4月18日から20日の3日間、千葉県千葉市の幕張メッセで「第4回国際ドローン展」が開催された。出展者は48社、77ブースとコンパクトな展示会ではあるが、3月に開催された「Japan Drone 2018」と並んで、日本のドローン産業のトレンドがわかるエキジビションとして定着している。また、本展示会は「TECHNO-FRONTER 2018」などと同時開催となっており、ドローン産業以外の業種に携わる来場者の関心を集める場となっている。ここではそんなエキジビションで注目を集めたドローンを紹介しよう。
ACSLは製品として現場で活躍するドローンを展示
ACSL(自律制御システム研究所)は、現在、製品としてすでに販売しているドローンを中心に展示していた。同社は非GNSS下でもビジュアルSLAMによる飛行が可能なドローン「PF1-Vision」を2017年からリリースしているが、このドローンとともにパッケージをそのまま使いながら機体サイズを小型化した「PF1-mini」を出展。既存のPF1より狭い環境下で飛行が可能となっている。また、さらに狭い環境で飛行が可能なドローン「Air Slider AS400」も展示。水道インフラの管理やコンサルティングを手掛ける企業NJSと、2017年から共同開発している機体で、直径400mmの下水道管の中を飛行しながら撮影を行う。
こうした小型のドローンに対して、PF1ベースをベースに12ローター化したパワフルな機体が「PF1W」だ。川の流量を観測するための機体で、2017年の国際ドローン展ではPF1ベースとは異なるオレンジ色の機体「DFF(Drone Flow type-Fushi)」を出展していたが、今回はPF1をベースに6つのローターを二重反転式として12ローター化。この機体は川の流量を計測する「浮子(ふし)」を搭載し、川に浮子を浮かべてそれを空中からけん引するためパワーが必要となる。そこで二重反転として推力を稼いでいるわけだ。
インテリジェントバッテリー化が進むエンルートの製品群
エンルートは2017年からNEC製のインテリジェントバッテリーの搭載を進めており、今回の国際ドローン展ではこの新型バッテリーを中心に、対応となった機体などを展示。現在エンルートの主力モデルである農薬散布ドローンでは、昨春デビューした9リットルモデルの「AC1500」に加えて、従来からある5リットルモデルの「AC940-D」のマイナーチェンジモデルである「AC940-F」をリリース。このAC940-Fはタンクやカウリングのデザインを刷新し、新たにインテリジェントバッテリー対応となっている。
また、測量をはじめ各種撮影に対応した軽量コンパクトな汎用ドローン「QC730」も、インテリジェントバッテリー仕様とした「QC730-F」を参考出品。流線型にデザインされたカウリングなどが従来モデルとの見た目の大きな違い。さらに同じQC730をベースにした測量専用機「QC730-TS」も今回が展示会のデビューとなる。トプコンのTSトラッキングUASを搭載し、現場に標定点を設置しなくても正確な測量が可能となっている。
インテルのFALCON 8+がようやく日本にも上陸
今回の国際ドローン展で注目を集めていたのが、ドローンラボのブースだ。ドローンラボはドローン大学校の母体となっている企業で、この春から新たにインテルの産業用ドローン「FALCON 8+」の販売を開始。今回の国際ドローン展が日本で初めてのお披露目の場となった。
FALCON 8+はインテルが2016年から北米、欧州を中心に販売している産業ドローン。2016年にインテルがドイツのACENDING TECHNOLOGIESを買収し、その技術を受け継ぐ形で生まれたモデルだ。カーボン製のV字型フレームに8つのローターを装備するオクトコプターで、V字の谷間にカメラとジンバルを備え、測量や点検、精密農業などに必要な写真を撮影できる。ジンバルは真下から真上まで180度回転することが可能で、用途に応じてカメラやジンバルを付け替えたりといった作業が不要なのが特徴だ。また機体重量は約2kgで、約800gのカメラジンバルと合わせても、このサイズで3kg足らずという軽さもこの機体の大きな特徴だという。
黄色く彩られたコントローラー部には3系統のIMUを搭載しており高い冗長性を確保。また、送電線点検のような磁界が乱れた場所の飛行で、たとえコンパスエラーが出たとしてもそれを感知して位置や姿勢を保つ制御プログラムを備えているという。バッテリーはインテリジェント化された「INTEL POWERPACK」をコントローラーと共用する形で利用可能。1回あたり約20分程度のフライトが可能だ。
このFALCON 8+には専用の「INTEL COCKPIT CONTROLLER」という独自のコントローラーが付属。一見すると2スティックの一般的なコントローラーに見えるが、右スティックを回転させられる仕組みになっていて、この回転で機体のヨー方向の動きを制御するスタイルとなっている。また、コントローラーにはWindowsタブレットが固定されていて、この画面上で機体の各種設定のほか、映像のモニター、さらに自動航行のルート設定などが行えるという。
欧米では石油ガスプラントの点検をはじめ、すでにさまざまな産業用途で活躍しているFALCON 8+。インテルでは機体を販売するだけでなく、ドローンを使ったクラウドサービスを提供している。日本ではまずはドローンラボが総販売元となり、6月頃から機体とコントローラーなどをセットしたハードウエアとしての販売を予定。価格はカメラジンバルを除いた機体とコントローラー、バッテリーのセットで約230万円、ソニーのα7Rを搭載したカメラジンバルとのセットで約300万円。FLARの赤外線カメラTau 640カメラと可視光カメラを搭載したカメラジンバルのセットも用意している。さらに、日本で初めて導入されるということもあり、独特なコントローラーの操作も含め、飛行訓練も含めた教育を、ドローンラボが擁するドローン大学校で行っていきたいという。
重心制御技術で長いカメラステーを持つ点検撮影ドローン
3月のJapan Drone 2018で新技術「4D Gravity」を採用したドローン2機種を一般に初めて公開したのはエアロネクスト。その際には360度VR映像を撮影する「Next VR」、物流用の「Next DELIVERY」という革新的なドローンを披露したが、国際ドローン展では新たに「Next INDUSTRY」を発表した。」
このドローンはやはり同社の「4D Gravity」を採用したもので、インフラ点検や検査測量、警備、農業等での活用を想定したものだ。機体に数mという長さのステー(棒)を取り付け、その先にカメラを搭載するスタイルが特徴で、ステーの先のカメラを対象物に近づけることが可能。機体は対象物に接近しないため、ローターが発生するダウンウォッシュによる乱流で機体の姿勢や位置が乱れることが少なく、安全に撮影ができる。
この日のフライトショーケースでは、機体のスキッド(着陸脚)に当たる三脚に、横向きに大きく突き出たステーを取り付け、その先にカメラを想定した白い球体を付けた状態で飛行。このカメラ用のステーは片側に数m伸びた状態となっているため、一般的なドローンでは重量のバランスが取れずに離陸すら不可能な状態だが、重心制御技術4D Gravityを採用したNext INDUSTRYは、たとえ機体から大きくペイロードが張り出していたとしても、それをきちんとバランスするように制御ができていれば、支障なく飛行ができることを証明していた。
このフライトショーケースで飛行した状態では、カメラを搭載したステーが横に大きく突き出しており、構造物の側面の検査などへの使用を想定。一方、同時にプレスリリースされた写真や映像では、機体上方にステーが高く立っていて、こちらは橋脚の床板など上部構造の撮影を想定しているという。また、こうした用途では機体を大きく移動させる必要がないため、同機は有線給電を前提としている。この給電ケーブルがカメラステーなどのペイロードを安定させる“凧の足”のような効果を発揮するという。
いずれもペイロードに対してカウンターウェイトを備えたうえで、ペイロードとカウンターウェイトの重量が、機体の推力重心に自由に動くように結合されているため、純粋にそれらの重さが鉛直方向の荷重となるだけで、機体の動きにはほとんど影響しない、というのが4D Gravityの最大のメリットだ。今後はこの技術を生かして、さまざまな産業用途のユーザーと協業して、さらに機体開発を進めたいという。
強風に強い可変ピッチでレベル3の飛行の信頼性を高める
今回の国際ドローン展に初めての出展となるのが東京航空計器だ。同社は文字通り航空機の計器や自動操縦制御装置、慣性機器などなど、航空機の頭脳にあたる機器の開発・製造を行っており、多くの防衛装備品を手がけている歴史ある企業だ。ドローン産業では3年程前からIMU(慣性測定装置)の製造をきっかけに、フライトコントローラー、フライトシステムを手がけており、これまでにも国産ドローンメーカーに供給を行ってきた経緯がある。そんな東京航空計器がこの3月に完成させたのが、今回ブースに展示してあった2機のドローンだ。
カーボン生地むき出しの真っ黒なシングルローター機は物資輸送用で、モーターで1800mmのローターを駆動し、およそ5kgのペイロードを擁して最高時速約100km/hでの飛行が可能。一方4ローターのマルチコプターは心臓部にモーターとガソリンエンジンが選択でき、最高速度は約50km/hでフライトすることができる多目的ドローンだ。これらに共通しているのは、いずれもローターが可変ピッチであるということ。いわゆるヘリコプターと同じ可変ピッチ機構を備えているため、極めて風に強く風速10m/sでも問題なく飛行することができるのが最大の特徴だ。
いずれも2018年度から始まるレベル3の目視外飛行を前提としており、そのために必要な耐風性能などの物理的、そしてフライトシステムとしての制御系の安全性に関して、大きな自信を持っているという。機体はまだ3月に完成したばかりだが、今後は多くのドローン関連企業と共同で、実証実験を繰り返しながら、実際の産業用途の中で役に立つドローンに仕上げていく予定だ。
コントローラーも独自に開発。送信機から機体への制御信号と、機体から送信機へのテレメトリー信号を同期させているため、送り返しの電波が混信しないのが特徴。「TKK WORKS」は、東京航空計器が2017年に設立したドローン開発専門の子会社の名前だ。