5月22日から24日の3日間、千葉県千葉市の幕張メッセで「CSPI-EXPO 建設・測量生産性向上展」が開催された。土木・建築といった建設業界と測量業界の企業約200社が出展する本展示会は、最先端の建設機械や測量機器、関連機器や技術、サービスなどが出展されている。近年はこの建設・測量分野にもドローンの活用が広まっており、ドローンの機体やソリューション、サービスの出展が数多く見られた。

アミューズワンセルフ

 会場入り口付近に大きなブースを展開していたのは、オリジナルのLiDARや全天候型ドローンといった独創的な製品を展開するアミューズワンセルフ。同社は6月から本格的に販売を行うドローン搭載型グリーンLiDARシステム「TDOT GREEN」を中心に、近赤外線LiDARシステム「TDOT PLUS」、全天候型ドローン「GALE」を展示していた。

 TDOT GREENは波長532nmのグリーレーザーを用いたレーザースキャナで、赤外線レーザーに比べて水や黒いものへの吸収が弱いため、濡れた土地や水域でも測量ができる。アミューズワンセルフではこのグリーンレーザーを用いたLiDARを、小型軽量で定評のある同社の近赤外線LiDAR「TDOT PLUS」と同等のサイズで実現。重量もPLUSが1.8kgなのに対してGREENは2.6kgとそん色ない軽さで、ドローン搭載グリーンレーザー測量システムとしては世界初の製品(説明員)だという。

 これまでに同社が行ってきた実験によると、高度150mで2.5m、高度50mで水深約3.4m、高度5mで水深約8.6mの河床、海底地形と水面のデータを取得。「もともと土砂災害などの直後に安全に素早く測量を行い対策ができれば、という思いでレーザー測量に取り組んできた。台風などによる土砂災害対応のレーザー測量は、水に覆われた土地が乾くまで待つしかなかった。グリーンレーザーならまだ濡れた状態でも測量することができる」(説明員)ことがメリットだという。

DJIのMatrice600Proに搭載したグリーンLiDARシステム「TDOT GREEN」。価格は約2980万円。
重量わずか1.8kgの近赤外線LiDARシステム「TDOT PLUS」。価格は約1980万円。
参考出品されていた全天候型ドローン「GALE」。IP64相当の防水防塵性能を備え、2018年12月に閣議決定された「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」において30台以上が全国に配備されたという。

芝本産業

 米3D Robotics社の代理店となっている芝本産業は、3DRのクラウドソリューション「Site Scan」のブースを展開していた。SiteScanはドローンによる写真測量・点検のためのソリューションで、AWSを活用したクラウドサービスだ。撮影のためのフライトプラン作成から運航、データの2D、3Dデータ化までをタブレット内のアプリとクラウドサービス上で行うことができる。今回のブースではこうした従来からの機能に加えて、先ごろ新たに追加された、壁面に沿って飛行させるプランの作成ができる「バーチカル」機能を紹介していた。

SiteScanに新たに実装された「バーチカル」機能。仮想の壁面を設定することで、自動的に飛行ルートを生成することができるという。
バーチカル機能で撮影したデータから3Dモデルを生成。3Dモデルの任意の点を指定すると、その箇所が含まれる写真をすばやく呼び出すことができる。

SkyLink Japan

 DJI製ドローンの販売を中心に、自社でさまざまなドローンソリューションの開発を行っているSkyLink Japan(WorldLink & Company)は、同社で扱っているDJIのさまざまな機体を展示。その中でも注目を集めていたのは、同社のグループ企業であるジオリンクジャパンが扱っているPhantom4 RTK専用位置情報補正ソフト「KLAU PPK-J Desktop for Phantom4 RTK」だ。
 KLAU Geomatics社は、オーストラリアを拠点としている技術者集団で、「KLAU PPK」という後処理方式高精度測位システムを開発・販売している。KALU PPKはドローンに搭載可能なKLAU PPKユニットとKLAU PPK-Jデスクトップソフトで構成され、写真測量でドローンがカメラで撮影した写真の正確な位置と時刻を記録し、後処理で補正することで、少ない地上基準点による高精度な測量を可能としている。
 これまで、DJIのPhantom4シリーズやInspire2などに搭載可能なユニットをリリースしてきた。今回新たにPhantom4 RTK用のソフトをリリースしたのは、「現在、Phantom4シリーズの生産が事実上止まっている中、ハードとしてPhantom4 RTKを活用し、その精度をさらに高めて利用してもらう」(説明員)というのが狙いだという。

ジオリンクジャパンが会期中にリリースした、Phantom4 RTK専用位置情報補正ソフト「KLAU PPK-J Desktop for Phantom4 RTK」。レンズの個体差を考慮した補正をデータにかけることで、±5cm以内の精度を実現している。

 またSkyLink Japanブース内では、幅広いユーザーのニーズに応えるために、ACSL(自律制御システム研究所)の機体も展示。中でも非GPS環境下でも飛行可能なビジュアルSLAMの技術を搭載した狭所点検用の新型機「Mini」は、一般への公開としては初めての場となった。今後SkyLink Japanでは、要望に応じてDJI機と並行してACSLのドローンの提供も行っていくという。

DJI製品が多くを占めるSkyLink Japanブースの一角に、ACSLのコーナーが設けられていた。
30倍ズームレンズを備えたソニーの2000万画素カメラQX30を搭載する、狭所点検用途向け小型ドローン「Mini」。

レーザー測量ドローンの出展

TIアサヒ

 測量機器メーカーのTIアサヒは、既存製品であるUAV写真測量システム「グランバードUP-1」に加えて、今年3月に発表したUAVレーザー測量システム「グランバードUL-1」を参考出品していた。「UL-1」は最大測定可能高度212m、測定角度90度、発射レート毎秒3万点のLiDARと、フルサイズ一眼レフカメラを搭載し、20分のフライトで東京ドーム約5個分の面積の測量ができるという。

TIアサヒのグランバードUL-1。DJIのMatrice600ProにLiDARとフルサイズ一眼レフカメラを一体にしたユニットを搭載している。

快適空間FC

 DJI製品やドローン関連ソリューションの販売を行っている快適空間FCのブースでは、米フェニックス・ライダー・システムズ社のマルチプラットフォームLiDARシステムを展示していた。同社のシステムはレーザースキャナとIMU/GNSS、そしてカメラを一体にしたもので、計測と撮影を同時に行い、かつ、そのデータをリアルタイムに機上で処理してカラー点群を生成することが可能だ。

「ミニ・レンジャー」は推奨対地高度75m、重量約3.8kgの小型のLiDARシステムで、DJIのMatrice600Proへの搭載が可能。価格は約3000万円。

小林コンサルタント

 レーザースキャナを使った測量を幅広く手掛けている小林コンサルタントは、オーストラリアのEmesent社の自律ドローン搭載レーザー計測システム「Hovermap」を展示していた。本機はSLAM技術によって坑道などの非GNSS下を飛行可能にするシステムで、これを利用して地下や屋内をはじめ、GNSSに頼れない環境で正確な3Dマッピングが可能になる。リアルタイムで生成された3Dマップを基に飛行するため、ドローンの周りに仮想の球体シールドを生成することで全方向対して衝突を回避することができる。

Matrce600Proに搭載されたHovermap。吊り下げられたレーザースキャナが高速で回転しながら3Dマッピングを行う。

Ace-1

 ドローンによるレーザー測量を手がける広島県のAce-1は、シングルロータードローンによるレーザー測量を提案。17kgという大きなペイロードと、65分という飛行時間(ペイロードなしの場合)を生かして、広範囲の測量を可能としている。シングルローター機ではあるが、マルチローター同様の制御が行われるため、安定した自律飛行が可能だという。

イエロースキャンのLiDARを搭載したAce-1の電動シングルロータードローン。

扶和ドローン

 今春、金属リサイクルを手掛ける扶和メタルが出資して設立した扶和ドローンのブースでは、同社が新たに導入したレーザー測量機器を展示。扶和ドローンは宮崎県のドローン測量企業ドローンソリューションズのノウハウを取得し、測量のためのドローンの運航からデータ解析までをワンストップで行う実務に特化した企業だ。「扶和ドローンは全国にパイロットと機材を展開しており、ドローンの運用、データ解析の内業の品質については、高いレベルで統一されている。ドローンによる測量業務を専門に行う企業として、これだけの規模感を持って取り組んでいる企業は珍しい」(説明員)という。

扶和ドローンではイエロースキャンやHovermapのLiDARを使用している。

日本ニューマチック工業

 建築物の解体作業などで使用する解体機器を製造する日本ニューマチック工業は、解体現場で粉塵などが飛散するのを抑える目的で水を撒くためのドローンを参考出品していた。機体の全幅は2mを超える大型のヘキサコプターで、機体前部に取り付けたノズルから水を噴射する。水は地上と結ばれたホースから供給されるほか、電源も地上から供給される。「お客様の要望で開発を始めたが、ノズルから吹き出す水の反作用をどう受け止めるかが課題だった。今後も開発を続け、最終的には無人の自動飛行を目指している」(説明員)という。

参考出品されていた日本ニューマチック工業の散水用ドローン。地上から供給された水をノズルから勢いよく放水する。

広範囲のデータ収集に期待が寄せられる固定翼型ドローン

みるくる/SkyLink Japan

 今回のCSPI-EXPO 2019は、建設・測量機器やサービスの中でドローン関連の出展が目立ったが、中でも固定翼型ドローンの出展が数多く見受けられた。まず、みるくるとSkyLink Japanは、ドイツのWingcopter社製の固定翼ドローン「Wingcopter 178 Heavy Lift」を出展していた。Wingcopter 178は、翼長178cm、最大積載量6kgのティルトローター式VTOL(垂直離着陸)機で、長時間、長距離のフライトが可能だ。このロングレンジ、大ペイロードという特性を生かし、広範囲の測量や調査、物資輸送などへの用途が期待されている。みるくるでは「通信や法規制の問題など、まだまだ実用化するための課題は多い。今後は実証実験の中でノウハウを積み上げていく必要がある」(担当者)といい、SkyLink Japanでは「電力をはじめインフラ系の企業から関心が寄せられている。海外では海上輸送の実験もおこなわれるなど、マルチコプターとは違う足の長さに期待したい」(担当者)と話していた。

みるくる(左)とSkyLink Japan(右)のブースで展示されていたWingcopter 178。価格は約1000万円。みるくるのブースにあった機体は、広島県のドローン測量会社Ace-1に納入されたものだ。

ジツタ

 非GNSS環境下で利用可能なドローン誘導システムを販売しているジツタも、固定翼型のVTOLドローンを展示。垂直離着陸用の4つのローターと、水平飛行時の推進用ローター2つを備えた機体で、約70分の長時間飛行と同時に、約10平方メートルのスペースでの離着陸という利便性を実現している。

ジツタのVTOLドローン。2020年4月の発売を予定している。

ニコン・トリンブル

 測量機器大手のニコン・トリンブルのブースでは、固定翼型ドローン「Wingtra(ウイントラ) One」を参考出品していた。同機は翼に固定ピッチのローターを2つ備えており、離着陸時は機首を真上に向ける形で上昇下降し、上空で機体姿勢を水平に遷移して巡航に移る。中央部にはソニー製のカメラを搭載し、最大55分のフライト時間を生かして広範囲の撮影が可能だ。ニコン・トリンブルでは今後、測量や農業管理、森林調査といった用途を模索し、将来の販売につなげていきたいという。

スイスのスタートアップWingtra社製の固定翼ドローン「Wingtra One」。この姿勢で離着陸を行う。

 固定翼機は一度に広範囲の撮影や調査ができるというメリットがあるが、日本の狭い国土やニーズといった点ではまだニーズが見いだせていない模様。また長距離を飛行するには目視外飛行などの航空法や、コントロール、テレメトリーに使う通信のための電波法、さらには私有地上空を飛行するための法規など、まだまだ課題が多いというのが各社の見方のようだ。