国が認定したドローン測量資格とその制度的意義

 この取り組みが制度面において大きな前進を遂げたのが、2024年2月である。DSEROが策定・運営する「ドローン測量管理士」が国土交通省により民間資格として公式認定された。これにより、建設工事における調査の質を担保する資格として位置づけられたのだ。

「これまでにも民間資格は存在しましたが、国が認めたことで現場での信頼性が格段に高まりました」と大西氏は語る。

 認定の影響は受験者数にも表れており、2017年の設立以来これまで累計150人だった受験者数が、認定後のわずか1年間で50人増加した。一部の自治体では公共工事の発注要件に資格保有を明示することが検討されており、建設コンサル各社も本格的な人材育成を進めている。

 DSEROは、全国測量設計業協会連合会(全測連)とも連携しており、同連合は年間100人規模の資格者輩出を目標に体制整備を進めている。これらの背景には、i-Constructionにおいて重視される「測量データの品質確保」というテーマが、制度的にも重視されるようになってきたことがうかがえる。

 ドローンは単なる効率化の道具ではなく、BIM/CIMを含むデジタル施工プロセスを支える基盤技術として、建設現場に不可欠な存在となりつつある。

 こうした取り組みに呼応するかたちで、民間企業でもデータ活用の内製化が進んでいる。先進的な建設会社では、ドローン測量から3Dモデリング、施工管理に至るまでを自社内で一貫して担う体制を整備し、外注に依存せずリアルタイムでのデータ活用が可能な仕組みを構築している。

 さらに、この流れを加速する技術としてレーザースキャナーを搭載した「ドローンによるレーザー測量」が登場し、その活用が広がっている。これにより、高精度な3次元データの取得が一層容易になりつつある。

 これに対して大西氏は、「コンサルタントと施工会社の間にある“分断”を解消するには、共通言語として3D測量データを理解し使いこなす能力が欠かせません。そのためにはまず、教育による基盤づくりが必要なのです」と指摘した。

図解:写真測量で精密に3次元計測をするためにドローンによる斜面撮影(鉛直撮影)
(出典:一般社団法人ドローン測量教育研究機構)
図解:写真測量で精密に3次元計測をするためにドローンによる斜面撮影(法線方向撮影)
ドローン測量は、正確なデータを取得することが前提であり、測量で使用するための撮影技法など、専門的な知識が必要となる。(出典:一般社団法人ドローン測量教育研究機構)

高精度測量を支えるRTK-GNSSとIMU、SLAM技術の進化

 ドローン測量の高精度化を支えているのが、近年急速に進化している測位・計測技術である。中でもRTK-GNSS(リアルタイムキネマティック・全球測位衛星システム)は、数cm単位の誤差で位置を特定できる。従来のGPS測位では数mの誤差が発生していたが、RTK対応機の普及により、この誤差は数cm単位にまで縮小された。これにより、多数の基準点を地上に設ける必要がなくなり、より効率的な測量が実現している。

 さらに、IMU(慣性計測装置)によって機体の傾きや振動を補正し、高精度なデータ取得が可能となった。IMUはドローンの姿勢を正確に記録し、風などの影響を受けやすい場面でも安定したデータを提供する。

 また、GPSが届かない閉鎖空間では、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術が有効だ。カメラやレーザーセンサーにより周囲の環境を認識しながら自己位置を推定するこの技術は、トンネルや下水管などの測量・点検作業にも活用されている。

 これらの技術進歩は、現実の構造物と3Dモデルを連携させ、計画から施工、維持管理に役立てられる「デジタルツイン」の実現にも寄与している。大西氏は「橋脚の出来形管理では、点群データと設計図を重ね、どの部分に誤差があるかなど視覚的に施工精度を確認できるようになった」と語る。

 こうしたデータ活用の進化は、現在の「i-Construction 2.0」につながっている。そこでは、省人化やロボット化といった自動化技術を用いて、測量から施工、維持管理に至るまでの工程を、3次元データを基盤とした連続的かつ自律的なプロセスへと再構成することが目指されている。設計と施工の断絶を越え、維持管理までを見据えたデータ循環を可能にする基盤として、今後さらに重要性が高まっていくだろう。

建設DXバナー

経営者が主導する業務改革とドローン内製化の波

 ドローン測量の高度化とともに、重要性を増すのがそれを運用する人材の育成である。ドローン測量管理士の資格は、ドローンの操縦技能だけでなく、測量理論と現場実務をつなぐ実務人材を育てる制度として注目されている。

「ドローンを飛ばすだけでは不十分です。従来の測量理論を理解し、新技術を使いこなす能力が求められています」と大西氏は語る。

 これまで外注に頼ってきた測量業務を、自社で内製化する動きが広がっており、その質の担保に資格制度が活用されている。ただし、制度の定着には経営層の理解と意思決定が不可欠だ。

 大西氏は、「現場の努力だけでは限界があります。DXやi-Constructionを『現場任せ』にしている企業は、変革が進んでいません」と警鐘を鳴らす。

 一方、若手人材の関心も高まっており、ドローンをきっかけに測量や空間情報に興味を持つ学生が増えている。大西氏は「ゲーム世代はコントローラーに慣れており、ドローン操縦の習熟も早い。将来性の高い分野です」と期待を寄せる。

 建設業界において、ドローン測量は単なる技術にとどまらず、業務改革と次世代育成の鍵となる存在として、その重要性を一層増している。