10月に北海道札幌市内で開催された「第3回ドローンサミット」の2日目。「これから有望なドローンビジネス」というテーマで、特別セッションが行われた。内容は、講義、ピッチ、パネルディスカッションなどの4つだ。本企画の主催者は、福島県スタートアップのOKUMA DRONE。ステージ全体の進行役は、本誌ドローンジャーナル編集長の河野大助氏がつとめた。

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ドローン白書2024から紐解く「国内ドローン産業の全貌」

 第1パートは、ドローン白書2024(正式名称:ドローンビジネス調査報告書)から紐解く「国内ドローン産業の全貌」。登壇した河野氏は、「2015年にドローン市場の調査を開始し、約2年後にドローンジャーナルを立ち上げた」と挨拶して、ドローン市場の構造やドローンの主な活用分野について説明した。

写真:講演を行う河野氏
ドローンジャーナル編集長 河野氏

 河野氏は、ドローンビジネス市場の規模や内訳、ドローンが果たす役割などの“基礎知識”をおさらいしたうえで、現況をこのように補足した。

「2023年は、点検分野の活用が伸びた。大規模構造物や工場などでも実用化が進んだ。下水道の点検など日本ならではの特殊なドローンや、トンネル内部のドローン点検事例、橋梁の高いところなど、点検分野は構造物ごとにいろいろ動きがある。毎日のように新しいニュースが飛び込んでくる」と、最新事情を数多く紹介した。

写真:河野氏が注目する分野(スライド)

 講義伴走役のドリームベース(北海道札幌市)の和合将学氏からは「これから伸びる市場はどこだと思うか」などと突っ込んだ質問を繰り広げ、河野氏の本音を引き出した。

 河野氏が“2024年普及フェーズ”と見るのは「運搬」分野だという。和合氏は、「当社も実際の工事や災害現場で運搬している。ニーズは増えている」と応じ、河野氏も「今後は4~5倍の市場規模になる可能性がある」と話した。

写真:マイクを手に話をする和合氏
ドリームベースの和合氏

 これから伸びる市場として、「ドローンショー」も話題に上がった。河野氏は、「昨年の市場は約10億円規模、花火大会とのセットが多く見られた。今後もさらに拡大していくだろう」とコメントした。

「物流」については、「輸送、配送は2030年をめどに伸びる」という。河野氏は、「とにかく難しい分野だと思っていたが、全国新スマート物流推進協議会の事例を見て、地域課題を抱える方々が一緒に取り組むことで市場が広がっていく、と考えるようになった」と明かした。

 最後に、河野氏と和合氏は、「いまからはフェーズフリーの時代だ。地域特性に合った分野から、常に使っている人が地域にいて、ノウハウを築いているという状況を作ることが重要だ」とも話し合い、次のパートにつなげた。

社会課題を解決する最新事例4つ

 第2パートは、「これから期待される、社会課題ソリューション」。「建設」「災害」「林業」「農業」の4分野別で、4社がピッチ形式で最新事例を紹介した。こんな新規参入もあり得るのか、と示唆に富むパートだった。

「建設」分野は、アラセ・アイザワ・アエロスパシアル。エンジン搭載型産業ドローンを紹介した。同社はもともと、バクテリアの代謝機能を活⽤した⾃⼰治癒コンクリートなどを先駆的に手がける會澤高圧コンクリートが母体。洋上風力市場への参入を視野に、ドローンとコンクリート3Dプリンターを組み合わせて、空中から建築物を構築するプロジェクトが進行中だという。

写真:講演する鈴木氏
アラセ・アイザワ・アエロスパシアル COOの鈴木健一氏

「防災・災害」分野は、ドリームベース。5年前にドローンスクールをスタートし、ACSL、SONY、Autel、Parrot、DJIと幅広いメーカーの取り扱いおよびサービスを提供している。強調したのは、「普段から飛ばしていれば、災害防災に転用できる。実際に使うことを意識して、まずは私たちが地域の中でドローンを使い、続けて人材を育成していく」ということ。自治体と連携した取り組みも多数紹介した。

写真:業務内容を説明するスライド
ドリームベースは和合氏が引き続き登壇した

「林業」分野は、東光ホールディングス。日本でも林業資源を活用したCO2吸収量を国が認証する「Jクレジット制度」が始まった。2030年までに2013年時点の温室効果ガス(GHG)排出量から46%削減するとの政府目標に対し、GHGの78%は企業や公共事業が排出しており、企業における脱炭素経営やSDGs貢献の重要度が増すなか、「森林資源の見える化」でドローンの新たな活用が広がるという。

写真:講演する伊藤氏
東光ホールディングス代表取締役の伊藤均氏
写真:北海道の主なクレジット創出の取り組み(スライド)

「農業」分野では、OKUMA DRONEが東南アジアのパームオイル農場で行っている大規模農場病気発見ソリューションを紹介し、「ドローン活用の効果を数値できちんと示すことが、ドローンの実用化・普及につながる」と発信した。毎年、農場の約10%が病気被害を被るが、独自のスペクトルセンサーを搭載したドローンの画像解析を導入し、1人が4機のドローンを使って4つの畑を同時進行でセンシングすることで、従来比10分の1のコスト削減、精度の向上も図れた。他の農作物に同技術を転用すれば、世界で約1兆円規模の農業病気被害を削減する可能性があるという。

写真:講演する川口氏
OKUMA DRONE 取締役の川口真史氏
写真:従来手法などとの比較(スライド)

レベル4時代のドローン物流の勝ち筋

 第3パートは、「レベル4時代のドローン物流の勝ち筋」。長期的に見ると、最も市場規模が拡大するポテンシャルを秘めた「物流」分野に特化した議論だ。イームズロボティクス代表取締役の曽谷英司氏と、ベイシスコンサルティング ドローンエキスパートでエアロダインジャパン創業者である伊藤英氏が、パネルディスカッションを行った。

写真:壇上の3人
右から、曽谷氏、伊藤氏。進行は河野氏がつとめた

 1つめのテーマは、主に物流で利用される「機体」について議論した。法規制や認証制度に関する課題、コストと製造に関する課題、部品サプライチェーンの課題などについて議論された。

 曽谷氏は、「物流にはレベル4が必須で、そのためには第一種が必要だが、型式認証制度への適応に苦労するほか、自動車や飛行機のように部品単位で信頼性を担保できないため、現状では飛行テストするしかなく、製造コストも跳ね上がる」と話した。

 伊藤氏が、「深圳(中国)ではもうかなり安い」というと、曽谷氏は「せめて軽自動車よりは安い100万円程度を目指したいが、製造台数を3桁あげないと難しい」と説明した。

 一方で、「部品のサプライチェーン全体が底上げできないと機体は安くならない」ことも話題に。「業界全体でモーターやバッテリーの規格を統一し、世界で戦えるような部品メーカーさんに参入していただきたい」「アメリカではNDAAがあるため、サプライチェーン全体が頑張っている」などの意見もあった。

写真:壇上の伊藤氏と曽谷氏。聴講する人々。
会場後ろには立ち見、隣のデスクエリアから聴講する人も多く、「物流」分野への注目度の高さがうかがえた

 次にドローンの運用コストや、自動運航やAI活用、遠隔オペレーション、1対多運航への広がり、それとともに複雑化する責任の所在などについて議論された。

 曽谷氏は、「レベル3.5のおかげで、レベル3の運用においてはコストが下がりつつある。レベル4でのドローン運用では墜落事例も少ないことから
落とした実績のデータが少ないため、ドローン保険も高いまま。データを大量に取っていかないと、最終的に安全に飛ぶ世界は構築できないのではないか」と話した。

 伊藤氏も、「落ちた時にオペレーター問題なのか、自律制御しているソフトの問題なのか、ハードの問題なのか、そこをブラックボックスにしないで、誰がどう責任を取るのかという議論をしていかなければいけないと思う。レベル4は1対多運航になる前提で考えないと」と見解を示した。

 しかし、現状の型式認証制度において、AIの自律飛行はまだ不明確な部分も多いという。自動運転車におけるガイドライン整備とは進度がかけ離れているようだ。これについて、「遠隔オペレーションの責任者を育てる自律飛行の訓練、マニュアル、技能証明も必要だ」などの意見が出された。

 このほか、「認定UTM制度」にも話題は広がり、伊藤氏は「日本の1対多運航の操縦の部分はかなり遅れている。海外では2015年の段階で50機同時に飛ばしているので、特区ではそういう世界を期待したい」と述べた。

絆特区の長崎と福島の事業展望

 ラストの第4パートは、「絆特区でこれから何が起きるのか」。福島県次世代産業課の大須賀智康氏と、長崎県企画部デジタル戦略課の中尾ひかる氏が登壇した。

写真:壇上の3人
右から、福島県次世代産業課の大須賀智康氏、長崎県企画部デジタル戦略課の中尾ひかる氏、河野氏

 福島県は、「福島イノベーション・コースト構想」で定めた6つの重点分野において、産業集積や人材育成などを目指す。具体的には、ドローンのオンデマンドサービスができるよう規制の合理化、全国に展開できる利用モデルの策定を目指す。

写真:福島イノベーション・コースト構想(スライド)

 長崎県は、「空飛ぶ未来を拓くドローンワールドプロジェクト」を今年度より新設し、各産業分野を所管する部署との横の連携を強化することで、ドローン活用の裾野をより広げていく。各分野における課題の掘り起こしと、人材育成によるオペレーターの供給も目指す。

写真:(新)空飛ぶ未来を拓くドローンワールドプロジェクト費(スライド)

 離島が多い長崎県と、山間部の多い福島県。環境は違えど共通する課題もある。特区ならではの連携した成果が待ち望まれている。

 第3回ドローンサミット、そして本特別セッションを通じて、「地域性」と「分野別」との「かけ合わせ」から、分野別にドローン活用がどう進んでいくのか、解像度が上がったという人も多いのではないだろうか。リアルでしか聞けない話もたくさんある。次年度以降のサミットにも大いに期待したい。

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