1月25日、楽天と東京電力ベンチャーズ、ゼンリンと秩父市は、埼玉県秩父市の浦山ダム周辺において、補助者なしの目視外飛行によるドローン配送の検証実験を行い、報道陣に公開した。この検証実験は環境省の「平成30年度CO2排出量削減に資する過疎地域等における無人航空機を使用した配送実用化推進調査」のひとつとして実施され、昨年9月の航空法に基づく飛行の許可承認の審査要領改正から2例目となる補助者なしの目視外飛行となった。

ドローン配送の実績を積み重ねてきた楽天

大勢の報道関係者を前に離陸する楽天の配送用ドローン「天空2」。

 楽天では2016年から本格的にドローン配送に取り組んできており、自律制御システム研究所と共同開発した配送用ドローン「天空」だけでなく、配送サービスに必要な専用アプリを開発するなど、「そら楽」と名付けたドローン配送サービスを開発している。2015年5月にはゴルフ場でクラブハウスからティーまでドリンクなどを届けるデリバリーサービスとして、世界初のドローン配送サービスを実現した。

 同年10月の今治市における離島間の配送実験を皮切りに、11月には都市部におけるLTEネットワークを活用した配送実験、2017年にも災害時の非常食配送、10月から翌2018年3月まではローソンと共同でコンビニの商品を配送するサービスを実施。2018年3月には山間地域での個宅配送、10月にはドローンとUGVを組み合わせたマンションへの配送のデモを行うなど、着々と社会実装に向けた取り組みを行ってきた。

楽天は2016年5月にいち早くドローンによる配送サービスの実験を開始し、その後も数多くのテストケースを重ねてきた。

 そんな楽天の取り組みの中で、昨年7月には東京電力ベンチャーズ、ゼンリンと共同で、“ドローンハイウェイ”を飛行する配送実験を実施した。これは東京電力が持つ送電線をドローンの“空路”として活用する「ドローンハイウェイ構想」への一歩となる実験で、今回の実証実験と同じ浦山ダム周辺で、送電鉄塔上空を結んで約3kmの商品配送実験を成功させている。

昨年7月には東京電力ベンチャーズ、ゼンリンとともに、ドローンハイウェイを活用した荷物配送の実証実験を実施した。

昨年9月改正の新ルールに基づいた機体や運用の安全対策

 今回の実験も同じ浦山ダムによって形作られる秩父さくら湖岸の送電鉄塔を結ぶ形で実施された。シチュエーションは秩父さくら湖左岸にある、ネイチャーランド浦山という自然公園内のバーベキュー場と浦山ダム間約3kmの行程を、送電線に沿って飛行し、約300gの商品を届けるというものだ。

今回の実証実験は環境省の「CO2排出量削減に資する過疎地域等における無人航空機を使用した配送実用化推進調査」として実施された。

 実験のシナリオはバーベキュー場から商品を注文して、ドローンに届けてもらうという設定となっている。楽天ではドローン配送のための専用ショッピングアプリを用意しており、ここから商品を注文し、配送時間を指定すると、自動的にドローンが届けてくれる。通常のECアプリとの大きな違いは、商品を“買い物かご”に入れるとその重量がカウントされるという点。規定重量を超えると警告が出るようになっている。

商品は専用のショッピングアプリで購入する。画面下には荷物の総重量が表示されている。
目的地を設定し、あらかじめ設定された配送ドローンの時刻表から離陸時間を選択する
アプリでは配送ドローンが離陸すると、今どこを飛んでいるかがリアルタムでわかる。

 昨年7月の実証実験と異なるのは、“補助者なしの目視外飛行”であるということ。官民協議会が策定した「空の産業革命ロードマップ」にある、“2018年度中を目途にした離島や山間部での荷物配送”を実現するために、昨年9月に国土交通省航空局が、航空法に基づく飛行の許可承認の審査要領を改正し、ドローンが目視外飛行を補助者なしで行うために必要な機体性能や飛行経路下の安全対策等の要件を定めた。昨年10月には日本郵便がこの新ルールに基づく許可承認を受けて、福島県浜通りで補助者なしの目視外飛行による郵便局間輸送を開始した。今回の実証実験はその2例目となる。

“補助者なしの目視外飛行”の許可承認を受けるために、機体には監視カメラを搭載し、3Dモニタリングアプリで飛行経路上の風速・風向の確認ができるようにして、周辺住民への注意喚起を行った。

 この許可承認のために楽天では配送用ドローン「天空」に対して、新たに監視カメラを搭載。操縦者はこのカメラが撮影した映像で機体前方の様子をリアルタイムで見ることができる。また、ドローンハイウェイから得た風向風速などの気象情報を表示できる3Dモニタリングアプリを使用。常時飛行ルート上の風向風速を監視し、今回の場合風速7m/sを超えると飛行を中止するとした。さらに、今回の飛行を行うことを示した看板を設置して、周辺住民への注意喚起を行った。

実際に飛行した「天空2」。外観は従来の「天空」とほとんど変わらないが、前方の監視カメラを搭載し、5GHz帯の周波数を使って映像をアナログ伝送する機能が新たに追加されている。
配送されたのはウェットティッシュと虫刺され薬、紙皿の3点で、商品の合計重量は246g。
機体の位置を立体地図上に表示できる「3Dモニタリングアプリ」。風速、風向がリアルタイムで表示され、規定値を超えると表示が赤くなって警告する。
離陸地点に設置されたドローンの状態をモニタリングできる「ドローンダッシュボード」。
飛行中のドローンの監視を行う操作卓。右端の三脚の上にあるのは、機体の監視カメラの映像を受信する5GHz帯のパッチアンテナ。

10分足らずで3km先の目的地に商品を送り届けることに成功

 実証実験は浦山ダム左岸の駐車場から離陸し、近傍の送電鉄塔に接近すると、あらかじめ設定された送電線上の空路に沿って飛行する。昨年7月の実証実験では架線されていない送電鉄塔を結ぶ形で飛行したが、今回は高圧送電線の上空約20m付近に設定された空域を飛行するという、より“ドローンハイウェイ構想”の目指す姿に近い形での飛行となった。

飛行ルートは浦山ダムを離陸し、秩父さくら湖左岸にある送電線上の空域を飛行して、ネイチャーランド浦山のバーベキュー場まで約3kmとなっている。

 離陸したドローンはいったん数メートルの高さでホバリングした後、離陸地点の上空数十メートルまで上昇し、すぐに空路に向かって発進。送電線の上空の空域にたどり着くと、送電網に沿ってダム湖左岸の山並みを超えて3km先の目的地に向かって飛行。数分で離陸地点の報道陣から見えなくなった。その後は離陸地点に設けられたモニターの専用アプリ上で、機体の位置とカメラから送られてきた映像から機体が順調に飛行していることを確認。ほどなく映像は目的地のバーベキュー場に設けられた着陸地点のカメラに切り替わり、上空からドローンが降りてくる様子が映し出され、無事着陸した。

送電線の上に設けられた空域を飛行して目的地に向かう「天空2」。昨年の実験では架線のない鉄塔(映像中の2本の角のような形の鉄塔)を結ぶ形で飛行したが、今回は送電を行っている架線の上空を飛行した。
今回は通電している送電線の上空20mが飛行ルートとなっている。また、離陸地点から見て尾根向こうまで飛行するため機体からの電波が届かない。そこで対岸の送電鉄塔に気象監視装置を設置するとともに、カメラ映像受信用のアンテナを設置して、機体から受信した映像をLTE経由で転送した。

 楽天のドローンビジネスの責任者である向井秀明氏は、昨年6月、そして今回の実験を通じて得たノウハウを生かして技術開発を続け、2019年度中には定期的なドローン配送を行う形で実用化をしたいと話す。また、現在は最大離陸重量10kgとしているが、さらなる利便性を求めるという意味で、より大きなペイロードも目指しているという。

「2019年度中にドローン配送を実用化することを目指している」と語った楽天ドローン事業部ジェネラルマネージャーの向井秀明氏。
楽天、東京電力ベンチャーズ、ゼンリンと秩父市が「秩父市ドローン配送協議会」を立ち上げ、昨年からの実証実験を行っている。