災害で道路が寸断されたとき、孤立した場所に燃料はどう届けるのか――その答えのひとつが「ドローン」だ。

 5月21日、神奈川県松田町の寄(やどりき)地区で、ドローンを使った燃料輸送の実証実験が行われた。主催したのは、災害時に燃料供給を行う専門企業の日本BCPである。

写真:河原に置かれたSurveyor-Xと横に立つスタッフ
実証実験に使用されたAutonomyの大型ドローンSurveyor-X。

ドローンでの燃料輸送に挑戦した背景とは?

 日本BCPは、石油小売り大手のシューワのBCP事業部を母体に2017年に設立された。主に医療機関や通信会社と契約し、災害時にはタンクローリーを使って発電機用の燃料を供給している。

 過去には、2018年の大阪北部地震や、毎年のように発生する豪雨災害に出動し、実際に燃料輸送を行ってきた。2024年1月1日に発生した能登半島地震にも対応し、現在も活動を続けている。

 だが、災害時には道路や橋などの陸路が崩壊し、タンクローリーが現場に入れないケースも少なくない。そこで今回、ドローンを活用した燃料輸送の可能性を探るために、実証実験が計画された。

実証実験の内容と使用されたドローン

 実験の舞台は、日本BCPが「災害時における燃料等の供給に関する協定」を締結している松田町の中津川沿い。被災地にアクセスするための橋が崩れたという想定で、約500m離れた地点に燃料を届けるというシナリオだ。

写真:河原から離陸するドローン
輸送のため、中津川河岸を離陸するSurveyor-X。

 使用されたドローンは、Autonomyの国産大型ヘキサコプター「Surveyor-X」。時速36km、最大70kgの荷物を運べ、飛行時間は最大10分間。ドローンの中でも数少ない大型機であり、災害現場でも十分な性能を発揮できる機体である。

 実験では以下の4種類の貨物を、6mのロープでドローンに吊り下げて運搬した。

① 水20L入りの携行缶(約20kg)
② LPガス用ボンベ(約17kg)
③ 水20L×2本をカーゴ袋に入れたもの(約40kg)
④ ガソリン20L入りの携行缶を梱包材付きケースに入れたもの(約40kg)

 特に④は安全に考慮し、米軍基準に準拠した耐久ケースを使用しており、高さ2mからの落下でも容器の破損や燃料が漏れない設計となっている。

写真:地面に並べられた搬送物
実証実験で使用した搬送物。左からガソリン20L、カーゴ袋、LPガス用ボンベ、水20L入り携行缶。

 ドローンは高度約30mで数分間飛行し、搬送場所で高度を下げ、地上に荷物が接地した後にロープを切り離し、近くに着陸するという動作を繰り返し行った。

写真:ケースを吊り下げて飛行するドローン
ガソリン20Lが注入された携行缶1個を頑丈なケースに入れ、ドローンに吊り下げて飛行。
写真:ドローン下部の吊り下げ機構部分
Surveyor-Xに採用されている吊り下げ機構。搬送物を接地させ、自動でロープを切り離すことができる。
写真:2人の担当者がケースを開けて携行缶を点検する様子
輸送されたガソリンの入った携行缶を点検する日本BCPの担当者。

災害時のドローン運用と法律の関係

 通常、ドローンで物を吊り下げて飛行する場合は、国の許可が必要となる。しかし、航空法第132条の92では、災害時に国や地方自治体、またはその依頼を受けた者が医薬品や食料品などの生活必需品を輸送する際には、特例として飛行規制が一部適用除外となる。

 日本BCPが国土交通省に確認したところ、燃料輸送も医療品などと同様に適用除外の対象に含まれるとの回答を得ている。つまり、災害時であれば、ドローンによる燃料輸送が迅速に実現できる道が開かれたのだ。

今後の展望と課題

 日本BCP BCP事業部長の中井氏は次のように語る。

「過去の災害では、社員が燃料タンクを背負って道が寸断された被災地まで歩いたこともあった。ドローンがあれば、もっと迅速に被災者に燃料を届けられる。ドローンが有効と分かった今回の実験を踏まえ、早期の実用化を目指したい」

 ドローンによる燃料輸送は、災害時の命綱となる新たな手段だ。今後は運用体制の確立とともに、より多くの現場での活用が期待される。

携行缶1個を入れたケースを吊り下げて離陸するSurveyor-X。(提供:Autonomy)