一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は、設立5周年を記念して、東京大学 伊藤国際学術センター 伊藤謝恩ホールで 『JUIDA創立5周年記念シンポジウム』を開催した。日本における5年間のドローン産業の歩みを振り返り、国/地方自治体・産業界からゲストを呼んで、パネルディスカッションを行った。

JUIDAと小型無人飛行機をめぐる5年間の歩み

 JUIDA創立5周年記念シンポジウムの第一部には、JUIDA理事長の鈴木真二氏が登壇し、5年間の歩みについて振り返った。発表された年表は、以下になる。

JUIDA 5年間の歩み
2014年7月31日JUIDA設立
同年11月JUIDA設立記念シンポジウム開催
2015年1月~5月「無人航空機安全運航ガイドライン」を作成
同年4月22日首相官邸事件が発生
同年4月24日小型無人機に関する関係省庁連絡会
同年12月10日~改正航空法が施行
同年11月安倍首相が「3年以内にドローンを使った荷物配送」を目標に掲げる
同年12月官民協議会が開催
2016年 春JUIDA認定スクール制度スタート
2018年 3月物流ガイドラインを発表

 また、鈴木氏は展示会の実績についても公開した。2016年に開催されたJapan Drone展は、出展企業が118社で、来場者は8,023名だったが、翌年には122社9,603名と増え、2018年に160社11,400名、そして直近の2019年には222社14,861名へと増えている状況が報告された。

 さらに、JUIDAとして16の国と23団体とMOU(Memorandum of Understanding:了解覚書)を提携し、国際的な標準化の策定に取り組んでいる現状も紹介された。

 JUIDAでは、設立の翌年からドローン産業を象徴するキャッチフレーズを提唱してきた。

・2015年ドローン実用化元年
・2016年ドローン活用元年
・2017年ドローン事業化元年
・2018年ドローン物流元年
・2019年ドローン飛躍元年

基調講演に登壇した鈴木真二氏

 鈴木氏は「2020年が産業用ドローンにとってどのような年になるのか、未来を考えるのは難しいが、成功者は自分たちで未来を作ってきた。あるいは、すでに起こった過去を省みて、未来を見据えることで、これからのドローン産業を予見できる」と締めくくった。

飛躍するドローン産業 今後の展望

 第二部では、「飛躍するドローン産業 今後の展望」と題して、ドローンの制度設計を考えるパネルディスカッションが開催された。参加者は、以下の通り。(敬称略)

・モデレーター 鈴木真二
・内閣官房小型無人機等対策推進室 内閣参事官 長崎敏志
・総務省総合通信基盤局 移動通信課長 荻原直彦
・国土交通省航空局 安全企画課長 英 浩道
・農林水産省生産局 技術普及課長 今野 聡
・福島県商工労働部産業創出課 ロボット産業推進室室長 北島明文

 パネルディスカッションの前半では、登壇者が自己紹介を兼ねて経済産業省が公開している「空の産業革命に向けたロードマップ2018」をもとに、それぞれの省庁や担当者の取り組み分野についての説明が行われた。

第二部ではロードマップを中心に各省庁の取り組みが紹介された

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/drone.html

 内閣官房小型無人機等対策推進室 内閣参事官 長崎敏志氏は「我が国におけるドローンの始まりは、不幸な形だった」と切り出し、これまでの国の規制は首相官邸の事件を引きずった歴史であり「いかに変なドローンと問題あるドローンを抑えこむのか」に重点が置かれていたと指摘する。そして、今後は目視外飛行のレベル4を実現していくために、以下の4つの課題を早急に具体化して、飛躍の年にするべきだと主張した。

・機体の安全性の確保
・操縦者の技能管理の強化
・運行管理の確立と安全性の確保
・具体化に向けた機体の技術開発と責任の所在の明確化

 続いて、総務省総合通信基盤局 移動通信課長 荻原直彦氏は「我々の担当はロードマップの電波のところで、力を入れているのは携帯電話の上空利用」だと説明した。携帯電話のネットワークをドローンの飛行に活用するために、これまでは「ひとつひとつのドローンに無線局の免許を出していた」と経緯を振り返る。そして、今後は「IoTの時代に即して、いかに簡単に手続きを済ませて、いろんな方に使ってもらうか」検討していると発表した。さらに、「5Gシステムをローカルで構築できるルール作り」にも取り組んでいると報告した。

 国土交通省航空局 安全企画課長 英浩道氏は、先ごろ改正されたドローンの飛行と運用に関するルールについて触れた。英氏は「新たに追加されたルールでは、飲酒時に操縦しない、飛行前に点検する、有人機が来たら衝突しないような措置をとる、といった項目が追加され、例外なく順守するように求めています」と説明する。

 また、国土交通省への申請件数の推移から、ドローンの利用は増加していると報告し、喫緊の課題は「外国人の観光客による問題が増えている」と指摘し、産業ドローンにおいては「離島や山間部の配送で、補助者なしで飛行する」環境を後押ししたい考えを示した。

 農林水産省生産局 技術普及課長 今野聡氏は、「農業の官民協議会を設立して、本格的な実装を目指しています」と発表した。具体的な活用の分野として、農薬散布と肥料や種の散布に、りんごの受粉、傾斜地での荷物搬送、生育状況のセンシング、そして鳥獣被害への対策、といった目標を掲げた。今野氏は「ドローン用の農薬の登録が難しい現状にあり、農薬メーカーと連携して登録を進めていく目標を掲げています」と説明した。

 最後に、福島県商工労働部産業創出課 ロボット産業推進室室長 北島明文氏が、2020年の春に開所予定の福島ロボットテストフィールドについて説明した。北島氏は「大型ドローンの最初期の試験場としても使えるネットで覆われた施設も完成しました。福島ロボットテストフィールドの特長は、テストのための場所なので、墜落も考慮しています。操縦が未熟でもさまざまな飛行データを収集できる環境が整っています」と紹介した。

 各省庁の最新の取り組みについての説明が一巡すると、モデレーターの鈴木氏が、4つの質問を登壇者に投げかけた。

・2022年の有人地帯の目視外飛行に向けて、どのような課題があり、どう取り組むべきか。
・ドローンの騒音やカメラによるプライバシーの問題に、土地の所有権をどう考えるか。
・今後のJUIDAへの期待。
・日本がガラパゴス化しないためには。

 4つの質問に対して、内閣官房小型無人機等対策推進室 内閣参事官 長崎敏志氏は「2022年のレベル4実現には、内閣官房として進路管理を着実にして、進まないところを動かしていきたい」と抱負を語り「今までは、飛行禁止とルール化から入っていたが、今後は利活用の視点から制度作りと社会実装を目指していくべき」と提案した。

 総務省総合通信基盤局 移動通信課長 荻原直彦氏は「IoTの時代に向けて、携帯電話のネットワーク利用は、目視外飛行で有効」と指摘し、「そこを活用できる形にするには、どうしたらいいのか、そういったところから思考をスタートするように努力している」と説明した。さらに、ガラパゴス化への懸念に対しては「IoTを活用したさまざまなソリューションや有効性を海外に発信していく」と話した。

 国土交通省航空局 安全企画課長 英浩道氏は「レベル4にも、場所の違いがある。一律に全国で同じルールではなく、実態に応じて濃淡をつけながら、ルールを考えていかないといけない」と提唱した。

 農林水産省生産局 技術普及課長 今野聡氏は「農業は人がいない圃場(ほじょう)の上を飛ぶのが基本だが、固定翼で広域を飛ばそうとすると、道路や集落の上を飛ぶので、目視外で補助者のいない飛行の実現に向けて取り組んでいく」と話す。

 福島県商工労働部産業創出課 ロボット産業推進室室長 北島明文氏は「ドローンによるサービスを提供しようとする企業は増えているのですが、ドローンを操作するオペレーター不足がネックになっています。JUIDAへの期待は、専門のオペレーターを早急に育成できるカリキュラムを整備してもらいたい」と述べた。

未来のドローン産業

 第三部では、ブルーイノベーション株式会社 代表取締役社長 熊田貴之氏がモデレーターを務め「未来のドローン産業」というバネルディスカッションが行われた。パネラーには、楽天AirMap株式会社 代表取締役CEO 向井秀明氏、株式会社NTTドコモ 法人ビジネス戦略部 ドローンビジネス推進担当 主査 山田武史氏、株式会社日立システムズ ドローン・ロボティクス事業推進プロジェクト 部長代理 宮河英充氏の3名が登壇した。

第三部では未来のドローン産業について第一線で活躍する事業者がパネラーとして顔を揃えた

 最初に、 楽天AirMap株式会社 代表取締役CEO 向井秀明氏が、物流に注力してきた楽天ドローンの取り組みについて振り返り、この夏にサービスを提供している猿島へのドローン配送について紹介した。向井氏は「楽天ドローンは、新たな利便性の提供と物流困難者への対応に、緊急時のインフラ構築を目指して、サービスの具現化に取り組んでいます」と説明する。

 続いて、株式会社NTTドコモ 法人ビジネス戦略部 ドローンビジネス推進担当 主査 山田武史氏が、社内でドローンを使って作業員の負荷を減らしている取り組みと、docomo skyというドローンサービスについて紹介した。

 最後に、株式会社日立システムズ ドローン・ロボティクス事業推進プロジェクト 部長代理 宮河英充氏が、ドローン運用統合管理サービスについて紹介し、自社でフライトチームを整備して点検に特化した利用を事業化している状況を説明した。

 各社のサービス紹介が終了すると、熊田氏が現在のドローン事業推進におけ「課題」について登壇者に質問した。

 楽天の向井氏は「規制と技術とコスト」という3つの課題を指摘した。規制と技術は二人三脚の関係にあり、ドローンが安全になれば規制も突破できると向井氏は説明する。「ドローン物流をサービス提供者として実施するには、安全性が非常に大事」と向井氏は補足し「ドローンメーカーは、できたてホヤホヤの最新機種を提案してくるベンチャー企業が多いが、物流としては困っていて、何千時間と飛ばしてから、もうこれで不具合を出し尽くした、というドローンを提供してほしい」と訴えた。また、配送コストに関しては「人の物流コストは、過疎地ではどんどん高くなるので、そこをドローンで運べるようになれば、コスト効果が出る」と展望を語る。

 ドコモの山田氏は「電波に絞って課題を考えると、目に見えない電波をどのようにパイロットに把握してもらい運用してもらうか」が課題だと指摘する。

 日立システムズの宮河氏は「先ずは落ちないことと、操縦者の集中力が続かないので、自動化が課題だ」と話し「点検でクラック(ひび割れ)などを発見するためには、撮影の精度向上と画像解析の技術開発が重要」と説明する。

 最後に熊田氏が「今後の展望」について質問すると、向井氏は「ドローンで運ぶと便利だと感じてもらえる自治体などと二人三脚でドローン物流を普及させていきたい」と語り、山田氏は「安心して飛ばしてもらうドローンに電波で貢献できればいい」と述べ、宮河氏は「みんなと一緒に技術を磨いていきたい」と話した。