2025年3月17日、日立システムズは、単木単位で森林の情報を可視化する「森林調査DXサービス」の提供を開始した。ドローンを活用して樹種やサイズ(樹高、胸高直径、立木幹材積)(※1)、CO2固定量(※2)などを可視化する。
ドローンやAI解析ソフトウェアを活用することで、人が実際に森林に入るよりも短期間で安全かつ安価に調査が可能。林業事業体の人手不足などの課題解決に貢献する。また、カーボンニュートラルの実現に向け、長期的な森林管理の計画に寄与するとともに、将来的に創出できるカーボンクレジット量の推定にも活用できる。
※1 樹高、胸高直径、立木幹材積:樹木の高さ、およそ胸の高さでの幹の直径、幹の体積。
※2 CO2固定量:樹木が成長する過程で吸収し、固定する二酸化炭素の量。
2019年に施行された「森林経営管理法」に基づく森林経営管理制度(※3)やカーボンニュートラルの推進などに伴い、適切に整備されていない森林への間伐や保全活動が活発化している。日本は2050年カーボンニュートラルの実現を公約に掲げており、その実現のためには「カーボンクレジット(※4)」の活用が欠かせない。森林由来のカーボンクレジットを創出するには、長期的な森林管理を計画する必要がある。
その準備作業として森林調査は多くの場所で必要とされているが、人が立ち入る調査には労力や時間、コストがかかり、傾斜地では転倒や滑落の危険性もある。高齢化や人手不足の中、素早く、安全かつ安価に森林調査を行う方法が強く求められている。
※3 森林経営管理制度:手入れの行き届いていない森林について、市町村が森林所有者から経営管理の委託(経営管理権の設定)を受け、林業経営に適した森林は地域の林業経営者に再委託するとともに、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理(市町村森林経営管理事業)をする制度。
※4 カーボンクレジット:企業等が省エネルギー機器導入や森林の保護・植林などを行うことで生まれたCO2などの温室効果ガスの削減効果(削減量、吸収量)をクレジット(排出権)として発行し、他の企業などとの間で取り引きできるようにする仕組み。
実証実験について
サービス提供に先立ち、宮城県女川町や北海道芦別市などで実証実験を行った。
宮城県女川町では、人が立ち入る調査で19人日ほど森林調査に時間がかかる場所でも、ドローンとAI解析ソフトウェアを活用した場合は4人日程度で調査が可能で、業務工数の約8割を削減した。北海道芦別市では、本州の主要な人工林であるスギやヒノキ以外の樹種においても9割以上の精度で樹種識別できることを確認した。
このサービスによって取得できる森林情報は、長期的な森林管理の計画に寄与するとともに、将来的に創出できるカーボンクレジット量の推定にも活用できる。
サービスの概要・特長
これまで森林組合と協業してきた日立システムズが持つ森林調査のドローン活用やデータ加工、解析に関する知識やノウハウを活用し、調査時間の短縮やそれに伴う人的コストの削減、森林情報可視化による森林所有者への施業提案の容易化などに貢献する。
森林内に入らず植生状態を解析
単木単位で樹種やサイズ(樹高、胸高直径、立木幹材積)、CO2固定量を推定できる。現地情報を一部入力することで主要な人工林ではない樹種にも対応可能なほか、林地の材積生産力を示す「地位」の特定作業にも活用できる。
ドローン測量も含めたワンストップでのサービス提供
森林の解析作業だけではなく、顧客の要望に合わせてドローン測量も含めたワンストップでのサービス提供が可能。写真測量のほかLiDAR(※5)を利用したドローンレーザー測量にも対応しており、森林内の作業道や微地形なども捉えた高解像度な地形図の提供や、J-クレジット制度におけるモニタリングに活用可能な解析ができる。
※5 LiDAR:レーザー光を照射し、その反射光が戻ってくる時間の情報をもとに対象物までの距離や形などを計測する技術。J-クレジット申請のためにドローンを活用する場合は、LiDAR搭載ドローンを活用する必要がある。
なお、AI解析ソフトウェアを提供するDeepForest Technologiesは、3月12日に日立システムズと最上位の特約店として提携契約を結んでいる。
今後日立システムズは、地方公共団体や森林組合などの林業事業体を中心に、企業や団体へのサービス提供を行うとしている。また、カーボンクレジット創出から取り引きまでの支援や海外展開を目指し、サービス内容の拡充を図っていく。