VTOL型ドローンの普及に向けた技能証明制度見直しの必要性
2023年12月に飛行機の試験の枠組みが定められたことや、エアロボウイングが型式認証機となったことを受け、飛行機の技能証明に対するニーズがゆっくりではあるが高まっている。能登半島地震での災害支援におけるVTOL型ドローンの実績や、その後、非常時と平常時のフェーズフリーの考え方に基づいて、全国の自治体の中では機材の導入いかんにかかわらず、まずは技能証明を取得して備えるという動きもあるという。そのため、エアロセンスに対してはエアロボウイングAS-VT01Kの機体に対する引き合いと同時に、技能証明取得に関する問い合わせも増えている。しかし、実地試験の難易度の高さや、頻度をはじめとした試験を実施する体制の問題といったハードルが課題だ。
また、飛行機の操縦はマルチコプターとは大きく異なる。特に滑走路への着陸は進入角度や速度を正しく保たないと、墜落や滑走路への衝突といった事故につながる可能性があるなど、その難易度は高い。同時に現時点ではこうした飛行機の操縦が学べる登録講習機関は存在せず、指定試験機関の試験のみであるため、事実上、試験に合格して技能証明を持てるのはラジコン飛行機の操縦経験者に限られるといっても過言ではない。
エアロセンスでは今後、エアロボウイングAS-VT01Kを導入するユーザーが飛行機の技能証明を取得できるよう、ユーザー向けの飛行機ライセンス取得支援プログラムの提供などサポートを手厚くしていく。既に既存ユーザーでライセンスを取得して業務に活用している例も出てきた。一方で飛行機の講習を行う登録講習機関が現れてくることに期待を寄せており、一部の講習機関との提携やノウハウ提供などの検討を始めている。
また、制度として少なくともエアロボウイングを運用するためには、必ずしも飛行機としての操縦を身に付ける必要はなく、現在の“パワードリフト機(VTOL型機)の飛行にあたっては、回転翼航空機(マルチローター)及び飛行機、の両方の種類の限定に係る資格が必要となる”というルールを変えてもいいのではないかと佐部氏は提言している。
というのも、型式認証機であるエアロボウイングAS-VT01KのConOps(コノープス:設計概念書)には、飛行機モードでの巡航中や異常事態での対応に、遠隔地からの手動操縦が定められていない。佐部氏によると、「高速で長距離を飛行するエアロボウイングは、原則として飛行の操作はモバイル通信で行うが、異常事態などでカメラの映像を見ながら100km近い速度で飛行する飛行機を手動操縦するのに、どうしても遅延が発生するモバイル通信では対応しきれない。そのためエアロボウイングは、巡航中は定められたミッションに従ったオートパイロットで飛行し、異常事態にはすべてマルチコプターモードで対応する。そのため、手動飛行するとしても操縦はマルチコプターとしてのものになる」という。
そこでこの“手動飛行はすべてマルチコプターのみ”というのであれば、「エアロボウイングの飛行に必要なのは、回転翼航空機(マルチコプター)の基本と目視内の限定変更、飛行機の目視内の限定変更で問題ないのではないか」と佐部氏。しかし、飛行機の目視内の限定変更は、あくまでも飛行機の基本からの限定変更であり、現在のルールでは飛行機の基本の技能証明が必要となる。また、「限定変更が基本の技能証明を前提にしているのであれば、例えば回転翼航空機(マルチコプター)の限定変更として、VTOL型機を加えるというのもひとつの考え方ではないか」とも佐部氏は語る。
能登半島地震での災害支援活動の中で、改めてVTOL型ドローンの有用性が浮き彫りとなった。VTOL型ドローンについてはエアロボウイングのほかにも、独WingcopterのWingcopter198が第一種型式認証を申請しているほか、15kgものペイロードを搭載でき耐候性に優れた独Phoenix WingsのPW.ORCAが、長崎県での物流の実証実験で成果を挙げるなど、今後、VTOL型ドローンの活用が広がることが見込まれる。
2022年12月に創設された機体認証制度と操縦者技能証明による、許可・承認を不要とするカテゴリーⅡBによる飛行は、ここにきて数は少ないながらもようやく実施されるようになってきた。今後VTOL型ドローンの活用を促進するためにも、安全の確保が最優先事項であるのは言うまでもないが、技能証明制度の合理化がユーザーの間からは求められている。
