建設現場における測量業務では、ドローンの本格導入が加速している。従来の地上測量と比較して、作業効率は約10倍に達し、足場を組まずに点検が可能となることで、安全性と生産性の両面に革新をもたらしている。
しかし現場では、設計・施工・維持管理の各工程が分断され、せっかくの3次元データが十分に活用されていないケースも多い。これに対して、「現場ではなく経営層こそが変革の意思を示すべきだ」と提言するのが、ドローン測量教育研究機構(DSERO)代表理事であり、京都大学名誉教授の大西有三氏である。制度、教育、そしてマインドの視点から、ドローンを用いた建設業の変革について話を聞いた。
ドローン測量の導入で変わる建設現場の効率と安全性
建設現場における測量作業は、長年にわたって人手と時間を要する業務として担われてきた。急傾斜地や高所など危険な場所での作業も多く、安全確保に必要なコストも無視できない。これらの課題に対する有力な解決策として、近年注目を集めているのがドローン測量の導入である。
大西氏は「従来なら1日がかりだった測量が、ドローンなら1時間程度で完了します。人が立ち入れない場所でも安全に測量が可能です」と語る。特に土木工事や災害対応の現場では、その有効性がすでに実証され始めている。
ドローン測量では、上空から撮影した画像群をもとに、SfM(Structure from Motion)技術によって高密度な3D点群データを生成。これにより広範囲の地形を短時間で高精度に把握できるようになり、航空測量よりも低コストかつ柔軟に対応できる点が、現場における大きな利点となっている。
制度と現場のギャップが阻む三次元データ活用の課題
2015年以降、ドローン測量の技術的な有用性が認知され始めたが、その活用が現場では思うように進まなかった。当時は、測量の専門知識に欠けるドローン事業者やドローンの扱いに不慣れな測量技術者が混在し、基準点の設定や座標系の統一がなされていないケースが散見された。
「ドローンで撮った写真がいくら綺麗でも、座標がずれていれば測量として使い物になりません。それは測量データではなく、ただの空撮に過ぎません」と大西氏は警鐘を鳴らす。
さらに、発注から設計、施工、維持管理に至るプロセスがデジタルでつながっていない「分断」が大きな課題となった。
国土交通省が推進するi-Constructionでは、3次元データによる一貫連携・循環が前提とされているが、現場では3次元データの読解能力や設備が追いついておらず、「2Dに直してほしい」との声が依然として根強い。
「3次元データを読み解き使いこなす力が、現場全体でまだ不足しているのです」と大西氏は語る。
DSEROの挑戦──ドローン測量教育と人材育成
このような課題に対応するため、2017年に設立されたのがDSEROである。土木工学を専門とし、測量に精通する大西氏が代表理事を務め、ドローン測量の標準化と実務人材の育成を両輪に活動している。
DSEROが展開する中心的な取り組みが、「ドローン測量管理士」と「ドローン測量技能士」の二種類の民間資格である。前者は設計・施工・維持管理の各工程の測量結果を正しく活用し、測量の精度管理やデータ解釈、法規への理解を習得する。そして、後者は現場で高精度なデータを取得する技能者を対象としている。
両資格では、SfMによる点群生成や精度管理、関連法規まで幅広いカリキュラムが提供され、測量理論とドローン操作を融合した実務能力の評価が行われる。
「講習開始当初は十数名規模でしたが、現在は100名を超える回もあります。建設業界の意識は確実に変わりつつあります」と大西氏は語る。実際にゼネコンや測量会社に加え、自治体職員やインフラ管理者などの受講が増えており、ドローン測量に関する知見が業界全体に広がっている。