NEDOとスカパーJSATは、鳥取県警察本部主催で2019年5月29日から30日にかけて開催された「大山における夏山遭難救助訓練」において、コンパス登山届ネットワークを開発するインフカムとの協力のもと、高度約36,000kmの衛星を利用した衛星ドローンの実証実験を行ったことを発表した。

 一般に、衛星通信の通信装置は比較的大型であるため、マルチコプター型ドローンへの搭載は技術的に困難であったが、今回新たに開発した小型軽量な衛星通信装置をドローンに搭載し、山岳遭難者救助活動の実証実験に成功した。

 今回の成果を通じて、山岳遭難捜索活動はもとより、地上通信が届かない状況下でも警察や消防などの活動への貢献が可能であると示すことができた。また、衛星が唯一の通信手段となる山岳地域やその他の地域においては、従来の人的労力による地点捜索以上に、広範な面的捜索を可能とする衛星ドローン捜索によって、安全で迅速な遭難救助活動を行うことができ、また被害の最小化につなげられるという点での有用性も確認できた。

実証実験のイメージ図 (衛星ドローン関連部分)

背景

 将来、物流や郵便、警備、災害調査、点検、測量、農業などのさまざまな分野で多種多様なドローンが飛び交い、活用されることが予想されています。高密度でドローンが飛び交う世界を想定すると、衝突などの危険を確実に回避するためには、すべての機体の飛行計画と飛行状況を掌握して、ドローンの運航を統合的に管理する必要がある。さらに、ドローンを安全に運航するためには、気象情報や地形、建物の3次元地図情報をドローン事業者に提供する必要もある。

 このような背景のもと、NEDOは、物流、インフラ点検、災害対応などの分野で活用できる無人航空機の性能評価基準などの研究開発を進めるとともに、安全に社会実装するためのシステム構築および飛行試験などを実施するプロジェクト※1を進めている。具体的には、運航管理システムの開発、衝突回避技術の開発、国際標準化活動に取り組んでいる。

 従来のドローンは、LTEをはじめとする地上通信を用いて、機体の位置情報などの飛行データや撮影した画像の送信操縦者のコマンド信号の受信などの通信を行うのが一般的だが、山岳地域など地上通信が届かないエリアでは、衛星通信が必要となる。しかし、衛星通信のための通信装置は比較的大型であるため、これまでマルチコプター型ドローンに搭載するのは困難であった。今回、ドローン機体とのインタフェースを開発し、ドローンに搭載可能なサイズに小型軽量化を実現した。

開発した衛星通信装置
衛星通信装置の仕様比較

 今回の成果を通じて、衛星が唯一の通信手段となる場合の山岳地域やその他の地域において、遭難捜索活動はもとより、警察や消防などの活動への貢献が可能であると示すことができた。これにより、従来の人的労力による地点捜索以上に、広範な面的捜索を可能とする衛星ドローン捜索によって、安全で迅速な遭難救助活動を行うことができ、また被害の最小化につなげられることが期待される。

実証実験の内容

 実証実験では、「コンパス」を開発するインフカムの協力のもと、登山計画や登山者の足跡から衛星ドローンや小電力無線装置※3を活用した捜索を行い、遭難者の位置確認と同時に、捜索中の隊員や衛星ドローンの位置情報などを「コンパス」管理画面に表示し、捜索隊へ要救助者の位置を通知するなど、捜索状況が視覚的に確認できる実証を、過去の遭難事例を再現するシナリオに基づき実施した。
実証実験の結果、地上通信の届かない山岳エリアにおいて、ドローンと衛星のネットワークを通じて「コンパス」管理画面へ捜索隊の動向を示すことができ、隊員の動向を遠隔地の関係者とで視覚的に共有できた。これにより、火山噴火などの自然災害時における捜索活動の指揮系統のサポート機能としても想定でき、迅速な救助および捜索につなげられる可能性や地上通信の届かない状況での利用を想定した衛星ドローンの有用性を確認した。

小型衛星通信装置を搭載したドローン
「コンパス」管理画面

今後の展望

 NEDOとスカパーJSATは、同実験で得られたデータや知見を衛星ドローン機体や運航管理システムの設計へと反映するとともに、将来の遭難対策および災害対策のソリューションとして、自律・自動飛行を念頭にドローンをはじめとする無人航空機運用ノウハウの蓄積に努めていくなど、本プロジェクトを着実に進めていく、としている。

 これらの取り組みを通じて、通信インフラの整っていない地域に対する小型で安価なドローンの目視外飛行を可能とした運航管理システムの実現を目指していく、との展望を示した。

※1 プロジェクト
事業名:ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト
実施期間:2017年度~2021年度の5年間を予定
2019年度予算:36億円
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP2_100080.html

※2 「コンパス」登山届ネットワーク
インフカムが開発し、公益社団法人日本山岳ガイド協会と共に運用する、登山届を家族や友人、グループ、自治体、警察などとオンライン共有するシステムのこと。登山届を提出すると指定した同行者や緊急連絡者へメールが送られ、登山届が共有される。下山通知についても同様に共有が図られる仕組み。もし、下山予定時間を過ぎても下山通知が未提出の場合は、一定の時間後、緊急連絡者へ下山未確認のメールが送られるなど、山岳遭難の予防策の一つとして普及が進んでいる。

※3 小電力無線装置
出力が20mW以下の特定小電力無線装置とGPS、PCを組み合わせた装置のこと。