国内ドローンビジネス市場のおよそ4割を占め、最も規模が大きいのが点検の分野だ。この分野では早くからドローンが活用されているが、インプレス総合研究所の推計では、2025年度の1003億円から、2028年度には1500億円にまで市場規模が拡大する見込みだ。

 本稿では、国内ドローン市場の動向をインプレスがまとめた新産業調査レポート『ドローンビジネス調査報告書2026【インフラ・設備点検編】』の内容をもとに、下水道分野におけるドローン活用の概要と動向を紹介する。

下水道分野は開発フェーズ(実証実験)と事業化フェーズ(商用化・実用化)の中間に位置する
下水道点検におけるドローン活用のフェーズ(2025年10月時点)

 2025年1月に埼玉県八潮市で発生した下水道管路崩落による道路陥没事故の際に、行方不明になったトラック運転手の捜索で、リベラウェアの「IBIS2」やFlyabilityの「ELIOS 3」が使用された。そのことが契機になり、下水道の点検に対して屋内狭所点検用ドローンの有効性が再認識された。

 また、道路陥没事故を契機に全国で実施されている下水道管路の緊急点検や全国特別重点調査では、点検手法として従来の潜行目視やテレビカメラといった方法に加え、新たに飛行式ドローンの利用も挙げられている。

老朽化進む下水道の点検と維持管理が急務に

 全国の下水道管路の総延長は2023年度末時点で約50万kmに上る。その多くが昭和40年代から平成10年代に集中的に整備されたこともあり、標準耐用年数の50年を経過した管路の総延長約4万km(総延長の約7%)が、10年後には約10万km(同約20%)、20年後には約21万km(同約42%)と今後急速に増加すると見込まれる。

 2015年には、下水道法に基づく維持修繕基準が策定され、特に硫化水素による腐食のおそれの大きい管路5,000kmについては、5年に1回以上の頻度で点検が義務付けられている。一方、全国に約2,200か所ある下水処理施設の老朽化も進んでおり、機械・電気設備の標準耐用年数15年を経過した施設が約2,000か所(全体の約90%、2022年度末時点)に上り、その維持管理も含めた老朽化対策が急務となっている。

布設年度別の管路管理延長(グラフ)
下水道管路施設の年度別管路延長(出所:国土交通省 ホームページより)

規模の大きい道路陥没事故は年50件、八潮事故では死者に加え周辺にも大きな影響

 こうした下水道管の老朽化による影響は、単に下水道だけにとどまらず、下水道管を埋設した道路にも及んでいて、陥没事故の原因ともなる。2022年度には約2,600件の道路陥没事故が発生していて、深さの大半が50cm未満ながら、50cmから1mが約1割、さらに1mを超えるものも2%、つまり1年間に50件程度となっている。

 このような下水道管路の老朽化の深刻さを改めて知らしめたのが、2025年1月28日に、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故といえる。下水道管の破損に起因して道路が陥没し、トラック1台が巻き込まれて行方不明となった運転手を捜索するため、陥没地点周辺を大規模に掘削するなどの工事が行われ、同時に当該下水道管に接続する流域の利用者約120万人に対して洗濯や入浴などの排水を流すことの自粛が求められるなど、大きな影響があった。

老朽化進む下水道約5,000kmで全国特別重点調査を実施

 国土交通省では全国の下水道管理者に対し、八潮市の陥没箇所と同様の大規模な下水道管路(延長420km)について緊急点検を要請。対象管路が埋設されている道路は約390km、マンホールは約1,700か所に及び、緊急点検の結果、うち3か所で管路の腐食などが報告されている。

 さらに、国土交通省は「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」を2025年2月に設置し、全国特別重点調査を実施することとした。全国の下水道管路約50万kmのうち、敷設後30年以上経過し、社会的影響が大きく、大規模陥没が発生しやすい管路を優先。構造的に腐食しやすい管路や、陥没履歴があるといった管路約1,000kmを2025年夏ごろまでの調査対象とし、さらに1年以内を目途に約5,000kmに対する調査を実施するとした。

 この調査では全線にわたり、潜行目視のほか、ドローンや船体式のテレビカメラによる目視調査を行うこととした。その結果、2025年8月時点での優先実施箇所に対する調査では、緊急度Ⅰ(原則1年以内に速やかな対策を実施)の要対策延長は約72kmに上り、6か所の空洞も確認されている。

従来は作業者による目視、危険箇所は自走式テレビカメラで下水管を点検

 従来の下水道点検では、作業者がマンホールから内部をのぞくことに加え、管路内を換気した上で作業者が管路に降りて異常の有無を確認する。もしくは管口カメラをマンホールから管路に降ろし、その周辺の状態を撮影しながら確認が行われる。

 異常があるとされた場合は、作業者が管路に入って詳細に調査を行う潜行目視調査が行われる。内径150mm以上800mm未満の管渠や、内径800mm以上の管渠で流量が多い、硫化水素をはじめとする危険性ガスの発生や滞留が予想されるなど、調査員が管渠内に入ることが不可能な場合には、自走式テレビカメラで調査される。ただし自走式テレビカメラは日進量が300m程度で、1回の点検に4〜5名の作業者が必要となる。

 また、全国特別重点調査に伴う点検では、2025年8月に埼玉県行田市で下水道管路のマンホールに転落した作業員1名を救助しようとした3名の作業員が転落。いずれも救助されたものの、同日中に死亡が確認された。下水道管管内で基準濃度の15倍となっていた硫化水素による中毒と酸欠が死に至る原因だったと見られている。

 このように、汚水が常に流れ続ける下水道の管路は、汚水が空気と触れることによって硫化水素が発生する。それにより管路は激しく腐食し、損傷ばかりか直上の道路の陥没を引き起こすことにもつながるため、適切な点検と、補修などの維持管理が必要である。しかし、特に損傷の激しい場所については硫化水素の濃度が高く、人が点検するためには過酷な環境となることもあり、すべての管路で維持管理が適切に行われているとはいえないのが現状である。

下水道点検用に飛行型ドローンや水上ドローンの開発も

 水コンサルタント大手のNJSとACSLは、管路内の水面上を飛行して管路の点検を行う飛行型ドローン「AS400」を2019年に発売。その後NJSとACSLが2021年に設立したFINDiが、AS400を改良した「Fi4」をリリース。さらにFi4の技術を応用した水上ドローン「Water Slider W4」も登場している。

 ドローンなどを使って主に下水道施設を点検するサービス事業者であるFINDiは、2024年には下水道、農業用水路、発電所などで合計約20kmの管路を調査している。さらに同社では管路内水上走行点検用ドローン「Water Slider WS2」を開発し、今後市場に投入する予定である。同機は水に浮くモノハルの船体に搭載する4つのファンの推力で移動する水上走行型ドローン。水上走行型とすることで、低速での移動が可能、長時間撮影が可能、粉塵や水しぶきが上がりにくいこと、出発地点からの距離の把握が可能、回収が容易といったメリットがあるとしている。

写真:「Water Slider WS2」
「Water Slider WS2(FINDi)」(出所:ドローンジャーナル2025年8月25日付記事より)

国土交通省がドローンを下水道点検の高度化・実用化技術として位置づけ

 口径800mm未満の下水道管路は、自走式のテレビカメラ等で調査が行われるが、近年、自走式カメラに比べて日進量が格段に大きく、管路の段差といった影響も受けにくいドローンで点検作業を代替する取り組みが進められてきており、飛行型ドローンが有効であることが、NJSの「AS400」の登場で、下水道管路の点検に携わる関係者に周知される契機となった。

 国土交通省が、下水道管路の点検・調査方法の1つとして「飛行式カメラ調査」、つまりドローンを最初に位置づけたのは、2019年に設立された「下水道管路施設における維持管理情報等を起点としたマネジメントサイクルの確立に向けた技術検討会」の第3回として2020年1月に開かれた会合で公表された「維持管理情報等を起点としたマネジメントサイクル確立に向けたガイドライン(管路施設編)—2020年版—」の「点検・調査方法の検討」の項においてだ。

 その後、2025年7月に開催された、「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」の第7回会合では、管路メンテナンス技術の高度化・実用化に向けた取組方針を示している。人が近づけない管路においても精度の高い点検・調査を可能とすることや、作業安全の確保や働き方改革等の観点から、人ができる限り管路に入らず点検・調査を行うことなどを、技術の高度化・実用化により目指す姿として掲げ、5年程度で実用化するとしている。

 中でも特に下水道の点検におけるドローンの活用が明確に示されており、「ドローンの普及に向けたロードマップのイメージ」として、2025年度中に特別重点調査等でドローンを活用すること、さらに国土交通省の技術開発事業の応用研究として、「小型ドローンによる下水道管点検技術」テーマの開発を、2025年度から行うとしている。同時に、2026年から2027年にかけて、ドローンの普及環境の整備として、ビジネスモデル検討や、ドローン活用の指針、標準発注仕様、歩掛等の検討・整備を行い、2028年度から普及フェーズに入ると見据えている。

<下水道点検の主なプレイヤー>
ハードウエアNJS、FINDi、リベラウェア、Flyability、ACSL、キュー・アイ、QYSEA、VxFly、CHASINGほか
サービス提供企業大林組、竹中工務店、鹿島建設、フジタ、安藤・間、戸田建設、EARTHBRAIN、DroneDeploy、ホバリング、日立ソリューションズ、センシンロボティクスなど
点検事業者全国の下水道点検事業者
利用者全国の下水道事業者・事業体

暗くて狭く目視飛行も困難な下水道のドローン点検、機体開発に加え操縦者の育成が課題

 下水道の点検は、精密電子機器であるドローンが飛行するには暗闇で湿度が高く、硫化水素が滞留している場合もある劣悪な環境で実施する。下水道管路内はGPSの電波が受信できないため自機位置を特定できず、その中で機体を安定して航行させ、さらに撮影位置を特定する技術が必要となる。また、狭い管路ではマルチパスなどの電波干渉が発生するため、操縦者から機体まで電波が届く距離がきわめて短くなる。

 狭い管路で機体を目視しながらの飛行は困難であり、ドローンの自動飛行や機体に搭載したカメラの映像を見ながらの飛行といった技術が必要となるため、下水道管路という特殊な環境の中での飛行は、一般的なドローンの飛行に比べて難易度が高い。きわめて狭所であり暗部の管路内を飛行して点検できる操縦者の育成が必要となる。

 今後古い下水道管路が急速に増えていく中、適切な維持管理は急務となっており、管路の点検需要が今後も伸びることが見込まれる。特に2025年1月に発生した道路陥没事故は社会的な影響も大きく、今後はより精緻な点検が求められることから、コスト面においてもドローンによる効率的な点検方法に期待が寄せられている。

『ドローンビジネス調査報告書2026【インフラ・設備点検編】』では、下水道分野におけるドローンの活用について、同分野の課題や市場成長性を含め、より詳細に解説している。

ドローンビジネス調査報告書2026【インフラ・設備点検編】

ドローンビジネス調査報告書2026【インフラ・設備点検編】の書影
書名ドローンビジネス調査報告書2026【インフラ・設備点検編】
著者青山祐介、インプレス総合研究所
監修ドローンジャーナル編集部
発行所株式会社インプレス
発売日2025年11月18日
価格CD(PDF)版、電子版 12万1,000円(本体 11万円+税10%)
CD(PDF)+冊子版  13万2,000円(本体 12万円+税10%)
判型A4判 モノクロ
ページ数390ページ
ISBNCD(PDF)+冊子版 978-4-295-02293-0
URLhttps://research.impress.co.jp/report/list/drone/502293


▼インフラ点検におけるドローン活用の動向〜『ドローンビジネス調査報告書2026【インフラ・設備点検編】』より
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1188036.html

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