2020年11月17日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)は、ブロードキャスト型通信システムによってドローンを遠隔から識別する評価試験に成功したことを発表した。試験は10月19日から23日に「福島ロボットテストフィールド」(福島県南相馬市浪江町)で行い、水平到達距離300m以上で識別できることを確認した。
具体的には、Bluetooth5.0を用いたブロードキャスト型通信評価試験方法を適用し、試作送信機を搭載した高度約150mを飛行するドローンと、地上に配置した試作評価受信機での通信成功率を確認する試験を実施し、水平距離300mで最大通信成功率95%の性能を確認。本試験にて、通信システムの一つであるブロードキャスト型通信の有効性が実証できた。
今後は本試験方法に基づいて、送信データの精査と運用を見据えたセキュリティの実装を行い、安心・安全にドローンを運航するための研究開発を実施していく。
概要
NEDOは、ドローンなど無人航空機の機体IDの遠隔識別および有人航空機との空域共有に関する研究開発や、運航管理システムの開発などを実施するプロジェクト(※1)を進めており、将来的には国際標準への提案を見据え、あらゆるドローン事業者が安心・安全にドローンを運航できる社会を目指している。
ドローンを遠隔から識別する技術などの研究(※2)では、ドローンに送信機を取り付けて識別情報や位置情報などを発信する通信システムや、有人航空機と無人航空機の空域共有を想定した飛行情報共有システムの開発に取り組んでおり、運航管理システムとの相互接続性の評価を実施することで、安全な無人航空機の目視外飛行の実現を目指している。
こうした中でNEDOは、10月19日から23日に「福島ロボットテストフィールド(※3)」において、ドローンを遠隔から識別する通信システム技術の一つであるブロードキャスト型(※4)の通信評価試験を実施し、水平到達距離300m以上で識別できることを確認した。
具体的には、Bluetooth5.0を用いたブロードキャスト型通信評価試験方法を適用し、試作送信機を搭載した高度約150mを飛行するドローンと、地上に配置した試作評価受信機での通信成功率を確認する試験を実施。その結果、水平距離300mにて最大通信成功率95%の性能を確認することができた。
本試験にて、通信方式の一つであるブロードキャスト型通信の有効性が実証できた。
実証試験の概要
機体識別情報を遠隔で通信する方法の一つには、機体に搭載した送信機から地上の受信機に情報を直接送信するブロードキャスト型通信方式がある。ブロードキャスト型通信方式は情報を経由する基地局などを必要としない。
今回実施した通信評価試験では、このブロードキャスト型通信方式の試験条件を適用。試験評価項目は主に「送信機と評価受信機との水平方向の距離」「送信機の高度」「送信機の位置」の3項目である。
No. | 項目 | 設定 |
---|---|---|
1 | 送信機と評価受信機との水平方向の距離 | 300m、500m、700m |
2 | 送信機の高度 | 50m、150m |
3 | 送信機の位置 | 4方向 送信機が評価受信機の正面となる位置を0度として90度ごと回転する。送信機と受信機が見通せる理想に近い状態での評価 |
4 | データ量 | 244bytes/回 (識別情報、位置情報、時刻、認証情報など) |
5 | 実施場所 | 送信機:滑走路 評価受信機:中央通路上、滑走路 |
6 | 発信頻度 | 1回/秒 |
7 | 電波状況 | 測定地点の周辺電波状況確認 |
通信評価試験のために試作した小型の送信機をドローンに搭載し、実際に高度約150mまで飛行させ、地上に配置した評価受信機との水平距離などの条件を変えながら受信状態の評価を実施した。
分類 | 項目 | 仕様 |
---|---|---|
全般 | 電池駆動時間 | 7時間以上 (目標) |
電源 | 電池 | リチウムイオン二次電池 3.8V 1670mAh |
無線 | 無線方式 | Bluetooth 5.0 |
無線 | 通信距離 | 最大500m(目標) |
機構 | 外形寸法 | 80mm(W)×85mm(H)×21mm(D) |
機構 | 質量 | 134g |
機構 | 電池装着 | 電池取り外し可 (ネジ取り外しによる交換) |
法令・規制 | 電波法 | 日本 認証モード:LE Coded 125kbps(S=8)、LE 1M 認証番号:003-200038 |
法令・規制 | 空中線電力 | 10mW |
地上に配置する受信機については、Bluetooth5.0など複数の通信方式を受信し通信成功率を計測できる評価受信機を試作して、送信機による同時評価を含めて試験を実施した。
今回の通信評価試験によって、ブロードキャスト型の試作送信機を搭載した高度約150mを飛行するドローンと、地上に配置した試作評価受信機との水平距離が300m(送信機側と受信機側に搭載されているGPSで測定)以上の条件で、識別情報や位置情報、Bluetooth5.0などを受信できることを確認するとともに、評価試験方法の確立を行うことができた(PDF「ブロードキャスト型通信評価仕様書」参照)。
また、通信評価試験を通じて「送信機と評価受信機との水平方向の距離」「送信機の高度」「送信機の位置」が通信成功率に影響することを確認し、送信機と受信機が見通せる理想に近い状態において、水平距離300mにて最大通信成功率95%の性能を確認することができた。
これらの成果により、将来Bluetooth5.0を搭載した一般的なスマートフォンなどでドローンを遠隔から識別できる可能性が明らかになった。
今後は、本試験方法に基づき、ドローンを遠隔から識別するための送信データの精査、運用を見据えたセキュリティの実装を行い、安心・安全にドローンを運航するための研究開発を進めていく、としている。
注釈
※1 プロジェクト
事業名:ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト(委託事業)
実施期間:2017年度~2021年度の5年間を予定
2020年度予算:40億円
詳細:ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト
※2 ドローンを遠隔から識別する技術などの研究 (上記、※1プロジェクト内の研究開発項目)
研究開発項目:〔2〕無人航空機の運航管理システム及び衝突回避技術の開発(1)無人航空機の運航管理システムの開発/6)遠隔からの機体識別に関する研究開発
実施機関:2019~2021年度の3年間を予定
詳細:無人航空機の遠隔からの機体識別技術などの研究開発に着手(2019年6月27日ニュースリリース)
※3 福島ロボットテストフィールド
物流、インフラ点検、大規模災害などに活用が期待される無人航空機、災害対応ロボット、水中探査ロボットといった陸・海・空のフィールドロボットを主な対象に、実際の使用環境を再現し、研究開発、実証試験、性能評価、操縦訓練を行うことができる研究開発拠点。
※4 ブロードキャスト型
ドローンに搭載した送信機からリモートIDを発信する方式として、送信機から受信機に直接送信するブロードキャスト型と、地上の通信インフラ機器を介して通信を行うネットワーク型があり、ブロードキャスト型にはBluetooth5.0やWiFiを使用する方式が、ネットワーク型にはLTEを使用する方式など、それぞれ複数の方式が考えられている。