万博での実機披露に向けて機体開発を進めるSkyDrive

 行政からの情報発信に続いて、空飛ぶクルマの事業を手がけるSkyDriveが「空飛ぶクルマ実装に向けたSkyDriveの挑戦」と題し、エアモビリティ事業部国内事業開発チーム西日本エリア担当マネージャーの小谷達哉氏が、主に国内における事業展開の状況を紹介した。

SkyDrive エアモビリティ事業部 国内事業開発チーム 西日本エリア担当マネージャー 小谷 達哉 氏

 SkyDriveは創業から5年目を迎え、これまでに5つの機体を開発している。最新の「SD-05」は2人乗りで2021年10月に国土交通省より型式証明の申請が受理され、万博で実機が披露される予定だ。さらに機体性能をアップデートし、2031年以降に3人乗りの自動運転で飛行距離を40kmまでに伸ばすことを計画している。

これまで5つの機体を高速で開発してきた。

 本社は愛知県豊田市にあり、製造に向けてはトヨタではなくスズキと基本合意を結んでいる。万博の空飛ぶクルマ運航事業者の一つに選定されており、今年1月には兵庫県と空飛ぶクルマの実現に向けた連携協定を締結した。また、今年7月にベトナムの2社と計200機のプレオーダーを合意しており、同月に米国サウスカロライナ州における事業を本格的に始動するなど、その勢いは海外へも広がっている。

 そうした動きに対し小谷氏は、ビジネス界で空飛ぶクルマについて語られ方が変わってきていると指摘する。これまでは移動の課題を解決することが主眼とされていたが、現在は都市部の課題を解決するツールとして捉えられているという。スマートシティにおけるMaaSやGX(Green Transformation)の取り組みとも関連づけられ、夢の乗り物から移動価値を高めるという視点でのデザインも始まっている。

 特に注目されるのは、目的地へダイレクトにアクセスができるホスピタリティサービスとしての価値で、渋滞や混雑を気にせず短時間で快適にアクセスできるホスピタリティチケットとしての販売がビジネスとして見込まれている。距離にしても都市部であれば往復30kmの飛行ができればカバーできる範囲としては十分だと考えられる。

 現在、兼松と共に神戸市内のウォーターフロントに離着陸場の設置を検討する調査を行っており、神戸を中心とする空飛ぶクルマのネットワーク構想を目指している。

移動の質を高めるホスピタリティチケットのビジネスが注目されている。

 その上で現時点でのボトルネックとして、規制や制度の対応、航路の実現性やインフラ設備の要件、産業として盛り上げていこうとする流れができていないことを課題として挙げている。事業規模も大きいことから公的資金の導入も不可欠であり、業界をまたいだ連携や協業を通じてそれらの課題を乗り越える必要があると参加者に訴えかけた。

海外製機体を導入し運航事業の展開を目指す丸紅

 最後に登壇した丸紅航空宇宙・防衛事業部航空第三課課長の吉川祐一氏は「飛ぶクルマ社会実装に向けた取組について」と題し、同社が手がける海外での事業を2つ事例として紹介した。

丸紅 航空宇宙・防衛事業部 航空第三課 課長 吉川 祐一 氏

 一つは英国Vertical Aerospaceの「VX4」に関する事業で、2026年に国内でも型式証明を取得することを予定している。丸紅では今年1月に25機分の購入予約券を取得しており、万博の空飛ぶクルマ運航事業者に選定されていることから、万博での飛行も予定している。

 初期のプロトタイプはプロペラのチェックで不具合が生じたが、2代目で設計がすでに変更されており、運用開始時期は予定どおり進められている。500mの上空で騒音が50dB以下とノイズが少ないことから、都市部の飛行や観光にも適している。業務提携内容としては機体購入以外に日本国内における市場調査なども含まれ、サービスそのものを作ることに取り組んでいる。

丸紅では英国Vertical Aerospaceの「VX4」を25機分予約購入している。

 もう一つの米国LIFT AIRCRAFTの「HEXA」は1人乗りのウルトラライト級の機体で、今年3月に大阪市内で試験飛行が披露され大きな注目を集めた(関連記事:https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1185019-2.html)。米国内では独自ライセンスを取得すれば1年間はいつでも乗ることができる。吉川氏自身もライセンスを取得しているが運転は簡単だという。日本国内で同様の運航許可が出せるのかはこれから行政のプロジェクトなどに参画し、実証飛行を重ねながら検討を進めるとしている。

 丸紅ではエアモビリティ業界を形成するエコシステムのうち、運航事業の参画やメンテナンス、パイロット育成、運用アプリ、法整備なども視野に入れて取り組んでいる。特にカギとなるのは電力マネジメントで、これまで航空業界に無かったため新たな視点や事業参入を考える必要があると話す。

エアモビリティ業界を取り巻くエコシステムのうち丸紅が視野に入れている範囲。

 運航事業については2026年から28年にかけて1~3の地域で10機程度を運用するスモールスタートを予定しており、30年までに5地域で25機程度、35年に7地域で40機程度に拡大することを計画している。

 eVTOLのユースケースとしては都市内のエアタクシーをはじめ、離島への移動や湾内輸送ネットワークといった人を乗せる以外の事業も含めて発展させることを検討している。例えばVX4では40分以内に到達するエリアでサービスを行うことを想定しているが、都市内のエアタクシーサービスとしては、神戸の中心である三宮駅から約30分圏内の直線距離で140kmを上限としている。

eVTOLによるエアタクシーのサービス範囲は三宮駅から約30分圏内を想定している。

 観光は初期段階ではビジネスとしての実現性が比較的高く、大阪からクルマで4時間以上かかる和歌山県の宿にヘリで移動するプランをモニタリングしたところ、移動費用が1人当たり往復4万円で8万9000円のプランだったが、人気の宿だったこともあって好評を得られたという。

 こうした空飛ぶクルマの疑似移動体験サービスの提供などで事業に対する期待を高め、話題作りをしていくことは重要であると考えられ、関西方面では万博に向けて体験の機会が増えていくかもしれない。