i-Constructionでは起工測量、三次元設計データ作成、ICT施工、出来形管理、データ納品という5つの段階において、三次元化した設計データや計測データを扱う。

 建設機械レンタル大手のアクティオは、2018年11月30日に千葉県市原市のアクティオ千葉トレーニングセンターで、報道陣関係者向けの「i-Constructionプレスセミナー」を開催した。アクティオは建設機械のレンタルと同時に人材育成にも取り組んでおり、1997年にはレンタルとコンサルティングを合わせた造語「レンサルティング」を商標登録して、“モノだけでなく知恵も貸す”をコンセプトに、現場のノウハウを顧客に提案している。

 2016年にi-Constructionが提唱されると、アクティオでは社内に100人の人材を育成し、工事のICT化に対応できる体制を整備。ICT土工に対応した建設機械や測量機器をレンタルするだけでなく顧客への研修を行っている。その拠点が千葉県市原市と三重県いなべ市のトレーニングセンターであり、今回のセミナーは実際には数日間にわたって行われるトレーニングをイメージできる形で、ドローンや土木・建築分野の報道関係者に向けて行ったものだ。

起工測量から出来形管理まですべて三次元データ化

 i-Constructionは2016年から始まった土木の現場でICTを導入することで生産性を向上させる生産性革命プロジェクトの一つだ。現在、土木建設業に関わる技能労働者約340万人がいるが、そのうち約110万人が高齢化により離職するといわれ、今後、現役世代が同じ現場数をこなすとすると約1.5倍の生産性が求められることになるといわれている。

 また、これまで“きつい”“きたない”“危険”といったマイナスの“3K”で捉えられがちだった土木建設業を、“給与(が高い)”“休暇(が取れる)”“希望(が持てる)”という“新3K”に変えていくことが叫ばれている。こうしたことを実現するために掲げられたi-Constructionでは、「ICT技術の全面的な活用」と「規格の標準化」「施行時期の平準化」という施策を定めており、このうち「ICT技術の全面的な活用」で、ドローンやICT建機を活用した取り組みが始まっている。

 ICTを活用したi-Construction土工では、
①起工測量(現況を把握するための測量)
②三次元設計データ作成(二次元の設計データを三次元に変換する)
③ICT施工(ICT建機を活用した効率のよい施工)
④出来形管理(施工後の現況を設計データと検証)
⑤データ納品(メディアに設計データや測量データ、写真等を収めて提出)

というプロセスがある。この5つの段階すべてにおいて、i-Constructionの基準にのっとった方法で施工することにより、評定点が加点され、後の公共工事で受注が有利になる。

i-Constructionでは起工測量、三次元設計データ作成、ICT施工、出来形管理、データ納品という5つの段階において、三次元化した設計データや計測データを扱う。
5つの段階すべてでi-Constructionの基準を満たした方法を採用することで、評定点が加点される。この評定点は後の公共工事の受注で有利に働くという。

三次元設計データ通りに建設機械が自動で動く

 ICT土工の5つのステップを経験する形となった今回のワークショップ。最初の起工測量のステップでは、アクティオ千葉トレーニングセンターを施工現場に見立てて空中写真測量を実施した。ドローンを使う測量では、評定点と検証点というGCP(対空標識)の設置が必要で、今回のデモにおいても対空標識を敷地内に設置。敷地脇に設置した基地局の正確な位置情報をもとに、TS(トータルステーション)を使って対空標識の位置を測量した上で、DJIのInspire2を飛ばし、DJIの自動航行アプリ「GS PRO」で約50m上空から写真を撮影。そのデータをSfMソフト「PhotoScan」に取り込んで点群データ化すると同時に、対空標識の位置を入力してデータに正確な位置を与えた。

ドローンによる空中写真測量で欠かせないGCP(対空標識)。飛行前にTS(トータルステーション)と受光器付きスケール棒を使ってその位置を測量しておく。
対空標識の代わりにGNSSによって自動的に標識の位置を計測するドローン用対空標識「エアロボマーカー」もアクティオでは採用している。
SfMソフト「PhotoScan」にドローンが撮影した写真を取り込み三次元データ化する。
対空標識の座標を入力することで三次元データの位置を補正する。
DJIのInspire2を使って施工現場に見立てた敷地を空中写真測量するデモ。自動航行アプリ「GS Pro」を使って写真を撮影する間は、オペレーターの操作は不要だ。専用ジンバル付きカメラX5Sを使用した場合、地上画素寸法1cm/ピクセルで高度約50mを飛行させる。

 次に三次元設計データの作成を行う。i-Constructionが始まってまだ2年しかたっておらず、設計から工事開始まで3年程度かかる土工では、2018年4月現在、三次元による測量と設計が行われた発注はなく、当面の間は二次元データの三次元化が必要だ。i-Constructionが普及して設計段階から三次元データを扱うようになれば、この作業は不要となる。この設計データの三次元化によって、起工測量や出来形測量で得た三次元データとの比較により、土を盛ったり削ったりするという施工量の算出や、設計データと実際の出来形との比較検証がソフトウエア上で簡単にできるようになる。

PDFで支給される平面図、縦断図、横断図から、三次元設計データを作成する。
専用のCADソフトにPDFの設計データを取り込み、線形や各ポイントの縦断、横断のデータを作成していく。
ドローンやレーザースキャナーを使って起工測量で得た三次元計測データと三次元設計データをソフトウエア上で重ね合わせることにより、その差分から施工量が自動的に算出される。

 3番目のICT施工では、こうして作成した三次元設計データをもとに、ICT建機を使って施工を行う。今回のセミナーではアクティオが扱っている3Dマシンコントロール・バックホウで、敷地に盛られた土砂を設計データ通りに削る様子が披露された。従来の工法では、掘削する場所にガイドとなる糸を張る「丁張(ちょうはり)」を行い、このガイドを見ながら建機オペレーターが掘削を行う。この場合、丁張に沿って正確に作業を行うのは熟練の技術が必要であり、また、作業ムラも発生する。

 一方、3Dマシンコントロール・バックホウであれば、GNSSにより正確にバケットの刃先の位置が管理されており、マシンコントロールを起動した上でバケットを操作すると、自動的に設計データの位置にバッケットが移動し、オペレーターがその方向を指示するだけで、正確に設計データ通りの掘削を行うことが可能だ。また、アクティオでは丁張の代わりに運転席のモニター上に設計データ上のバケットの位置を表示して、オペレーターが設計データを見ながら作業ができるマシンガイダンスの装置も提供している。これは、水中の土砂を掘削する浚渫工事のような、掘削面が見えない工事でも有効だという。

ICT建設機械による施工は、「マシンコントロール」と「マシンガイダンス」が使えるブルドーザとバックホーの利用が必要となる。
ICT建機と組み合わせて使う、ユニバーサルトラッキングシステム搭載のトータルステーションとGNSS。
「マシンコントロール/ガイダンス」技術を搭載したバックホー。旋回体の上部には2本のGNSSアンテナと通信用アンテナを搭載している。
施工場所の測量やICT建機の運用に必要な基準局。この基準局とTSやICT建機が通信を行い、それぞれの位置を正確に特定する。
三次元設計データに従ってバックホーは正確にバケットの刃先の位置を調整しながら掘削作業を行う。
マシンコントロールによる掘削作業のデモ。ボタン操作でマシンコントロールを起動させたうえでバケットを操作すると、バックホーのショベルが自動的に三次元設計データ通りに動いて正確な掘削ができる。

 こうしたICT施工が完了すると、出来上がった土工の形状を確認する出来形測量を行う。この測量でもドローンやレーザースキャナーが用いられ、空中写真測量では撮影した写真から三次元データを作成する。そしてこの三次元測量データと三次元設計データを重ね合わせることで、設計データ通りに作業ができているかどうかがソフトウエア上で一目でわかる。この出来形のデータは出来形帳票としてデータの形で発注者に提出することになる。

 発注者はこのデータをもとに書面検査を行うと同時に、施工者とともに現場に出向き、実際に設計通りに施工できているかどうかをGNSSローバーなどを使って検査を行う。この結果を踏まえて、施工代金が支払われることとなる。

ドローンやレーザースキャナーで計測した出来形と設計データを重ね合わせることで工事の品質を確認する。このソフトウエアでは両者の差分を色で表現している。
出来形管理ソフトで三次元設計データと出来形測量で得た三次元測量データを比較し、その差が基準値以内に収まっているかどうかを評価する。
最終的に発注者の検査員の立会いのもと、TS(トータルステーション)やGNSSローバーを使って出来形計測を行い、実測値と設計データの差が規格値内に収まっているかを確認する。
GNSSローバーの端末のディスプレイには設計データとの差分が表示されている。

 このように、設計図や測量データを三次元化することで、設計と現況を比較したり、オペレーターの熟練度に依存せずに高品質な施工を可能としたi-ConstructionのICT土工。ICT活用工事では起工測量から出来形管理、データ納品まですべての段階でICT土工の技術を採用することが求められるが、アクティオではこれらすべてを提供できるだけでなく、ユーザーのニーズに応じて個々の段階に必要な機材を提供することも可能だという。さらに、こうした機器を扱うには従来の土工とは違う知識やノウハウが必要だが、施工業者などに対してそのための講習やセミナーも行っている。