2020年4月6日、福島イノベーション・コースト構想推進機構 福島ロボットテストフィールド(以下RTF)では、「福島ロボットテストフィールドを活用した無人航空機利活用事業者認定とパブリックセーフティのあり方に関する調査事業」を、日本UAS産業振興協議会(以下JUIDA)に委託し、ドローンを用いたプラント点検に関する現場作業の要領をまとめた実務マニュアル、要点をまとめたチェックリストおよびプラント点検に従事する人材の育成に向けた教育カリキュラムを作成したことを発表した。
1. プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関する実務マニュアル
2. プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関するチェックリスト
3. ドローンを用いたプラント点検事業者教育カリキュラム
今回作成した上記の3つの資料は、プラントにおけるドローンの利活用を加速させることを狙いとして、総務省消防庁、厚生労働省および経済産業省が連名で発表したプラント点検分野におけるドローンの運用ガイドラインの内容に則し、プラントにおいてドローンを運用する際の実務に即した実践的な留意点を整理している。
これらの資料は、RTFのホームページのお知らせ(https://www.fipo.or.jp/robot/news/post-1286)および、JUIDAのホームページのお知らせ(https://uas-japan.org/news/ニュースリリース/4940/)にて公開している。
実務マニュアル/チェックリスト/教育カリキュラム作成の背景
石油化学プラント業界では、プラント設備の高経年化や昨今の少子高齢化を受けた若手の人手不足、ベテラン従業員の引退など、保安力の低下が課題となっている。これらの課題を解決するため、IoT技術など新しい技術の活用が注目されており、その中でも特にドローンは人手の代替として点検分野での活躍が期待されている。
総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省が連携してプラントの保安についての意見交換を実施する場である、石油コンビナート等災害防止3省連絡会議の中で、ドローンの活用が本格的に議論され、平成30年度には「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドライン」(以下、3省ガイドライン)と「プラントにおけるドローン活用事例集」(以下、3省活用事例集)が発表されている。このガイドラインによって、プラント事業者とドローン運用事業者は、ドローン導入における留意点について一定の共通理解を得られた一方で、飛行方法や撮影方法が多岐に渡るプラント点検においては、飛行方法ごとに具体的な要求事項が異なるため、ユースケースに即した、より実務的な留意事項を整理する必要があると考えた。
以上の背景から、RTFとJUIDAは「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関する実務マニュアル」(以下、実務マニュアル)「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関するチェックリスト」(以下、チェックリスト)、「ドローンを用いたプラント点検事業者教育カリキュラム」(以下、教育カリキュラム)を作成し、実務に即したユースケースごとの利用上の留意点を整理した。
なお、3省ガイドラインは2020年3月27日に改訂され、「ver2.0」として発表されており、当該改訂版における改訂点も考慮した上で作成されている。
実務マニュアル/チェックリスト/教育カリキュラムの詳細
1. 実務マニュアルについて
実務マニュアルは、ドローンによるプラント点検のユースケースを5つに分類した上で、それぞれのユースケースについて、3省ガイドラインと3省活用事例集と比較して、より実務に即した留意点を整理したものである。
2. チェックリストについて
チェックリストは、実務マニュアルの内容と3省ガイドラインの内容をチェックリストの形で漏れなく網羅できているかを確認するためのものである。ドローンを利用してプラントの点検を行う事業者においては、3省ガイドラインおよび3省活用事例集と併せてチェックリストを活用することで、ドローンの運用にあたって必要な留意事項を漏れなく確認することができる。
3. 教育カリキュラムについて
教育カリキュラムは、上記の各ユースケースにおける点検を安全に実施するために習得すべきスキルと知識を体系的にまとめたものである。同カリキュラムは座学による講義の内容だけでなく、福島県が所有し福島イノベーション・コースト構想推進機構が管理・運営する日本最大のドローン・ロボットの試験場であるRTFを利用した実技訓練方法を記載しているため、座学と実技ともにこれからプラントの点検を行いたい事業者の技能向上に資する内容になっている。
実務マニュアル/チェックリスト/教育カリキュラム作成にあたっての実証実験実施
実務マニュアル、チェックリストおよび教育カリキュラムを作成するにあたり、その実効性を検証するために実証実験を行った。実施概要は以下の通り。
項目 | 内容 |
---|---|
実施日時 | 2019年12月11日(水)11:00〜13:00 |
実施場所 | RTF 試験用プラントおよび試験用トンネル |
実施内容 | ・試験用プラントを利用した、外壁や狭小空間の損傷を点検する実験 ・試験用トンネルを利用した、目視外飛行でパイプやトンネルの損傷を点検する実験 |
また、同実験ではFlyalibity社が開発し、ブルーイノベーション社が提供する点検専用の球体ドローン「ELIOS2」を使用して、ひび割れに見立てたクラックスケールを目視で確認できるかが主な検証のポイントとなった。実験の結果、いずれも鮮明にクラックスケールをカメラで捉えることができ、同事業で作成した実務マニュアル、チェックリストを活用したプラント点検の有効性が示された。
<使用機体>
ELIOS2(ブルーイノベーション社提供):Flyability社製の球体ドローン。機体の周りが防護されているため、屋内においても障害物にぶつかりながら飛行させることが可能。また、LEDライトを搭載しているため屋内暗所での飛行にも適している。
<点検対象>
クラックスケール:コンクリートの構造物やコンクリート製品のひび割れ(クラック)の状態やクラック幅などを計測するため、縁に垂直に何段階かのクラック幅の直線が印刷された定規。同実験ではクラックスケールをドローンで目視できるかを検証した。
1.試験用プラントを利用した実験
a. 実験の内容
試験用プラントでは以下の2種類の実験を行った。
ケース1 | 試験用プラントの外壁に沿うように無人航空機を飛行させ、目視外飛行で外壁の損傷を点検するとともに、通常の無人航空機が飛行できないような狭小空間の損傷を点検する実験 |
ケース2 | 試験用プラント内部を飛行させ、目視外飛行でパイプや煙突の損傷を点検する実験 |
b. 当日の様子
2. 試験用トンネルを利用した実験
a. 実験の内容
試験用トンネルでは有毒ガスが発生しており、暗所かつ密閉空間であるトンネルを想定し、トンネル内の損傷を点検する実験を行った。
b. 当日の様子
今後の展望について
今回作成した教育カリキュラムは、5つのユースケースごとに必要なスキルや知識を体系的にまとめたものになった。今後は、同カリキュラムの項目を基にプラントの点検を行う事業者のための教育テキスト・育成コースの開発及びドローンを活用し、優れた保安力を持つプラント点検事業者を認定するためのスキームの検討を行っていく、としている。
関連リンク
・『プラント保安分野におけるドローンの安全な活用の促進に向け、「ガイドライン」と「活用事例集」を改訂しました』(総務省消防庁)
https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/880f9bbc8506b6cd7d538b92121824087ece139b.pdf
・『「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドライン」および「プラントにおけるドローン活用事例集」を改訂しました』(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10473.html
・『プラント保安分野におけるドローンの安全な活用の促進に向け、「ガイドライン」と「活用事例集」を改訂しました』(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200327009/20200327009.html