを上下させたり、車体を回転させるといった操作ができる。

DJI JAPAN RoboMaster S1体験会その4

ゲル弾がブラスターから発射される様子。RoboMaster S1には「インテリジェントボディーアーマー」として6つのセンサーを装備しており、ゲル弾の被弾を検知することができる。

DJI JAPAN RoboMaster S1体験会その5

レースモードを使って設定されたコースを2周回り、その着順を競う模擬レース。
ゲル弾はもともと直径2mm程度の玉で、水に漬けておくことで6mm程度に膨らむ。
着弾すると砕け散る程度の硬さで、対象物を傷つけにくいように配慮されている。

DJI JAPAN RoboMaster S1体験会その6

赤外線ブラスターを使って行われた対戦モードによるゲーム。被弾したRoboMaster S1は発光部を赤く点滅させながら回転する。