将来的な可能性こそ大いに期待されながら、いまだほとんどが実証実験にとどまるドローン活用。その中で今、大きな話題となっているのが、ドローン活用を持続的なビジネスに昇華させているアミューズワンセルフと豊田通商との業務提携だ。両社が手を組む理由はどこにあり、その先に何を見据えているのか。両社のキーパーソンの話から、両社の戦略を探りたい。

ドローン業界の両雄が手を組み市場開拓を本格化

 メーカーやキャリア、航空会社など多様なプレーヤーが入り乱れた実証実験が相次ぐドローン活用。ただし、蓋を開ければ、そのほとんどが一過性の取り組みに留まるのが国内ドローン業界の“現在地”だ。

 その中にあって、ドローン活用を持続的なビジネスに昇華させた稀有な存在が、アミューズワンセルフと豊田通商である。その両社が、ドローン・サービス市場の本格開拓に向け手を組んだ。両社は2025年4月、豊田通商のアミューズワンセルフへの出資で合意。豊田通商の100%出資子会社でドローン物流を手掛ける「そらいいな」と協業し、アミューズワンセルフ製ドローンやセンサー、レーザー測定器を活用した点検・計測事業での新規顧客開拓を進めるという。

 「ドローン点検・計測サービスに対する潜在ニーズは、業務効率化やコスト削減の面で決して小さくありません」と語るのは、豊田通商のネクストモビリティ推進部 ビジネスイノベーショングループ 課長補の鈴木和成氏だ。

豊田通商株式会社 ネクストモビリティ推進部 ビジネスイノベーショングループ 課長補 鈴木 和成氏

 「ですが、その掘り起こしは当社だけでは当然、限界があります。その中にあって、一般的なドローンより最大4倍以上も長く飛行可能なドローンを提供するのみならず、測量に関する専門的な知見やドローン運用のノウハウ、周辺技術も豊富に備えるアミューズワンセルフは新市場開拓に向け、当社にとって最良のパートナーと判断できました」(鈴木氏)。

浮上した課題が「より長時間、より長距離の飛行」

 トヨタ自動車グループの豊田通商は「ネクストモビリティ戦略」の一環として、2017年にドローン事業に着手して以来、矢継ぎ早に施策を繰り出してきた。2018年にはドローン物流スタートアップの米Zipline International(ジップライン)に出資し、国内業務で提携。21年にはそらいいなを設立し、長崎県五島列島でジップライン製ドローンを用いた医薬品配送を開始する。これを母体に現在、同エリアの医療機関や薬局に向けて日々、医薬品をドローン配送するB2B事業を中心に展開し、並行して、九州初のレベル4飛行実証も2025年2月に実施するなど、ドローン物流の事業化を加速させている。

 「当社には、ドローンのいち早い社会実装への評価から、物流以外のドローン利用による業務効率化、迅速化、高度化について官民問わず多くの皆様と検討させていただく機会があります」と鈴木氏。国土交通省九州地方整備局からの洋上風力促進区域状況の巡視や、九州電力送配電との送配電ネットワークの点検などがその代表だ。同社がドローン点検・計測サービスの潜在ニーズを確信する背景には、そうした数多の具体的な声がある。

 しかし、その声を受けてのドローンとカメラを組み合わせたテストの中で浮上した課題が、ドローンの「より長時間、より長距離の飛行」だ。

 「事業化には検討項目が山積みです。その代表が作業効率化で、そのためにはバッテリー交換は少ないほど望ましい。また、固定翼型のジップライン製ドローンは片道約80kmの長距離飛行が可能な反面、運用にカタパルトなどの設備が必要で、対応可能範囲は、設備がある拠点から半径80kmの範囲に限られるのが実態」と鈴木氏は振り返る。

アミューズワンセルフの評価ポイントとは

 一方のアミューズワンセルフ。自動車や飛行機などからの三次元測量を祖業とする同社が、高額な使用料が必要なヘリコプターの代替としてドローンの開発に乗り出したのは2006年頃のことだ。その後、開発したドローンによる撮影などを各地で行う中、同社の存在が関係者に一躍知られることとなった契機が、2014年の御嶽山噴火における同社のドローン調査である。火口付近をサーモカメラで撮影し、マグマ爆発や水蒸気爆発などの調査、サンプラーを搭載して噴煙のサンプリングによる硫黄濃度の測定などを行ったが、当時の他社製ドローンの飛行時間は長くても15分程度。対して、同社のドローンは1時間近く連続飛行して作業を行い、注目を集めた。

 「より長時間、より長距離の飛行」が可能なドローンを求める豊田通商とアミューズワンセルフとの最初の接触は2024年2月。「展示会や個別連絡でいくつものドローンメーカーと接触した末、ようやくたどり着くことができました」(鈴木氏)。

 その後、オフィス見学やドローン飛行現場の立ち会いなどで両社は交流を重ねる。そのたびに豊田通商は、「アミューズワンセルフとであれば、共にドローン・サービス市場を開拓していける」との思いを強くしていったのだという。

 理由は冒頭の鈴木氏のコメントに集約されている。まず、「より長時間、長距離」に関して、アミューズワンセルフは各種現場の経験を基に、目指すべきドローンのスペック要件として「測量用なら1~2時間は飛べること」「飛行準備に時間がかからないこと」「ペイロードは簡単に着脱できること」などを定めている。これを基に開発した最新の「GLOW.H」は、レンジエクステンダーを搭載、発電・充電と並行した飛行により、4時間以上の飛行を実現。その他のスペック要件もクリアしており、遠方からの依頼であっても現地への搬入による即座の対応も可能になる。

 次は、運用ノウハウだ。「ドローン・ビジネスを軌道に乗せるには、ドローン自体の性能の良さだけでなく、持続的に飛ばすためのオペレーションも鍵を握ります」と力を込めるのは、豊田通商の執行幹部でCTOの唐戸潤氏だ。

豊田通商株式会社 執行幹部 CTO 唐戸 潤氏

 「アミューズワンセルフなら、運行管理ソフトはもちろん、安全のための飛行前後の一連の確認手順が整備されていることなどを現場で実際に目にし、当社と同様、運用の知見がすでに豊富に蓄積されていることを確信できました」(唐戸氏)。

パテントで保護する技術がサービスの“質”と“幅”に貢献

 最後は、アミューズワンセルフの技術力である。その一端を垣間見られるのが、グリーンレーザーを用いた測量用ドローンだ。

 過去記事でも紹介している通り、アミューズワンセルフは2013年に世界初のドローンに搭載可能なレーザー測量機を開発した(同社調べ)。その最新シリーズ「TDOT 7」では、水に吸収されづらいグリーンレーザーを採用することで、一般的な近赤外線による測量では測深が難しかった浅い水域の測量を可能にした。京都府の琴引浜における沖合のサンドバー(引き潮の際に現れる浅瀬)の探索や、沖縄県竹富町西表島での、全長2.6km、幅1kmの範囲の平均で12cm間隔の密度による、高さの平均誤差±2cm以内という高精細なデータの取得など、過去の事例からその力は実証済みだ。

 赤外線レーザーを用いた「TDOT 7 NIR」では1秒あたり10万回のレーザー照射により、詳細な地表面のデータを取得できる。「TDOT 7 NIR-S」は1秒あたり400ラインのスキャンにより、ドローンの航行速度、ひいてはデータ取得効率をそれだけ高めている。取得データの高速分析処理のためのクラウドサービスも独自に用意する。

 「当社はドローン自体の、さらに測量に活用を見込める技術開発に精力的に取り組んでいます。複数カメラを搭載した特殊な環境下での点検技術などの重要なものはパテントにより積極的に保護し、差別化につなげています」と語るのは、アミューズワンセルフの取締役でCTOを務める冨井隆春氏だ。同氏は測量士/土木施工管理技士で工学博士でもあり、アミューズワンセルフのドローン開発を一貫して牽引している。これら技術の活用を通じ、豊田通商はサービス品質を確実に高められ、サービスの“幅”も広げることができる。

株式会社アミューズワンセルフ 取締役CTO 冨井 隆春氏

協業で生まれる、培ってきた技術を生かせる“場”

 豊田通商からの協業の提案は、アミューズワンセルフにとっても「渡りに船」だったのだという。市場を流通するドローンを概観すると、外観こそ類似しているものの、中身を見ると、大手中国メーカーがコンピュータで制御するまで製品レベルを高めているにも関わらず、国内製品の中にはいまだ「ラジコン」レベルにとどまるものも数多い。冨井氏が指摘する耳に痛い原因が、実証実験における関係各社の「本気度不足」である。必然的に目指す成果は小さなものとなり、それがドローンの進化の“壁”だと分析する。

 「その中で当社は孤高の存在として、実運用に耐えるレベルを目指して“国産”にこだわりドローンを高度化させてきました」と冨井氏は語る。その中で出会った豊田通商からは、ドローンを社会実装させた企業として、他社には見られない本気度が感じられたという。

「ドローン・ビジネスはいまだ小粒です。にもかかわらず、豊田通商ほどの大企業がドローンに本気で取り組んでいることを知り、個人的に大いに感動しました。と同時に、我々が培ってきた技術を生かせる場がようやく生まれつつあることを実感し、少しでも役立てればと提案をお受けすることにしました」(冨井氏)。

 両社によるドローン点検・計測サービスの開発はこれからが本番だ。だが、最終目標はすでに一致する。それが、「ドローンによる社会貢献」だ。

 「当社の創業理由こそまさにその点にあります」とアミューズワンセルフの代表取締役を務める佐野ひかる氏。唐戸氏も、「社会的な意義が乏しければ、ビジネスとして持続しにくく、当社が手掛ける意味もありません」と話す。

株式会社アミューズワンセルフ 代表取締役 佐野 ひかる氏

“技術”と“オペレーション”をパッケージ化し横展開

 協業後のアイデアはいくつも温めている。そのベースとなるのが、道路や橋梁、高架線、ダムなどのインフラや、河川や海岸、山など、自然災害が発生しやすいエリアの各種監視だ。

 豊田通商のネクストモビリティ推進部 ビジネスイノベーショングループ グループリーダー 兼 ネクストテクノロジーファンド推進室 室長の杉浦賢人氏は、「長崎県五島列島では、ドローンの長距離飛行のノウハウを培ってきました。アミューズワンセルフとの協業においても、その蓄積を生かした、早期の異常などの検出に向けた広域エリアの定期的な点検・計測を想定しています」と語る。

豊田通商株式会社 ネクストモビリティ推進部 ビジネスイノベーショングループ グループリーダー 兼 ネクストテクノロジーファンド推進室 室長 杉浦 賢人氏

 体制面では、アミューズワンセルフがドローンや関係技術の開発を、豊田通商がそれらによるビジネス化をそれぞれ担う。

 「アミューズワンセルフの技術力は業界随一です。そのうえで、商社である豊田通商の得意技が、成功事例の横展開です。軌道に乗ったドローン・ビジネスを基に、技術とオペレーションをパッケージとして組み合わせ、ローカライズを加えつつ国内外へ売り込むというのが当社の描くシナリオです」(唐戸氏)。

 唐戸氏が期待を寄せるのが、長崎県や福島県で行ってきた各種の実証実験で培ってきた地方自治体との“つながり”だ。例えば五島列島では、過疎化が進む中での医療品配送という地域課題の解消を支援してきたことで、「知事や自治体関係者など、地元の卸など官民と太いパイプを築け、さまざまな支援を受けられるまでになっています」(唐戸氏)。過疎化が進む地方では共通課題も多く、長崎県などをテストベットした新サービスが生まれる可能性も現実的に小さくない。

CSPIで両者の描くビジョンがさらに明確に

 一方で、将来的な横展開の広がりに伴い、「実際に使ってみて、できること、できないことが改めて明らかになり、我々にとっての新たな宿題も数多く登場するはずです」と冨井氏。その中で新たな要求に応え続けることが、新たな社会貢献につながるはずと見る。

 多様なデータの定期的な取得が進むことで、例えば木々によるCO2吸収量の算出など、新たなデータの用途開拓につながることも十分予見される。豊田通商では、AIなどのIT関連企業に数多く出資しており、連携した将来的なデータビジネスの展開も考えられるという。

 その下準備となるのが、ドローンをより広く、深く理解してもらうための啓蒙活動だ。ドローンの可能性については、メーカーやメディアなどでさまざまに紹介されているが、「一般企業では、どのような業務に、どう利用できるのかが思った以上に知られていません。市場開拓の第一歩はまずはそこからです」と鈴木氏は意気込みを隠さない。

 豊田通商とアミューズワンセルフは2025年6月18日(水)~21日(土)の4日間にわたり幕張メッセで開催される国内最大級の建設・測量業界向け展示会「第7回 国際 建設・測量展(CSPI-EXPO2025)」に共同出展する。ブースでは豊田通商のこれまでの具体的な活動や、アミューズワンセルフの多様なデバイス、さらに、提携によって創出される新たなビジネスモデルの紹介なども予定されている。ドローン活用の最前線を理解するためにも、関係各社にとって見逃せない情報となりそうだ。

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