2018年度から本格的に始まったレベル3の“補助者なし目視外飛行”。商用レベルで長距離を飛行するドローン物流を行うには欠かせない要件ではあるが、同時にこのレベル3やレベル4の飛行に必要不可欠なのがUTM(ドローン運航管理システム)である。

 ドローンの飛行位置を把握し、ドローンに対して周囲のドローンや有人機の位置や移動速度・方向、さらには風や天候といった気象情報を与えるUTMだが、このUTMの開発で日立システムやNTTデータといった大手システムベンダー各社のなかで、KDDIのスマートドローンプラットフォームの一翼を担うなど存在感を増しているのが「Terra UTM」を手がけるテラドローンだ。そんなテラドローンの“今”を、同社代表である代表取締役社長である徳重徹氏に聞いた。

世界20か国以上に支社や現地法人を展開

 テラドローンではこの「Terra UTM」のほかにも、測量用ソフト「Terra mapper」や屋根点検ソリューションの「Terra Roofer」といったドローン関連のソリューションのほか、独創的なレーザー測量ドローン「Terra Lidar」など、産業向けのドローンソリューションを幅広く手掛けている。こうしたソフト・ハードの開発の一方で、2016年3月創業以来同社の事業の大きな柱となっているのが、測量や点検といったドローンを使ったサービスである。

 テラドローンでは写真やレーザーを使った土木測量や森林測量、橋梁や鉄道などのインフラ点検、そして石油やガスプラント、パイプラインなどの設備点検を実施。また2019年3月には風力発電向けブレード点検サービスを開始している。さらに、そこで得たノウハウをもとに、低コストのレーザー測量システム「Terra Lidar」を開発し、2019年1月から販売を開始するなど、ソフト・ソリューション・ハードとテラドローンは多角的にサービスを展開している。

 さらにこうした事業を日本のみならず、スピード感を持って世界に展開するのもテラドローンの強みだ。2016年11月にはUTMで世界のリーディングカンパニーであるベルギーのUniflyに約5億円を出資して筆頭株主になった(2018年12月にはさらに追加出資)。さらに同年末にはオーストラリアに子会社を設立している。「テラドローンを作って半年後にはもう僕が世界を回りはじめた。そこで市場として目を付けたのがオーストラリアだった。オーストラリアには資源採掘、鉄道、パイプラインといった分野で需要があり、競争相手も少なかった。そこで月に二人のペースで人材を派遣して、市場開拓を行った」(徳重氏)という。しかし「オーストラリア人は、ドローンのような新しいものをなかなか取り入れたがらない」(徳重氏)ということもあり、最初のオーストラリア市場進出は、半年ほどで撤退を余儀なくされる。

 しかしその一方で、テラドローンの世界展開はアジアやアフリカにも進出。2017年3月にインドネシアに支店を設立し、アジア全域を視野に入れたODA案件における三次元測量・解析・モデリングの支援を行う事業を開始。さらに2018年11月には南アフリカに支社を作り、資源採掘向けソリューションの展開を始める。南アフリカは金やダイヤモンドといった鉱物資源採掘の盛んな国であり、地下の坑道という非GPS環境下でも飛行できるドローンを使った地下マイニング技術を展開している。

 また、2018年11月にはヨーロッパを中心に産業向けドローン関連サービスを提供するオランダのSkeyeを買収。オランダ、イギリス、ベルギーに拠点を持つ同社をテラドローンの欧州拠点として、石油業界を中心にサービスを提供している。さらに2018年から2019年春にかけて矢継ぎ早にオーストラリアのUAVサービス企業C4D Intel、インドネシアのAeroGeoSurvey、ロシアのUnmanned Technologyと、次々に各国のドローンスタートアップの買収により現地法人化して世界20カ国以上に支社を設立。同時に2019年2月にはインド市場に進出し、Terra Drone Indiaという現地法人を設立。地形測量、農業、オイルガス 、電力、都市開発、防衛、警備、鉱業、森林管理、災害管理と多岐に渡る事業を展開していくという。

テラドローンのパートナー企業が所在している国は、インド、EU、オーストラリア、インドネシア、ブラジル、アルゼンチン、カザフスタン、南アフリカ、ロシア、アンゴラ、中国、カナダ、オーストラリアなど
南アフリカINCREDIBLE TECHNOLOGIES
ブラジルPlimsoll
インドネシアAeroGeosurvey
EUSkeye,  Unifly, Inkonova,  C-Astral
オーストラリアC4D Intel

2020年度はグローバルで売上高100億円も視野に

 テラドローンの強みは、こうして設立した現地法人それぞれの強みを、他の国に展開するなどして事業を拡大していることにある。そのためには、各国の動向をつかんでおくことが大事であり、日本から代表の徳重氏をはじめテラドローンジャパンの社員が常に世界各国を回って、徹底的に現地の情報を集めて回っているという。「各分野の技術やサービスでトップを走る企業をリストアップし、提携を働きかけて回ることの繰り返し」(徳重氏)だという。

 そうやってテラドローンのグループに引き入れた企業の「現地法人の“インテグレートが重要”」(徳重氏)であり、南アフリカ、ブラジル、アルゼンチン、サウジアラビア、UAE、スウェーデンの拠点には日本から派遣した社員を駐在させている。2019年はこうした世界各国の拠点のマネジメントに注力するとしており、3月初旬には世界21か国に展開するグループ会社の幹部を日本に集めて、テラドローングループの世界会議を開催。テラドローンの最新技術や経営方針の説明だけでなく、ビジネスのビジョンやカルチャーの移転や、各国の拠点間の意見交換を行った。
「グループに入れた企業の多くは中小企業であるため、経営戦略やスピード感に足りない部分がある。そこを管理するというよりマインドセットすることが大事。そのため日本人スタッフが定期的に世界各国のブランチに足を伸ばし、スピリットを鼓舞して回っている。また、逆に世界のメンバーを日本に集める世界総会は、年に1回はマスト、できれば半年に1回は開催していきたい」(徳重氏)。

テラドローングループの売り上げ実績と目標 (出所:テラドローン提供データをもとに編集部作成)

毎日のように海外企業アポを取って会いに行くスピード感

 現在、テラドローンがグローバルに展開する中で特に力を入れているのが、送電網と資源採掘、オイル&ガスのパイプラインとGISといった分野である。いずれの産業分野においてもドローンの運用には目視外飛行が効率面やコスト面においても欠かせない。「例えばロシアでは送電網で3万5000km、オイル&ガスのパイプラインで3000kmという途方もない距離の点検に固定翼機を使っており、こうした長距離飛行にはUTMが欠かせない技術となる」(徳重氏)という。また風力発電はアメリカ、中国に次いでドイツに市場性を見込んでおり、今後力を入れていくという。また、世界に20社以上の支社・現地法人があるが、このうち8社は技術開発企業である。この8社ではUTM、機体、地下資源採掘、風力発電、石油といった分野でのハードとソフトの開発を行っている。

 こうしたサービスに対して技術開発こうしたグローバルな展開を見せるテラドローンではあるが、もちろん日本でのビジネスにも着実に広がりを見せている。特に2018年9月に販売を開始した屋根点検ソリューション「Terra Roofer」は、IT導入支援補助金の対象製品となっていることもあって好調だ。また、2019年1月に発売した「Terra Lidar」も多くの引き合いがあるという。

 このように日本を拠点に他にないスピードでグローバルに展開するテラドローン。2018年度に27億円という現在の売り上げは、さらに拠点が増えることも考慮すると、「2019年度は100億も視野に入ってきている」(徳重氏)という。その強みはグローバルに張り巡らせたネットワークから得た情報と意思決定の速さ、そして世界中の拠点で毎日数社にアポイントを取って会いに行き、ビジネスチャンスをつかむ行動力にあるのは間違いない。