沖電気工業(以下OKI)とオキシーテック(以下OKIシーテック)は、2020年10月、波浪によって揺れ動く洋上の母船に対して海底・海中から安定した映像を伝送する、水中音響通信技術を用いた実証実験に成功したことを、2020年11月18日発表した。これにより、活用が期待される海洋鉱物資源を探査・調査する作業の効率を飛躍的に高めることが可能になるという。なお、実証実験は駿河湾内海域において、OKIシーテックの計測船「ひびき」を用いて実施された。

駿河湾で実験中の計測船「ひびき」

 日本近海には、海底熱水鉱床(※1)、コバルトリッチクラスト(※2)、メタンハイドレート(※3)などの海洋鉱物資源が豊富に存在することが明らかになっており、金属鉱物資源の新たな供給源になることが期待されている。これを受けて、海底・海中の様子を撮影する水中無人機を用いた海洋鉱物資源の探査・調査が広く行われるようになっているが、従来は探査を終えた水中無人機を洋上の母船に回収してカメラ映像や音響画像などのデータを確認していたため、必要な収集データが得られるまで再探査を繰り返す必要があった。
 そこで母船と水中無人機に通信機器を搭載し、収集データを通信する方法がとられているが、有線で接続する方法では岩陰などの通信ケーブルの取りまわしが煩雑という課題があった。また、光や電波を用いて無線で接続する方法では、光や電波の水中における伝搬損失が大きいため、一定の距離以上での通信が困難という課題がある。これらの課題を解決する方法として注目されているのが、水中音響通信技術である。

 水中音響通信は、音波を利用することで光や電波による通信よりも長距離での伝送が可能で、通信ケーブルの取りまわしの問題もない。しかし従来の水中音響通信技術では、波浪による母船の揺れによって受信する音波に周波数の変化(ドップラー効果(※4))が生じるため、通信障害などを引き起こす課題があり、波浪に強いロバスト性(※5)を有する技術・機器の開発が求められていた。

 OKIシーテックは、琉球大学、沖縄工業高等専門学校と共同で開発したドップラー補正機能(※6)により波浪の影響を補正する、ロバスト性に優れた水中音響通信技術を開発。OKIシーテックの計測船「ひびき」を用いて駿河湾内海域で実施した今回の実証実験では、この技術を用いることで、母船が波浪の影響を受ける場合でも揺れのない環境と同等の通信速度、品質が実現できることを確認した。これにより、母船の移動や揺れを抑制するためのアンカーリングなどの仕組みが不要となり、かつ水中無人機などの収集データを母船で即時に確認することが可能となるため、効率的な海洋鉱物資源調査の実現に貢献できるという。

実験概要

実験環境 :駿河湾内 水深約100m海域における鉛直方向通信
波浪状況 :波高0.5m程度(海況(※7)2相当)
人工的上下動の長さ :1.25m(海況3相当)
伝送速度 :32kbps
伝送動画の画素数 :640×360
動画圧縮規格 :H.265
画像再生状況 :海況3相当環境下で良好再生状況を確認

 OKIとOKIシーテックは本技術を、実際の海中の探査・調査で水中無人機が活動する深度で利用できるよう、さらに進化させると同時に、得意とするラギダイズ技術(※8)や、水中音響計測主体の専門機器・測定器材を装備した固定式計測バージなどの実験環境を活かしながら商品開発を進めていく、としている。

用語解説

※1:海底熱水鉱床
地下深部に浸透した海水がマグマ等により熱せられ、熱水が海底に噴出し、周辺の海水によって冷却される過程で、銅、鉛、亜鉛、金、銀等の各種金属が沈殿してできたもの

※2:コバルトリッチクラスト
深海底に存在する鉱物資源のひとつで、1000m以深の海山の斜面や頂上などの岩盤を皮殻の様に覆い、コバルトを特徴的に含むマンガンクラストの一種

※3:メタンハイドレート
天然ガスの原料であるメタンガスが海底下で氷状に固まっている物質のことで、火を点けると燃えるために「燃える氷」とも呼ばれている

※4:ドップラー効果
音波や電磁波など波の発生源と観測者との相対的な速度によって、発生波の周波数とは異なる周波数が観測される現象

※5:ロバスト性
応力や環境の変化といった外的要因による影響を内部で阻止する仕組みや性質

※6:ドップラー補正機能 (特許第6707737号 琉球大学、沖縄工業高等専門学校、OKIシーテック)
水中音響通信において、ドップラー効果により生じる受信音波の周波数変化量を自動的に検知し、変化に応じた補正処理を施すことによって、安定した通信を実現する機能

※7:海況
風浪階級のことで、風浪の程度を示す階級。船や沿岸から見てわかるように定めたもので、気象庁風浪階級表では10階級に分けられている

※8:ラギダイズ技術
製品などに、耐熱や防水、耐衝撃等の耐環境性を付与すること