国内のドローンビジネス市場において、ドローンの活用がいち早く実用化されたのが土木現場における測量である。また、その撮影手法を応用した工事の進捗管理でもドローンの活用が進んでいる。土木・建築分野でのドローンビジネスの市場規模は伸長を続けており、インプレス総合研究所の推計では、2024年度に前年度比で27%増の380億円となっており、2030年度には619億円にまで拡大する見込みである。

 本稿では、国内ドローン市場の動向をインプレスがまとめた新産業調査レポート『ドローンビジネス調査報告書2025』の内容をもとに、土木・建築分野の動向について、「測量」「工事進捗」という2つの用途ごとに解説する。

土木・建築分野のドローン活用フェーズ(工事進捗:商用可・実用化〜普及、測量:普及)
土木・建築分野におけるドローン活用のフェーズ(2025年3月時点)

ドローンを活用した測量の現況

 測量では、対象エリアをドローンに搭載したカメラで撮影し、複数の写真を合成してオルソモザイクや三次元モデルを生成するものと、ドローンに搭載したレーザースキャナを用いて三次元化するといった用途でドローンが活用されている。

 同用途でドローンの活用が進んでいるのは土木分野である。それを後押ししたのが、国土交通省が2016年に開始したプロジェクト「i-Construction」だ。同プロジェクトは、建設現場へのICT導入で生産性を向上させることを目的としたものであり、その中で主要なツールの1つとしてドローンが位置づけられている。

 同プロジェクトをきっかけに、国土交通省は、2016年3月に「空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案)」「空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理の監督・検査要領(土工編)(案)」を公表し、施工と検査に関するレーザースキャナ版の要領も発表。国土地理院も同時に「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」を公開し、2020年3月には「作業規程の準則」に反映させた。2018年3月には、「UAV搭載型レーザスキャナを用いた公共測量マニュアル(案)」が示すなど、ICT土工におけるドローンの活用が強く推進されている。現在、公共工事ではi-Constructionの取り組みとしてICTの全面的な活用が必須となっており、ドローンによる測量が広く普及している。

 航空測量の応用としてドローンの活用が進んだ土木分野と比べ、建築分野では一部の土工の測量といった用途を除いては、ドローンが利用される機会は少なかった。ただし、後述の進捗管理においては土工とともに、近年ドローンの活用に期待が寄せられている。

「GLOW.H」が飛行する様子
ドローン用レーザースキャナシステムを搭載したアミューズワンセルフのハイブリッドドローン「GLOW.H」

ドローンを活用した測量の主なプレイヤー

 測量は、「ドローンでデータを収集する」ことと、オルソや三次元データに変換するといった「取得データを処理する」ことという、2つのパートに分かれる。データを収集、つまりドローンによる撮影・計測は、施工業者や測量専門事業者、さらにこうした事業者から依頼を受けたドローン事業者が行う。三次元データへの変換などデータの処理も、ソフトウエアの普及により、撮影・計測と同様に、施工業者や測量専門事業者が行う。また、データ処理をサービスとして行う事業者も存在する。

測量における主なプレイヤー

ハードウエアDJI、プロドローン、ACSL、ソニー、ルーチェサーチ、アミューズワンセルフ、RIEGL、YellowScan、GreenValley International、TPホールディングス、FLIGHTS、テラドローンなど
サービステラドローン、エアロセンス、EARTHBRAIN、コマツ、九州電力、KDDIスマートドローン、ミラテクドローン、藤成測量、Ace-1、扶和ドローン、スカイマティクス、コイシなど
ソフトウエアPix4D、Agisoft(Metashape)、DroneDeploy、テラドローン、福井コンピュータ、建設システム、Esri、トプコン、FLIGHTS、マプリィ、センシンロボティクスなど

ドローンを活用した測量の市場成長性

 新規の案件だけでなく、道路の維持補修などにおいてもICT土工の採用でビジネスの対象となりうる。さらに、国土交通省では河川やダム、トンネルといった公共工事全体でICT施工を拡大する方向であり、こうした直轄工事に加えて地方自治体管轄の工事も含めるとその市場は大きい。将来的に、インフラ長寿化に向けた施設管理でのドローン点検技術とICT土木技術との融合が求められていくと、さらに市場が拡大する可能性がある。ICT土工ではない工事においても、ドローンによる測量のニーズは高く、今後も増加することが見込まれる。

 また、近年頻発している台風や地震といった大規模災害の際には、捜索救難活動や復旧工事にドローンを使った測量データを役立てる例が増えている。令和6年能登半島地震においては、能登半島各地の道路や護岸、法面などが崩壊したため、発災直後から被災したインフラ復旧のために、ドローン測量を行う事業者が被災地に入って測量を行った。日本は地震や水害といった災害が多く、大規模災害が発生した際に被災地の緊急的な復旧や迅速な復興のために、今後もドローンによる測量が増えることが見込まれる。

ドローンを活用した工事進捗の現況

 ドローンを活用した工事進捗の管理は、現場を定期的に上空から撮影して、そのデータをもとに工事の進み具合や、資材、機材の動きを管理するというものだ。土木と建築の両分野で期待が寄せられている。

 海外では比較的早くから土木工事の現場でドローンを利用する動きがあったが、日本でも実証段階から実用段階に差し掛かっている。特に、2020年から流行した新型コロナウイルス感染症によって、社会にリモートワークが定着したことや、2024年4月から労働基準法改正による労働時間の上限規定が厳格に実施され、深刻な人手不足が起こる建設業の“2024年問題”が顕在化したことで、現場に行かなくても遠隔地から進捗管理や安全巡視ができるソリューションのニーズを高めた。

 国は2022年3月に「建設現場における遠隔臨場に関する実施要領(案)」を公表。「遠隔臨場」とは公共工事の建設現場において、動画撮影用のカメラ(ウェアラブルカメラ等)によって取得した映像および音声を利用し、遠隔地からWeb会議システム等を介して「段階確認」「材料確認」と「立会」を行うというもの。この動画撮影用のカメラにあたるツールとして、ドローンを利用する取り組みが始まっている。

 2023年ごろからは、DJIやSkydioといった汎用小型ドローンのラインアップを持つドローンメーカーが小型のドローンソリューションを相次いでリリースしたことを受けて、土木・建築の現場でドローンポートを使った自動巡回・巡視の取り組みが数多く行われている。例えば、2024年3月22日に、大林組が、ドローンとドローンポートを活用した完全無人巡回による工事進捗管理の実証実験を3か月にわたって実施し、屋内建設現場の巡回・記録に要する時間を従来の1時間から10分に短縮したと発表するなど、大手ゼネコンによる取り組みが目立ってきている。

ドローンとドローンポートを使った工事進捗管理の概要図
大林組によるドローンとドローンポートを活用した完全無人巡回による工事進捗管理のイメージ(出所:株式会社大林組ニュースリリース

ドローンを活用した工事進捗の主なプレイヤー

 工事進捗管理では、現場の上空もしくは屋内の作業空間内でドローンを飛行させて画像を撮影する。得られたデータを三次元モデル化する際に、端末もしくはクラウドのソフトウエアやアプリケーションを利用する。ソリューションの提供企業に対して、ドローンも含めたパッケージもしくはソフトウエアやアプリケーションの利用料が発生する。ドローンやドローンポートをはじめとしたハードは、販売、レンタル、リースといった形で利用者に納めている。

工事進捗の主なプレイヤー

ハードウエアDJI、ACSL、Skydio、Spiralなど
ソリューション大林組、竹中工務店、鹿島建設、フジタ、安藤・間、戸田建設、EARTHBRAIN、DroneDeploy、ホバリング、日立ソリューションズ、センシンロボティクスなど
オペレーション土木建設現場の工事現場作業者・管理者など

ドローンを活用した工事進捗の市場成長性

 投資対効果が見えやすいこともあり、土木・建築事業者がサービスやソリューションを認知することで、ビジネスの広がりを見せる分野である。また、多くの現場でドローンが利用されるようになると(業務のパーソナル化)、機体の販売やレンタル、リースの数量が見込まれる。

 大規模な建設現場においては、建設機械のMC(マシンコントロール)やMG(マシンガイダンス)による作業支援、建設機械のIoT化による遠隔自動操作など、最新技術の開発が進みつつある。ドローンの取得データと、こうした建設機械や作業員からの取得データを同一システムに集約して、AIを活用したビッグデータ解析を行って現場管理の効率化を図ったり、BIM/CIMのデータを基盤に遠隔管理を行ったりするなどの発展性も考えられることから、人員や機械管理などのシステムを提供しているIT企業には今後のビジネスチャンスが期待できる。

『ドローンビジネス調査報告書2025』では、土木・建築分野におけるドローンの活用について、同分野の課題や市場成長性を含め、より詳細に解説している。

ドローンビジネス調査報告書2025

書名ドローンビジネス調査報告書2025
著者春原久徳、青山祐介、インプレス総合研究所
監修ドローンジャーナル編集部
発行所株式会社インプレス
発売日2025年3月28日(金)
価格CD(PDF)版、ダウンロード版 14万3,000円(本体 13万円+税10%)
CD(PDF)+冊子版 15万4,000円(本体 14万円+税10%)
判型A4判 モノクロ
ページ数562ページ
ISBNCD(PDF)+冊子版 978-4-295-02151-3
「ドローンビジネス調査報告書2025」書影

▼ドローンビジネス調査報告書2025
https://research.impress.co.jp/drone2025