ドローン操縦士の技術の発展を目的として、2016年に発足した「DPA(一般社団法人ドローン操縦士協会)」。ドローン操縦技術の資格認定制度を設け、常設訓練施設を持つ認定スクールが全国25か所にあり、国土交通省航空局のホームページに掲載される講習団体を管理する団体でもある。このDPAが6月に設立4年を迎えるにあたり、DPA認定校の関係者を東京都内に集めて「DPA認定校フォーラム2019」を開催した。
レベル3に応じたカリキュラムの「回転翼2級」
DPAでは4月半ばに元理事の吉野次郎氏が代表理事に就任し、理事や事務局の陣容を刷新。また、事務局も同じ渋谷区神宮前内に移転するなど、今年6月から4年目を新しい体制でスタートした。そこで今回のフォーラムではDPA認定スクールの運営者に向けて、DPAの現状と今後の運営方針について吉野氏と理事の水野慶太氏から説明が行われた。
吉野氏が重点施策として挙げたのは、資格認定プロセスの効率化と、現在実施している「回転翼3級」資格のさらなる周知、そして、産業用ドローン向け人材育成の新施策の確立だ。DPAでは3月頃から回転翼3級ライセンスの更新期を迎え、その作業が事務局のリソースを圧迫する状況になっているという。そのため新たにCRM(顧客管理システム))を導入し、スクールの管理については6月から運用を開始。資格の発行、保険の登録、DIPSへの登録作業は9月までに自動化するとしている。
また、2つめの施策とする回転翼3級ライセンスの周知については、この夏にDAPのホームページを更新する予定であり、さらに資格取得者とこれから取得を目指す人に向けて、それぞれDPA認定校としてのメリットを発信するとしている。「今後はホームページだけでなくSNS等を活用して、DPAに対する信頼、安心、期待の強化につなげたい」と吉野氏は話す。
3つめの施策は、現在付与されているライセンス「回転翼3級」の位置づけと、それに続く2級、1級の位置づけをどのように設定するかということだと説明する吉野氏。DPAの発足時、ライセンスは「回転翼」「固定翼」「滑空機」という航空機の種類を横軸に、それぞれ3級、2級、1級とリスクレベルに従ってグレードを設けていた。現在はこのうち「回転翼3級」のみが発給されているが、このことから「多くの人が3級、2級、1級と段階が上がるに応じて、パイロットの能力が上がるものと理解されていた」(吉野氏)という。
しかしDPAではこの“級”というグレードは、政府が公表している「小型無人機の飛行レベル」に従ったものであり、3級は「レベル1(目視内での操縦飛行)」「レベル2(補助者つき目視外飛行)」を対象とし、2級は「レベル3(無人地帯での補助者なし目視外飛行)」、1級は「レベル4(有人地帯での補助者なし目視外飛行)」を対象とする形で、あくまでもリスクレベルによる分類だと説明した。
さらに吉野氏によると1級は「有人機のヘリコプターと同程度のリスクレベルが必要となり、我々ではなかなか踏み込みづらい」といい、むしろ離島山間部の目視外飛行など、これからの利活用に期待が大きいレベル3相当の2級のカリキュラムの整備に意欲を見せる。さらに今までより大型機体の操縦技能や、機体の整備、ソフトウエアやアプリケーションの設定や事故対応など、回転翼3級に比べてより多くの事柄が求められることから、「回転翼2級はこの中から基礎となる部分のみをカリキュラムとするのかどうなのか、といったことを今後各分野で知見を持っているスクールと議論して作り上げていきたい」(吉野氏)という。
吉野氏は最後に「DPAは産業用ドローンの団体という位置づけである。今後はドローンからロボティクス、IoTデバイスとしてのドローンにまで踏み込んでいくことになるだろう。そのため、操縦技能だけでなくプログラミングによる自動航行といったことにも取り組んでいきたい。今後は各スクールの強みを基盤に、DPAのブランドを高めていきたい」と締めくくった。
DIPSは他の電子行政サービスの中でも群を抜いて利用率が高い
今回のフォーラムではゲストスピーカーとして、国土交通省航空局の伊藤康浩専門官が招かれた。
伊藤氏のスピーチの冒頭には、航空局に対する無人航空機の飛行許可・申請についての状況が説明された。2015年12月の改正航空法施行以降、累計の申請件数は8万件を超え、2018年度は3万8000件弱と2016年度比で約2.7倍に増加。その目的の中心はやはり空撮だが、測量、インフラ点検・保守、事故・災害対応といったものが増加しており、相対的に空撮の割合が減っているという。一方、事故の件数は2018年度で79件と、申請件数の増加に比べれば増加率は低く、「利用者の安全に対する意識が高いことの表れ」だという。
ただし、最近はいわゆる墜落のような事故は少ない半面、空港周辺への進入といった事案が発生しているほか、飛行が禁止されているエリアや状況でドローンを飛行させ、検挙されるに至る事件も発生しており、こうした事案への対応や来日外国人に対するドローンのルールの周知に力を入れていく必要があるとしている。
また、こうしたドローンの利用機会が増えるにつれて、基本的な安全確保の重要性が増しているとし、安全に対する運行管理体制のルールを定める必要がある。そこで、この通常国会に提出された航空法の改正で、飲酒後の操縦の禁止や、飛行前点検の実施、騒音の発生や迷惑行為の禁止などを規定したという。
国交省航空局が最近もう一つ力を入れてきたのが、ドローン情報基盤システムの「飛行情報共有機能」だ。4月23日からスタートしたこのオンラインサービスは、自らの飛行予定を入力すると同時に、他の無人航空機の飛行計画を共有できるというもの。特に小型飛行機やドクターヘリといったVFRで飛行する航空機の情報を共有することで、衝突を未然に防ぐというものだ。このシステムには自治体が個別に定めている飛行に関する条例も入力できるようになっており、「この機能は世界的にも珍しく、地域と連携して利活用を推進していきたい」(伊藤氏)という。
また、2018年4月から運用されているDIPS(ドローン情報基盤システム)については、現在75%前後の利用率となっており、「行政関係のオンラインサービスとしては群を抜いて利用率が高く、他の省庁からも電子化の手続きとして注目を浴びている」(伊藤氏)という。今後はさらに利用率を9割、100%と高めることで、「ドローンを利用する方が本来時間を割いていただくべき時間を有効に使っていただきたい」(伊藤氏)と話した。
地域の企業と操縦者を結びつけるのがスクールの役割
今回のフォーラムにはドローンジャーナル/インプレス総合研究所の河野大助も登壇。日本国内のドローンビジネスの現状について、最新刊の『ドローンビジネス調査報告書』をもとに、2018年度の国内ドローンビジネスの市場規模は前年比85%増の931億円と説明し、2024年度には点検、農業、物流分野がけん引する形で5073億円に伸びると紹介した。
なかでもハードウエアでは中大型機や非GNSS環境下で飛行できる機体へのニーズが高く、自治体向けソリューションや点検、農業分野など、ITリテラシーが低いユーザーでも利用しやすいパッケージが求められると紹介。さらに、産業分野ごとに異なるスキルに合わせて、撮影、自動航行アプリなどの利用、解析といった技術や知識を持った人材育成が求められると説明した。
こうした動向を受けて、今後ドローンスクールに求められることとして2つのことを挙げた。ひとつはドローンを利用したい企業は、どこの誰に仕事を依頼したら自分たちのニーズを満たしてくれるかがわからず、ここにスクールの重要な役割があるといい、スクールは企業と操縦者をつなぐハブとなることが求められるようになると説明。そのためにはスクールの卒業生ができることをスコアリングしたり、ポートフォリオを作って、企業と操縦者がコミュニケーションできるツールを提供するといった事例を挙げた。
また、今後はオペレーションだけでなく“プラスα”の人材育成が必要であり、操縦技術に加えて画像解析ソフトやアプリを活用できる、さらにはソフト開発ができる人材を育てていくことが、スクールの存在価値を高めると説明した。