──2024年にはスクールも開校されました。
北村氏:お客様からご要望もありましたし、せっかくなら我々だけが持っているノウハウを活かしたコンテンツにしようと考え、かなり作り込んで設計しました。ドローンを飛ばせることではなく、「業務で使えることがゴール」なので、現場の特徴に応じて、どんな環境でどんなデータをどうやって取得できるのかであったり、AIも含めたデータの利活用なども伝授しています。卒業生もすでに多くの方が現場で活躍されています。
──御社の案件で活用される機体はDJI製品が多い印象ですが、国産ドローンやナショナルリスクについてはどうお考えですか?
北村氏:当社では、用途やプロジェクトの要件に応じて最適な機体を選定しておりますが、現時点ではDJI製品を採用するケースが多いのは事実です。その理由として、価格に対する性能の高さや、機体・ジンバル・ペイロードなどが自社開発で、垂直統合しているのでシームレスに動きます。現場での運用においても非常に扱いやすい点が挙げられます。例えば、人が行けないような場所を点検して、3か月後や6か月後に変化点を見つけるといった我々のお客様の業務では、「同じルート、同じ角度から、同じ倍率でデータ取得する」などの機能を、再現性高く現場で手軽に使いこなせることが求められます。国産メーカーの機体でもこうしたニーズに対応する技術力は十分にあると認識していますが、ジンバルやカメラとの連携においては、開発の難易度が上がってしまうケースもあるようです。この辺りは国産ドローンメーカーさんと連携しながら、そういった課題に一緒に取り組んでいます。
ナショナルリスクについては、いまのところは想定以内に収まっています。お客様からも、ナショナルリスクについて言及されることはありますが、以前と比較すると関心はやや落ち着いてきた印象です。
「コンパクトシティ」と「AIと協調する未来」
北村氏:その観点でお話すると、物流分野でも補助金による支援が進んでいますが、持続的なモデルづくりが重要だと考えています。インフラ系のさまざまな業界で社会課題に対峙してきたプレイヤーとして感じるのは、「電気、水道、ガス、その他エネルギー、道路、橋、あらゆるユニバーサルサービスを、これまで通りの形で提供し続けることに限界が見え始めている」ということです。人口減少が続く日本において社会インフラを維持するためには「選択と集中」が避けられない状況にあると感じています。そうした中で、「コンパクトシティ化」は、非常に有効な選択肢のひとつではないでしょうか。
──インフラの維持保全については、定期的にしっかり点検して予防保全を行っていくところと、そうではなく事後に対応するところのメリハリをつけるべきだということでしょうか。
北村氏:そうですね。メリハリをつけていかなければ、限られたリソースを分散させてしまいます。「このままでは立ち行かなくなる」という危機感を抱いているお客様も少なくない印象です。
我々としては、当社のソリューションを活用したビッグデータ解析をしっかりと続けることで、頻繁に点検したほうがよいエリア、頻度を落としても大丈夫なエリアと、明確に棲み分けできるようになると見ていますので、将来的には規則を改定する際のファクトとして活用いただくということも視野に入れて、エビデンスになり得るレベルでの数値化にはこだわっています。
──そうなるとAIの活用が鍵になってくるかと思いますが、いまどんな技術やトレンドに注目されていますか?
北村氏:我々は、「AIと協調した1日」という未来をデザインしています。例えば、朝の工事計画や申し送りの確認は現場情報管理アプリで行い、作業前チェックやKY(危険予知活動)はペーパーレスで対応。点検もドローンやロボットと連携した点検アプリを使って効率的・安全に実施されます。その後、取得データをAIが自動で分類・分析し、点検記録としてまとめ、作業確認や課題管理もアプリで一元的に行う、といった業務全体のデジタルワークフローの実現を目指しています。
その中で、依頼や指示は秘書型AIエージェント、過去データの参照は専門家型AIエージェント、自動化はエッジAI、ペーパーレスでのレポーティングもAIが自動で生成・共有することで、こうしたアウトプットができるだけリアルタイムで各ステークホルダーに行き渡る、そのような仕組みをイメージしています。
プロセス全体が有機的につながり経路依存性の問題を超えて大きなインパクトを出すためには、業務全体のデジタル化が不可欠なので、ドローンやロボットを活用した点検ソリューションの「周辺領域」もしっかりカバーしてデジタル化できるよう、生成AIも積極的に活用しながら、究極的にはワンタッチ、ツータッチで使えるほどシンプル化も図っていきたいと考えています。
──その結果としては、どのような効果を狙っていますか?人間が解雇されるのではないかという不安を抱く方も少なくないと思います。
北村氏:中部電力パワーグリッド様との取り組みは分かりやすい事例なのですが、ドローンを使うことで送電設備の点検時間が15分の1に削減できました。また、AIによる画像解析を活用したリアルタイムでの異常検出も実現しています。その結果、落下や感電などのリスクがある鉄塔全てに登る必要がなくなり、本当に人間が登って目視点検するべき鉄塔を割り出すことができるというわけです。我々がAIを活用して行っているのは、「人の経験値が生きるところをスクリーニングする」という作業です。つまり「選択と集中」において、「集中しなければいけない領域を割り出すこと」なのです。人間の仕事は、業務内容が変わるところは生じると思いますが、より生産性が高くリスクの低い仕事に集中できるようになるはずです。
──確かに、AIの効果はコスト削減だけではなく、人間の仕事を見直す「余力が生まれること」になりそうです。こうした「発想の転換」は、今後のAI活用の鍵になってきそうですね。
北村氏:そうなのです。お客様が求めるコスト削減、効率化、作業員の方の安全確保といった効果は、しっかりと出せると証明できたので、「いままでやりたくても、できなかったこと」や「人にはできないから、これまで考えもしなかったこと」「タイミング的に無理だと諦めていたことができる」など、プラスの価値を数値化していくことにも、もっと目を向けていきたいと思います。
──ハードウェア側の進化として注目している技術やトレンドもありますか?
北村氏:我々も取り組んでいるところですが、GPS環境と非GPS環境をシームレスにつなぐ機能ですね。すでに実現されている部分もありますが、より高度な技術を各社必ず出してくると思っています。
今後の方針やグローバル展開の可能性について
──グローバル展開の可能性はあるのでしょうか?
北村氏:グローバル展開は、すでに一部手がけており積極的に展開したいと考えておりますが、我々が単体で展開していくということはないと思います。協業させていただいているお客様が、すでに成立しているソリューションを海外に展開するということがあれば、我々も一緒に検討していきたいです。
──最後に、今後の方針について教えてください。
北村氏:そのためにも、まずは先ほどお話した「AIと協調する1日」のような、お客様のビジネスプロセスを全てカバーしたDX推進を行い、業務アプリケーションとして成立させられるよう、引き続き注力したいと考えています。
また、これからも「CSV経営」は続けていきます。業界内はもちろん、業界をまたいだ横展開も進みつつあるのですが、広げすぎるとリソースが分散してしまいますので、最終的には「CSV経営を守る」という判断になると思います。
ドローントップリーダーが考える企業戦略
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