KDDIグループ最大級のアニュアルイベント「KDDI SUMMIT 2024」が、9月3~4日の2日間にわたり、リアルとオンラインのハイブリット形式で開催された。本イベント初日午後、KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏は、「AIドローンが拓く未来」と題したセッションに登壇した。
セッション後半では、「板橋ドローンフィールド」を併設する街づくり型物流施設「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」を手がける三井不動産ロジスティクス本部の大間知俊彦氏、本誌ドローンジャーナル編集長の河野大助氏も加わり、3者対談も行われた。
本稿では、最新技術の全体動向におけるドローンのこれからの方向性をひもとくべく、本イベント基調講演の内容も踏まえて、本セッションのレポートをお届けする。
AIドローンが拓く未来 ~ユースケースの広がり~
最初に登壇したKDDIスマートドローンの博野氏は、「AIドローンが拓く未来」と題して、ドローンのユースケースの広がりや、ビジネス共創について話した。
本イベントの基調講演で、KDDI代表取締役社長CEOの髙橋誠氏が語った「生成AIや衛星通信をはじめとする、グローバルスタンダードをいち早く取り入れて、日本らしい付加価値を乗せたうえで、グローバルに打ち出してソーシャルインパクトを与えていく」というビジョンに沿った内容だ。
博野氏は、「KDDIの中期事業戦略である新サテライトグロース戦略では、通信や生成AIを軸としてDX、金融、エネルギーといった事業を成長させていく方針だ。モビリティも、次なる成長領域として期待されている分野で、ドローンは空のモビリティと位置づけられている」と説明した。
また、グローバルにおけるロボット市場規模予測の数値を示し、アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコでAlphabet傘下のWaymo(ウェイモ)の自動運転タクシーが走っている様子を目の当たりにした感想も織り交ぜながら、「日本はインフラ老朽化、労働力人口減少がグローバルでも先んじて進んでおり、かつ災害大国でもある。ドローン・ロボットを活用する必要性が非常に高い」と指摘した。
ドローンのユースケースとして同社が注力するのは「点検」「監視」「災害対応」の3つだ。そして、この3領域においてドローンの利活用をより促進するため要諦となるのが、「遠隔監視飛行」と「空間情報のデジタル化」だという。
博野氏は、「遠隔監視飛行によって、現場に行かずとも必要な作業を完結できる。また、ドローンで撮影した2次元データを3次元データとしてデジタル空間に再構築することで、現場にいるのと同じように、様々な角度から構造物をチェックし、その判断を現場にフィードバックすることも可能になる」と説明した。
AI活用はエッジサイドへ
その代表的な機体が、「Skydio X10」だという。博野氏は、Skydio X10の紹介動画を用いて、機体に搭載したセンサーで空間情報把握や自律飛行ができること、たとえ遠隔運用でも機体側でリアルタイムに障害物を検知して自律的に回避し目的地に到達できることなどを解説した。
Skydio X10は、新製品発表会のレポート記事でも紹介した通り、LEDライトやマイク&スピーカーなどの拡張機器も豊富で、より多くのユースケースに対応できることも特長だ。もちろん、これについては本セッションでも紹介があったが、最大の“推し”ポイントは「エッジAI」の性能の高さだ。
髙橋社長も基調講演で、「生成AIの台頭や浸透に伴い、従来のようにクラウドやオンデバイスでの処理だけではなく、エッジサイドに処理機能を寄せていく必要性がある」と話していたが、博野氏も本セッションにおいて、「Skydio X10はエッジコンピューティング性能の向上により、AIを活用した複雑な処理を機体側で行いながら、通信を介することでリアルタイムにさまざまな情報をやり取りしながら、必要なミッションを遠隔で完了させることができる」と、より具体化して説明した。
また博野氏は、KDDIがSkydioのプライマリーパートナーであることもしっかりとアピールし、「国内で培ったユースケースを、APACを含むグローバルに展開して、新しい市場を開拓していきたい」と意欲を示した。この点も、髙橋社長の「グローバル市場を狙うスタートアップとKDDIのアセットを掛け合わせ、サービス・ソリューションを開発し、グローバルに展開していきたい」という話と実に相入れる。
ドローンポートで完全無人へ
続けて、博野氏は「このようなAIドローンに離着陸可能なドローンポートを組み合わせることで、完全無人での点検・監視が実現できる」と話した。平時には施設巡回や夜間警備、有事には被災状況の確認や要救助者の捜索活動と、「ドローンポートは、フェーズフリー社会の実現において、なくてはならないものだ」という。
博野氏は、「KDDIグループとしてはドローンポートの全国展開を目指したい。必要な時に、必要な場所で、ドローンが駆けつけ必要なミッションを行うといったサービスモデルを構築していく。将来的には、Starlinkとの直接通信によって全国どこでもつながる社会を実現し、ドローンが、通信、水道、電気、バスなどと同じような社会インフラ基盤として、お客様の安心や便利を支えていく、そんな取り組みを進めていきたい」と語った。
ちなみに、髙橋社長も基調講演では、ローソンとの資本業務提携を話題に挙げ、例えばアメリカのニューヨーク市警がファーストレスポンスとしてSkydio X10を80機導入して活用しているという事例を紹介しつつ、「我々もこういったことに取り組んでいきたい」と話していた。ドローンポートを活用した新たなサービス・ソリューション開発や全国展開に、博野氏が改めて意欲を示した格好だ。
そのためには「ビジネス共創」が重要になる。博野氏は、「ドローンのユースケースの追求と、ビジネス共創をより加速化していく。本日ご覧いただいている皆様と、共に取り組んでいきたい」と呼びかけたうえで、三井不動産と日鉄興和不動産が手がける街づくり型物流施設「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」に併設するドローンの実証実験場「板橋ドローンフィールド」を紹介し、後半のパネルディスカッションにつなげた。
ビジネス共創に向けて ~板橋ドローンフィールド~
後半は、KDDIスマートドローンの博野氏と、三井不動産ロジスティクス本部ロジスティクス事業部長 兼 イノベーション推進室長の大間知俊彦氏、本誌ドローンジャーナル編集長の河野大助氏の3者が登壇して、「ビジネス共創」に向けたパネルディスカッションを行った。
三井不動産は、日鉄興和不動産と共同で、街づくり型物流施設である「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」の開発を手がけている。物流拠点としては、敷地面積9.3万m²、延床面積25万m²超という都内最大級で、チルド配送やドローン活用など物流業界における新たなニーズへの対応力や、最先端のスペックを誇る。将来的には河川上空を利活用したドローン配送も視野に入れているという。
また、両社と板橋区、ヤマト運輸は、「災害時等における防災施設整備等に関する4者基本合意書」を締結しており、例えば大雨による河川氾濫時、周辺住民の緊急一時退避場所として機能する、敷地内の高台広場を緊急着陸用のヘリポートとして活用することなども検討中だという。
三井不動産の大間知氏は、「2024年問題が差し迫るなか、いわゆる物流施設の開発だけにとどまっていては不十分だと考えている。当社はいま、不動産ディベロッパーから産業ディベロッパーへという方針を掲げて、物流以外の機能を持ち、働く人々にとっても快適で、地域にも貢献できるような場づくりに力を入れており、本施設もその流れの一環として開発を進めている」と説明した。
板橋ドローンフィールドでできること
そして、ここに併設されるのが、ドローンの実証実験場「板橋ドローンフィールド(以下、板橋DF)」だ。
太陽光パネル、橋梁、外壁などの点検ゾーンをはじめ、R&D区画も有するなど、「研究開発と実証実験を後押しする」ことを念頭に置いた設計で、さらに室内には異業種や企業間の交流を図りやすいようラウンジを設置するなど、「ドローンをキーとしたコミュニティの創造」を目指すという。
KDDIスマートドローンアカデミー、板橋DFに開校
この板橋DF内に開校する予定なのが、北海道から九州まで全国展開中のKDDIスマートドローンアカデミーだ。
KDDIスマートドローンの博野氏は、「KDDIスマートドローンアカデミーでは、領域専門コースを設けて、産業の担い手を育成することはもちろん、地域特性に合わせた講習の提供など、地域貢献や経済振興にも、各地で一緒に取り組ませていただいている」と話して、AIドローン・Skydio X10の最新活用事例も紹介した。
例えば、非GNSS環境である橋の下で、ビジョンセンサーによる安定した自律飛行を実現して大量の写真を自動撮影し、橋梁全体を俯瞰して現況確認できるオルソ画像を作成した事例や、暗闇かつ非GNSS環境のトンネル内で、LEDライトを搭載して安定した自律飛行点検を行った事例、通信鉄塔点検では、自律飛行、自動撮影、画像解析による異常検知の抽出まで行った事例などを、矢継ぎ早に紹介した。
また、太陽光発電設備の監視では、近年多発しているという「銅線の盗難」の抑止を目的に、Skydio X10を活用した事例もあるという。博野氏は、「実際の映像から、たまたま不審車両を検知し、警察に通報した」と、新たなユースケースをリアルに語り、AIドローンと通信による「遠隔監視飛行」と「空間情報のデジタル化」が、未来をどのように変えるのかを想起させた。
博野氏が「いまご紹介した事例の多くは、この板橋ドローンフィールド内でも検証できる」と話すと、大間知氏も「非常に大きな意義がある」と答えた。ドローンジャーナルの河野氏は、「トンネルのように暗く、非GPS環境下でもしっかり飛ばせるドローンが出てきた。これはすごいことになる」と会場にも呼びかけた。
ビジネス共創に向けて
最後に、板橋DFにおける両社のビジネス共創についても話題に上がった。大間知氏が、「我々はリアルの場づくり、街づくりの価値創造が強み。一方、KDDIグループは、通信やDXが強みで、我々では全く思いもつかないような、ノウハウと経験、事業領域をお持ち。ドローンというものを1つのキーに、両社の力を合わせて、オープンイノベーションを目指したい」と話すと、博野氏も、「我々の役割は、そのリアルな空間をデジタル空間に変換することだと考えている。ドローンのユースケースにとどまらず、ビジネスモデルを一緒に考えさせていただきたい」と応じた。
9月末予定の竣工が、板橋DFのキックオフとなる。博野氏が本ディスカッションで語った、「フェーズフリー社会の実現において重要なのは、有事の際に使いこなせるよう、平時からしっかり準備しておくことだ。普段から使いこなした機材を持つ習熟したオペレーターがいることで、何かあった際にその機材を使って対応していくことが可能になる」という言葉が、まさに板橋区においても、企業間のビジネス共創、そして自治体DX推進の後押しになりそうだ。