Space CompassとNTTドコモ(以下、ドコモ)は、ケニア共和国ライキピアカウンティにおいて高度約20kmの成層圏を飛行する高高度プラットフォームであるHAPSを介した、スマートフォンを用いたLTEによるデータ通信の実証実験に2025年2月に成功した。
HAPS(High-Altitude Platform Station)とは、高度約20km上空の成層圏を数日~数か月の長期間にわたり無着陸で飛行する無人飛行体。中継器などを搭載し、直径100~200km程度のエリア化が可能となる。従来エリア化が困難であった空や海上、採算性の観点からエリア化されていなかった過疎・中山間地域なども対象とすることが検討されている。
今回、地上のLTE基地局から送信される電波を、高度約20kmの成層圏を飛行するHAPSを介し、地上のスマートフォンへ伝送する実証実験を実施。地上に設置したLTE基地局を地上ゲートウェイ局(HAPSと地上の通信ネットワークを中継する地上局)に接続し、HAPSに搭載した非再生中継方式(※1)と呼ばれる電波を折り返す中継技術を用いた通信装置を介して、地上のスマートフォンと情報データの送受信を行った。
その結果、地上ゲートウェイ局からHAPSを中継したスマートフォンへの通信(フォワードリンク)で4.66Mbps以上のスループットを確認した。また、成層圏を旋回するHAPS機体から、一定のエリアに通信カバレッジを形成するために地上の定点にビームの中心を向ける技術を実装し、HAPSから折り返される電波がスマートフォンで正常に受信できることを地上の試験エリアにて確認した。
※1 非再生中継方式:基地局装置をHAPSには搭載せず地上に設置し、HAPS機体側では地上からの電波を折り返す中継機能を有する通信装置(ペイロード)を用いる方式。
実験には、AALTO HAPS(以下、AALTO)が製造・運用する小型固定翼型のHAPS機体「Zephyr」を活用。同機は2022年に64日間の滞空飛行を実現するなどの飛行実績を有している。
Space Compassとドコモは、HAPSの2026年の商用化を目指し開発を進め、Beyond 5G時代における空・海・宇宙などあらゆる場所への「超カバレッジ拡張」を実現する宇宙RAN(Radio Access Network)の開発に取り組むとしている。
なお、この成果の一部は、情報通信研究機構(NICT)の「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業」の委託研究により得たものとなる。
実験概要
地上のLTE基地局から送信される電波を高度約20kmの成層圏を飛行するHAPSを介し、地上のスマートフォンへ伝送する実証実験を実施した。実験では、AALTOのHAPS機体「Zephyr」を利用し、ケニア上空の成層圏を飛行した。成層圏でHAPSを旋回させ、地上のスマートフォンとのLTEを用いた通信サービス実証を行い、通信の確立に成功した。
【実験実施期間】
2025年1月~2月
【使用周波数帯】
- サービスリンク(スマートフォンとHAPS間の通信):2GHz(帯域幅10MHz)
- フィーダリンク(地上ゲートウェイ局とHAPS間の通信):38-39.5GHz(帯域幅10MHz)
【実験結果】
実験では、HAPSを介した携帯端末向け直接通信システムの実現性を実証するため、以下を実施した。
- コアネットワークの機能と基地局の機能を模擬できるエミュレーターを、HAPSを介してスマートフォンと接続し、フォワードリンクおよびスマートフォンからHAPSを中継した地上ゲートウェイ局への通信(リターンリンク)の疎通を確認
- HAPS直接通信システムにおける、サービスリンクの受信強度(RSRP)および信号対雑音比(SNR)の測定
- HAPSが生成するサービスリンクエリアの安定性の確認、およびフィーダリンクの追尾性能、安定性の確認
【各社の役割】
Space Compass | ・AALTOからのHAPS機体の手配 ・実験で用いた通信システムの仕様策定 ・ケニアにおける試験項目の立案と試験の実施 ・測定結果の分析 |
ドコモ | ・HAPS機体に搭載される無線通信装置および地上局を用いたドコモラボにおけるドコモ装置との相互接続性確認試験の実施 ・ケニアにおける試験項目の監修 ・測定結果の分析 |