ドローンに関連する建設業やインフラ業、製造業向けに弊社主催の「ドローンジャーナルコンファレンス2025秋」が9月に開催された。講演セッションでは、小型点検用ドローン「IBIS」シリーズの開発・製造・販売を手掛けるリベラウェアの取締役 林氏が登壇。同社のミッションや、2025年1月に発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故における下水道管点検の取り組みなどを紹介した。
小型ドローンで“危険領域を可視化する”──リベラウェアの理念と技術開発
林氏はまず、リベラウェアが「千葉工業大学でロボット工学を学んだメンバーが社会経験を経て再集結し、立ち上げた会社」であると紹介した。ドローンはロボティクスの一分野だが、空中に浮かせるための厳しい制約の中で、より小型化しながら性能を引き出すことに大きな挑戦があると語る。
同社が掲げるミッションは「誰もが安全な社会をつくる」ことにある。人が立ち入れない危険な空間に潜むリスクを、極小のドローンで可視化し、必要なデータを確実に収集する。こうした取り組みを通じて、安心して暮らせる社会を次世代へ引き継ぐことが事業の指針となっている。
この理念を具現化するのが狭小空間点検ドローン「IBIS2」だ。通常の屋外飛行ドローンとは異なり、狭く汚れた空間での飛行に耐えられる設計とし、障害物にぶつかっても落下しづらい構造や、粉塵がモーターに侵入しても故障しにくい工夫が施されている。暗所での飛行にも対応し、点検に必要なデータを確実に取得できる。
さらに2025年3月には、ホバリング性能を改善した「IBIS2 Assist」をリリースした。従来機は、“操縦の難しさ”が課題とされてきたが、IBIS2 Assistは上側・下側に設けられたToFセンサーによる「ホバリングアシスト」で扱いやすさを向上。機体の上下4m以内の障害物を検知し、障害物の高さが変化しても機体は高度を維持する仕組みとなっている。
八潮市道路陥没で注目を集めた「狭小空間の可視化」──実際の救助・調査の現場
2025年1月に発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故は、リベラウェアの認知度を一気に高めた出来事だった。遭難したトラックのキャビンを最初に発見したのは、同社のドローンである。講演では当時の映像とともに詳細が説明された。
事故現場の下流側マンホールからドローンを投入し、上流方向へ進む途中で沈んだキャビンを確認したという。大量の下水が流れ込む中、暗く複雑な環境でキャビンが沈む様子が映像に収められ、会場の参加者は息を呑んで見入っていた。林氏は「目視できない危険箇所は必ず存在します。当社の技術でそうしたリスクをなくすべきだと強く感じています」と語り、その意義を強調した。
この取り組みを含む下水道管調査の実績は国土交通省の対策検討委員会でも取り上げられ、全国の自治体でドローンを活用した下水道調査の動きが具体化しているという。福岡県北九州市では従来、テレビカメラ車による点検が行われていたが、障害物で進行できないケースが多く、障害物を回避しながら飛行できるドローンの導入に踏み切った。狭隘で湿潤な環境でも確実に調査できる点が高く評価されている。
広がる協業と今後の展望──IBISシリーズと3次元解析で現場課題を解決へ
リベラウェアは他事業者との協業にも積極的である。JR東日本とは合弁会社「CalTa」を設立し、鉄道点検へのドローン活用を推進。九州電力からスピンオフした九電ドローンサービスとは九州エリアの下水道調査をはじめとするインフラ点検で連携しており、ドローンと3次元解析を組み合わせたサービス開発を共同で進めている。
また、KDDIスマートドローンや大林組と取り組むプロジェクトでは、自動航行や目視外飛行を活用し、土木・建築現場でのデータ取得の高度化に取り組んでいる。こうした連携は、小型ドローンが持つ可能性を産業の枠を超えて広げている。
リベラウェアは今後もIBISシリーズの進化に加え、3次元解析や関連ソリューションの開発を進め、現場が抱える多様な課題解決に向けて邁進する考えだ。
