VTOL型ドローンが注目される背景と災害支援での実績
エアロセンスは近年、VTOL型ドローン「エアロボウイング」を使った点検や物流、調査といった分野のプロジェクトの実績を挙げている。2024年12月末には国内初の飛行機タイプ(VTOL型)ドローンを使った国内初となるレベル3.5飛行による、医薬品配送の実証実験を静岡県浜松市で実施。また、2024年3月には、同じくエアロボウイングを使って、JR東日本管内の磐越西線において災害発生時における鉄道設備の確認の実証実験を行い、2025年2月には東京都内で夜間に災害が発生したことを想定し、首都高速道路の点検を行う実証実験に参加している。
こうした配送や点検といった用途にVTOL型ドローンを活用することへの期待が近年高まりつつある。マルチコプター型ドローンに比べてVTOL型ドローンは高速かつ長距離の飛行が可能で、大規模災害が発生したようなときには、迅速に広範囲の情報収集ができたり、遠くまで素早く救援物資などを届けることができる。2024年1月に発生した能登半島地震での災害支援活動を通じて、自治体をはじめとした防災関係機関にこうしたVTOL型ドローンのメリットが広く認識されている。
型式認証機ならではのカテゴリーⅡB飛行のメリット
エアロセンスでは2020年にエアロボウイングを発売。河川の砂防堰堤の点検といった、広範囲の調査・点検業務や、物資輸送などの用途で利用されている。2024年6月にはVTOL型機としては初となる第二種型式認証を「エアロボウイングAS-VT01K」として取得。型式認証機はユーザーが機体認証を取得した上で、無人航空機操縦者技能証明を保有する操縦者が一定の運航ルールの下で飛行させる場合には、目視外飛行に関する航空法上の飛行の承認が不要のカテゴリーⅡB飛行ができるというのが最大のメリットである。
さらに同社では2024年11月に代表取締役社長の佐部浩太郎氏が、国内初となる「飛行機」の無人航空機操縦者技能証明を取得。以降、同社が参画する実証実験で目視外飛行については、型式認証機としてのエアロボウイング(AS-VT01K)を、無人航空機操縦者としての佐部浩太郎氏と同社のドローンオペレーターが飛行させる体制で、航空法上の飛行に関する承認を受けることなく、さまざまな実証実験の飛行を行っている。
VTOL型ドローン運用に求められる技能証明の要件
型式認証を取得したエアロボウイングAS-VT01KをカテゴリーⅡBの扱いで飛行させるには、操縦者に回転翼航空機(マルチコプター)と飛行機の技能証明を取得することが求められる。それは、エアロボウイングのようなVTOL機は、巡航中は固定翼の飛行機として飛行する一方で、離着陸時はマルチコプターと同じような形で飛行するからである。マルチコプターの技能証明は、2022年12月の制度創設以降、すでに2万人以上が取得しているが、飛行機についてはそもそも飛行機型のドローンが国内ではほとんど運用されていないこともあり、技能証明の実地試験は2024年5月からようやく申請の受け付けが始まったばかりである。
技能証明の取得には指定試験機関が実施する学科試験と実地試験があり、このうち実地試験については登録講習機関の講習を受け、修了審査に合格することで免除される。しかし、飛行機については2025年4月現在、登録講習機関がひとつもない状態であり、指定試験機関が実施する実地試験を受ける必要がある。この実地試験はマルチコプターであれば、指定試験機関が試験会場や機体といった必要な備品を用意し、試験日を公表した上で申し込みを受け、実施する集合試験方式として、全国で定期的に開催している。一方飛行機については、受験者が機体や空域を用意した上で、そこに指定試験機関が試験員を派遣する形で試験を行う出張試験方式となっている。
実地試験で使用する無人航空機としての飛行機の基準は、2023年12月に航空法施行規則を改正する告示で「伝送可能距離が1km以上ある送信機」や、目視外飛行、夜間飛行の限定変更では自動飛行機能やカメラの搭載、対気速度などを含むテレメトリー情報の表示、最低20分以上の飛行が可能(最大離陸重量25kg未満の場合)といった要件が定められている。
▼国土交通省 - 航空法施行規則第236条の49第2項の国土交通大臣が告示で定める基準の一部を改正する告示
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001718210.pdf
また、試験に使用する空域は、使用する機体の無風時の巡航速度や接地速度から、立入管理措置を講ずるべき空域や滑走路長を算出するほか、空域の長辺方向に15秒間の直線飛行ができるといった要件を満たす必要がある。例えばエアロボウイングの巡航速度は65km/hであるため、15秒間の直線飛行では約270m進み、そこに旋回に必要な距離や、不合格区画から30mの余裕を持たせるといったことが必要で、試験空域は長辺で400mを超える規模になる。
試験機体・空域準備を求められる技能証明の取得
こうした、出張試験に必要な機体や空域を受験者が用意することは容易ではない。飛行機の試験には、いわゆる飛行機のスタイルのラジコン機が用いられることになるが、こうしたホビー用途のラジコン飛行機は、操縦者の技術によって飛行そのものを楽しむことが目的であるため、ドローンに搭載されているような機体が自律的に安定を保つフライトコントローラーはない。また、目視で飛行させることが前提であるために、対気速度や姿勢などを操縦者の手元で表示させるテレメトリー機能もない。そのため、こうしたフライトコントローラーやテレメトリー機能をラジコン飛行機に搭載する改造が必要となる。
エアロセンスではエアロボウイングを開発する過程で、こうした飛行機にフライトコントローラーをはじめとした、自律飛行が可能な無人機に必要な機器を搭載したものを試作している。そのため、佐部氏が飛行機の試験を受けるにあたって、こうした技術とノウハウを生かし、市販のラジコン飛行機に対気速度を得るためのピトー管やフライトコントローラーを搭載したものを試験用機体として用意。しかし、こうしたラジコン機の改造による試験機を準備することは知見があってこそのものであり、広く一般の人にはハードルが高い。
また、空域についても数百m四方に及んで第三者の立入管理措置ができる場所を用意することは決して簡単ではない。エアロセンスでは機体を開発するために利用している飛行場が、試験の要件を満たしていたため、実地試験にはそこを使用した。しかし、それでも横風用滑走路も含めて、飛行コースの設営には苦労したという。
なにより、こうした実地試験用の機体や空域を用意したとしても、指定試験機関が試験員を派遣する出張試験の日程が限られている。マルチコプターに比べて飛行機の試験を実施できる試験員が少ないこともあって、月に1~2回程度のペースだという。型式認証機であるエアロボウイングAS-VT01Kの発売以降、ユーザーの間からは飛行機の技能証明に対するニーズは高まっているが、実地試験の実施が追い付かずボトルネックになっているのが現状だ。