IT、機電領域のエンジニア派遣サービスを行っているパーソルテクノロジースタッフと、ドローンサービスマッチングサイト「drone market」を運営するdoが、7月26日に東京都新宿区で「企業向けドローン活用セミナー」を開催した。パーソルテクノロジースタッフとdoは2018年春から、ドローン業界向けの人材派遣サービスを行っており、本セミナーはこのサービスの周知を兼ね、ドローンを活用したビジネスを検討している企業向けに、日本のドローンビジネスを取り巻く状況を紹介し、新しいビジネスにつなげてもらおうという趣旨だ。

従来の作業の置き換えと新しい価値を生み出すドローン

 セミナー前半はdoの代表取締役社長である髙原正嗣氏が、「ドローンの可能性と各産業への導入」と題して講演。「ドローンの基礎知識」と「ドローンのこれから」、そして「各産業界での活用事例」という3つのテーマで、日本のドローン事情を分かりやすく解説した。

do株式会社代表取締役 髙原正嗣氏。

 「ドローンの基礎知識」では“ドローンとは?”という、ドローンそのものの定義の紹介からはじまり、マルチコプター型や固定翼型といったドローンの種類、そして、コンシューマー向けから大型の産業用無人機といった、価格やサイズ、機能などによる違いを紹介。また航空法や小型無人機等飛行禁止法をはじめとした関連法律があることや、ドローンを操縦するために免許や国家資格は存在しないといった法規関連についても解説した。さらに、最近、空撮ドローンで最も注目されている話題として、手の平に乗るような超小型のマイクロドローンによって撮影されたプロモーションビデオ『オンナノコズ:“Onnanokos”×Micro Drone』を紹介した。

 2つ目のテーマである「ドローンのこれから」では、現在のドローンの産業規模と、日本の直近のドローン産業を取り巻く環境について紹介。髙原氏によると「2020年に想定されるドローンを活用したソリューションの市場価値は、1270億ドル、約13.8兆円(2016年5月9日Pwc発表のデータ)で、カジノ産業の約10兆円と比べても大きい」といい、日本国内においても「ドローン市場は2018年度に860億円、2024年に3711億円に拡大する(インプレス研究所のデータより)」と、今後のドローン産業の将来性について語った。また、経済産業省が取りまとめた「空の産業革命に向けたロードマップ」をもとに、2018年以降レベル3(無人地帯における目視外飛行)による離島山間部における物流ドローンの飛行や、2020年代にはレベル4(有人地帯における目視外飛行)による飛行が行われることで、ドローンの産業がさらに活性化すると説明した。

ドローン市場は世界において2020年に約13.8兆円、日本でも2024年に3711億円になるという。

 3つ目のテーマである「各産業界での活用事例」では、格納庫内の機体を点検する作業にドローンを活用するエアバスの事例を取り上げ、「今後、ドローンでデータを取得し、PCでそれを解析し、レポートする、というソリューションが産業のメインストリームになる」と髙原氏は紹介。さらにドローンが活躍する産業分野として、従来の作業をドローンが代替する“置き換え”の分野として土木測量、点検、農業を挙げる。一方、ドローンを利用することで今までにない価値を創造する分野として、災害対応や空からの調査といった分野が見込まれるとのこと。さらにこうした活用事例として、中部電力やトーエネテックの電力設備や太陽光パネルの設備点検、ローソンファーム新潟の農薬散布、ファームアイの精密農業、損保ジャパン日本興亜の事故調査といった具体的な活用事例を紹介した。

ドローンは産業において、土木測量、点検、農薬散布といった従来の作業の“置きかえ”と、災害対応や調査といったこれまでにない“新たな価値”を生み出す。

建設生産プロセスを3Dデータでつなぐi-Constructionでドローンが活躍

 セミナーの後半はより具体的なドローンの産業活用事例のひとつとして、コマツのスマートコンストラクション推進本部の村上数哉主幹が「コマツが創る未来の建設現場~ドローンによる測量業務支援~」と題した講演を行った。

コマツ株式会社スマートコンストラクション推進本部主幹 村上数哉氏。

 冒頭、村上氏は近年の建設業界は技能労働者の高齢化による離職や、若年労働者の低入職率にともなう労働力の減少、そして低い生産性といった問題があることを説明。これに対して政府は、2015年に「i-Construction」という国が発注する公共工事にICT技術を活用する取り組みを推進し、2025年までに建設現場の生産性を20%向上させることを目指していることを紹介した。

 村上氏は「近年の建設現場を取り巻く状況」「測量業を取り巻く状況」「三次元測量の事業化に向けての取り組み」という3つのテーマで講演。「建設業界は日本の高度経済成長と共に発展してきたが、バブル崩壊によって労働力が過剰な状態となり、その後、この労働力を支えるためにムダを省くという発想がなかったため、生産性向上のための技術的進化がなかった」と説明。さらに、建設業の死傷事故率は全産業の平均に比べて2倍にのぼり、今なお“きつい、汚い、危険”という“3K”の労働環境だという。その結果、若年層の入職が少なく、一方でこれまで現場を支えてきた高年齢層が多い熟年オペレーターの離職が増加。建設業は労働力過剰から労働力不足へと転換し、抜本的な生産性向上の取り組みが必要だと村上氏は訴える。

近年の建設現場を取り巻く環境は、生産性の低迷と生産性向上の遅れ、他の産業に比べて多い労働災害、そして労働力不足という問題を抱えている。

 次に村上氏はこうした建設業界の問題を受けて進められている「i-Construction」について説明した。i-Construction工事は公共工事において“建設生産プロセスを3Dデータでつなぐ”取り組みだと紹介。設計、起工測量、設計調査・施工計画、施行管理、完工後の検査という各ステップに対して、これまで2Dで行っていた作業をすべて3DデータとするのがICT土工である。各ステップで設計通りに作業が進んでいるかということを確認するために測量を行うが、ドローンはこの測量作業を劇的に効率化するものだと説明する。実際にドローンを含めたICTによる測量・施工管理において、従来の測量の方法では36日かかっていたものが、ドローンで点群データを得る測量作業に切り替えることで7日に短縮され、約80%の効率化を実現したという。

測量にドローンを用いることで、従来36日かかっていた作業を7日に短縮することができたという。

 ただし、こうした測量を行う測量業者を取り巻く状況も、建設業の傾向と同じように労働力不足であることを2つ目のテーマとして村上氏は説明。測量業者は小規模事業者がその93%を占め、資本金で見ても1,000万円以下という業者が74%であり、測量業の人手不足は建設業より深刻だと話す。そこでこうした測量業者を支援するコマツの取り組みを紹介。「コマツではドローンのレンタルと、ドローン測量講習会を実施。さらに測量アプリを開発して提供している」と村上氏。

コマツでは測量業者に対して、ドローンのレンタルと講習会の実施、測量アプリ「UNI SURVEY」の提供を行っている。

 先にあげた小規模な測量業者にとっては、測量のためにドローンを導入するといっても、そのコストが高いハードルとなることが多いという。そこで、コマツではオリックスレンテックと提携してドローンをレンタルという形で提供することにより、そのハードルを下げている。さらに、ドローンによる写真測量は、ドローンを飛行させる技術と測量技術が必要となるが、このi-Constructionに対応できる、写真測量の現場経験がある技術者が絶対的に不足しているという。これに対してコマツでは、doと組んでコマツの社内向けパイロット育成プログラムを測量業者向けの講習会として開催。さらに、こうしたドローンによる測量のためのアプリ「UNI SURVEY」を独自に開発して提供している。

高原氏と村上氏の講演の後には質疑応答の時間が設けられた。参加者から多くの質問が上がるなど、ドローンビジネスに対する関心の高さがうかがえた。