2021年10月、静岡県の富士スピードウェイでA.L.I. Technologiesが空飛ぶバイク「XTURISMO(エックスツーリスモ)」の実機飛行を公開し、予約販売を開始したことで注目を集めた。それから1年が経過し、ついに第1号となる空飛ぶバイクが納品されることとなり、12月16日に記念すべき納車式が開かれた。

日本で初めて製品化された空飛ぶバイク「XTURISMO」とは?

 「空のインフラ」の実現を目指すスタートアップ企業のA.L.I. Technologiesは、2016年の創業以降、ドローンやブロックチェーンなどに関連する幅広い事業に加え、エアモビリティの総合企業として事業を展開してきた。また、9月には同社の米国法人であるAERWINS Technologies IncがNASDAQ上場を果たしたことも記憶に新しい。

A.L.I. Technologies XTURISMO 富士スピードウェイお披露目会(2021/10/26) - YouTube(引用:dronefund vc)

 XTURISMOの開発はスターウォーズにインスパイアを受けたことから始まり、「空中を駆けるホバーバイク」として東京モーターショー2019で初めて公開された。その後、2021年10月に世界限定200台、7770万円で予約販売を開始し、海外からも注目される次世代のエアモビリティとなった。

 通称空飛ぶ“バイク”と呼ばれるが、空飛ぶクルマ同様に公道での飛行は法規制によって禁止されている。しかし、社会実装に向けて空飛ぶクルマの官民協議会でロードマップが作成されたり、9月には「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト(ReAMoプロジェクト)」が開始されるなど、公道使用に向けた法整備が進められている状況だ。ただし、現状では私有地での運用に限られてしまうという。そのため、操縦免許制度も設けられていない。

XTURISMO Limited Editionは想像以上に大きく、迫力のあるデザイン。

 今回、成約したXTURISMO Limited Editionは、バッテリーとガソリンエンジンを搭載したハイブリッド機で重量は約300kg。水上オートバイの下部に大型のプロペラを設けたような形状で、1人乗りとなる。前後方に1個ずつ備えられた大型のプロペラで浮上を行い、その大型プロペラの左右に位置する中型のプロペラで姿勢制御を行っているという。また、2021年10月に実機飛行を行った時点では、騒音が大きいという課題を抱えていたが、XTURISMO Limited Editionでは騒音低減の改良が施されている。

大型のプロペラを2個、中型のプロペラを4個配置している。

 ハンドルは固定されており、周辺に備えられたスイッチ類でドローンと同じように操縦する仕組みで、バイクのように多少の体重移動をしながら横移動などを行う要素もあり、乗り物を操る楽しさも期待できそうだ。販売価格の7770万円には、操縦講習料と保険料が含まれる。1回の飛行は約40分だ。

ハンドル周りには操縦用のスイッチが並び、スマホサイズのナビゲーション用モニターを装備。バイクのようにブレーキレバーは無く、ドローン同様に移動操縦の入力を止めれば自動でその場でホバリングを行う。
第1号を示す0001のプレート。

使用用途はアイデア次第!遊びから事業まで幅広い運用を目指す

 記念すべき第1号を購入したのは湘南美容クリニックを開業し、SBCメディカルグループの代表を務めることで有名な相川佳之氏だ。今回開かれた納車式では、始めにA.L.I. Technologiesの片野大輔代表が挨拶を行い、証書にサインが交わされた。

A.L.I. Technologiesの片野大輔代表(左)とSBCメディカルグループの相川佳之代表(右)

 購入した相川氏は、「自家用ヘリや船舶、車やバイクなどの乗り物好きが高じて購入に至りました。現在は法規制で公道での使用が認められていないため、私有地や海上で飛行させることを考えています。遊びで乗るだけでなく、事業での運用も視野に購入を決断しました。というのも、東日本大震災の発生時に、多くの道が寸断されてしまったことが記憶に残っており、そのような場面でエアモビリティは物資運搬などに十分役立ちます。7770万円という価格を聞いた時は驚きましたが、未来の事業投資として運用していきたいと思います。遊びと事業の両面からXTURISMOを乗りこなし、技術進歩のためにも乗り心地や使い勝手などさまざまなフィードバックを残していくことも重要です。しかし、まずは購入者第1号なので、飛行公開や試乗会の開催などをやってみたいですね」とさまざまな活用アイデアを抱きながら、楽しそうに話してくれた。

 A.L.I. Technologiesの片野代表は「XTURISMOの開発は約6年かかりました。販売開始の発表から1年が経過しましたが、第1号が販売に至って非常に嬉しく思います。これを機会に反響の大きかった海外でも販売につなげていきたいと考えています。また、現在はバッテリーとエンジンによるハイブリッド駆動ですが、バッテリーのみで駆動する次世代型も開発中です」と語った。

 空飛ぶバイクや空飛ぶクルマの実現はまだ数年後の話のように感じるかもしれないが、いよいよ所有者が現れ、着実に実現に向かっていることが分かる。今後、新型XTURISMOや海外への販路拡大など、A.L.I. Technologiesの動向に注目したい。