社会インフラの老朽化と人手不足が深刻化する中、測量の現場でドローンの活用が急速に広がっている。作業効率は従来の10倍とも言われ、設計から点検、維持管理までを支える「3次元データ」の時代が到来しつつある。
「若者がドローンを通じて測量の世界に戻ってきている」と語るのは、一般社団法人ドローン測量教育研究機構(DSERO)の代表理事であり、京都大学名誉教授の大西有三氏。新技術と制度が交差する今、測量という“社会基盤の入り口”で起きている変革に迫った。
測量に変革をもたらす「ドローン測量市場」の誕生
測量業界では今、ドローンの登場によって大きな変革が進んでいる。「地上から行う2次元の測量が、空からの3次元測量へと進化しています」と語るのはDSERO代表の大西氏。
この動きを後押ししたのが、コロナ禍以降に拡充された国の補助金制度だ。しかし、作業の効率化を目的に導入が進む一方で、技術面の課題も浮かび上がっている。
現在の現場では、測量の基礎知識を持つ測量事業者と、ドローン操縦を生業にするドローン事業者が混在している。前者はデジタル処理に不慣れで、後者は測量の基本である「座標系」の理解が足りず、データの精度に問題が生じるケースもあるという。
こうした課題を受け、DSEROは体系的な知識と技術を持つ人材の育成に取り組んでいる。2024年2月には、同機構が認定する「ドローン測量管理士」が国土交通省により民間資格として正式認定された。
大西氏は「資格制度を整備しなければ、せっかくの予算が無駄になりかねません」と、その必要性を強調する。
効率性と精度を両立するドローン測量の魅力
ドローン測量の最大のメリットは「速さと手軽さ」だ。
大西氏は「かつて3〜4日かかっていた作業が、今では1〜2時間で完了することもあります」と、その効率性を説明。飛行機を使う航空測量と比べても準備が簡単で、人手も大幅に削減できる。
これを支えているのが、GNSSに比べて高精度な位置情報を取得できるRTK-GNSSや、ドローンの姿勢を正確に把握するIMU(慣性計測装置)といった先端技術だ。かつては高額だったこれらの技術も、今では現場に導入しやすくなっている。
農業では、農薬散布にドローンが使われており、作物の品質維持に役立っている。圃場に対して正確な農薬散布を行うため、測量と同じく高精度な位置情報が求められる。これについて大西氏は「農薬散布では、隣接する圃場に農薬を撒いてはいけません。正しい場所に適正量の農薬を散布するためには、cm単位の飛行精度が求められます」と話す。
建設業界では効率的な業務を目指し、「i-Construction」と呼ばれる国の取り組みの中で、設計から施工、出来形管理、維持管理までドローンを活用した一貫したデジタル化が進められている。