一般社団法人 日本産業用無人航空機工業会(JUAV)は2025年6月25日、東京都港区で「社会実装のさらなる拡大に向けて~欧米の動向も踏まえ~」をテーマに、産業用無人航空機(ドローン)の振興と利用拡大を目的とした研究会を開催した。

 本研究会には関係者約110人が参加。国内ドローンメーカーなど36社が会員となるJUAVによる本研究会は、行政や業界関係者が最新動向を共有し、課題や今後の展望を議論する重要な場となった。

開会挨拶:「社会実装こそが生産拡大の鍵」

写真:壇上で話をする阪口氏
一般社団法人 日本産業用無人航空機工業会 阪口晃敏会長。

 冒頭でJUAV会長の阪口晃敏氏は「ドローン生産の拡大には社会実装が重要です。今回の社会実装をテーマとした研究会が、参加者の何かしらの役に立てば喜ばしく思います」と述べ、研究会の意義を説明した。日本のドローン産業の競争力強化には、研究開発だけでなく、現場での利活用の普及促進が不可欠であるという問題意識を示した。

経済産業省講演:「空の産業革命に向けたロードマップと社会実装」

写真:壇上で話をする滝澤氏
経済産業省 次世代空モビリティ政策室長の滝澤慶典氏。

「次世代空モビリティの社会実装に向けて」と題し、経済産業省 次世代空モビリティ政策室長の滝澤慶典氏が講演を行った。

 滝澤氏は、ドローンが産業における省人化や災害対応(例として能登地震での活動)など、安全で持続可能な社会を支える重要な技術であると指摘。そのうえで経産省では、官民協議会を通じて議論を重ね「空の産業革命に向けたロードマップ」を策定し、安全利用のためのルール整備を進めてきたと説明した。

 このロードマップでは、2024年までに制度整備に一定の目処が立ったことを受け、2025年以降は社会実装の本格段階へ移行。滝澤氏は「環境整備や技術開発を進め、ドローンが実際に利用されるシーンを増やしていきたいと考えています」と展望を語った。

登録機数に占める国産比率の課題

 日本国内における無人航空機の登録機数は約42万台に上るが、2018~2023年に国内生産されたのは約5000台にとどまり、海外製が圧倒的多数を占める。

 この課題に対応するため、経産省は2025年5月にJUAVや国内ドローンメーカーをメンバーとする「無人機産業基盤強化検討会」を発足。毎月1回程度の議論を重ね、①注力すべき分野、②優先すべき部品開発、③国の支援のあり方などについて、夏の終わりごろまでに結論を得たい考えを示した。

国土交通省講演:「技能証明や型式認証の動向」

写真:壇上で話をする勝間氏
国土交通省 無人航空機安全課課長補佐の勝間裕章氏。

 続いて、国土交通省 無人航空機安全課課長補佐の勝間裕章氏が「無人航空機の制度運用等の状況と最近の動きについて」と題して登壇。勝間氏は次のような最新データを紹介した。

2024年度の運用許可・承認件数約8万件
2025年5月末時点での登録機数45万3241機
2025年5月末時点での一等無人航空機技能証明発行数約3100件
2025年5月末時点での二等無人航空機技能証明発行数約2万5000件

 いずれも順調な伸びを見せているとし、制度浸透を評価した。

型式認証制度の現状

 型式認証については次の状況を説明。

第1種型式認証申請7機種、承認はACSLの1機種
第2種型式認証申請10機種、うち7機種が承認

「DJI Mini 4 Pro」も第2種型式認証を取得しており、勝間氏は「技能証明と型式認証機の組み合わせという、想定していたドローン運用のあるべき姿に近づいています」と評価。また、レベル3.5運用の申請がすでに200件近くに達するなど、普及が進んでいる状況を報告した。

国交省の最新の取り組み

 勝間氏はさらに、国交省で取り組んでいる直近の動きとして次の点を挙げた。

  • 飛行の許可・承認手続きを最短1日化
  • 型式承認の促進
  • 災害対応での特例運用を拡大し通達を改正、事例集を公開
  • 多数機同時運航に対応するガイドラインを策定

内閣府講演:国家戦略特区によるレベル4運用の推進

 内閣府地方創生推進事務局(国家戦略特区担当)企画調整官の有田翔伍氏は「ドローン等に関する国家戦略特区等における取組について」と題し、リモート講演を行った。

 国家戦略特区は全国16地域で指定されており、2024年6月には長崎県と福島県が新たに「新技術実装連携“絆”特区」に指定。特区制度の規制改革により、従来は配送ルートを線形に特定して個別申請が必要だったレベル4(有人地帯での目視外飛行)が、「エリア単位」で包括的に申請できるようになった。

 有田氏は「長崎県では今年夏から秋にかけて、エリア単位のレベル4飛行での配送実験などを進め、社会実装を拡大していきたいと考えています」と意欲を語った。

特別講演:PwC杉原氏「欧米のSORA導入事例と日本の課題」

写真:壇上で話をする杉原氏
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 杉原潤一氏。

 特別講演では、PwCコンサルティング合同会社のシニアマネージャー、杉原潤一氏が「欧米の動向と日本の課題(多数機同時運航の実現に向けて)」をテーマに登壇。欧州で標準的になっているドローン運航リスク評価手法「SORA(Specific Operation Risk Assessment)」の最新動向を紹介した。

 SORAは地上リスク、空中リスクなどを定量的に評価し、欧州だけでなくオーストラリアや南米などでも採用が進んでいる。杉原氏は、目視外飛行や多数機同時運航への対応がSORAでも議論されている現状を説明し、アメリカでも同様の検討が進むと紹介。そのうえで「国際的な視点で日本でも定量的なリスク評価を導入しても良いのではないでしょうか」と提言した。

Terra Drone・塩澤氏:分野別市場動向

 研究会ではJUAV会員企業2社が、国内ドローンビジネスの現状と課題を共有した。

写真:壇上で話をする塩澤氏
Terra Drone株式会社 技術担当執行役員 塩澤駿一氏。

 Terra Drone技術担当執行役員の塩澤駿一氏は「Terra Droneからみるドローン社会実装のさらなる拡大に向けて」と題して講演。測量、農業、点検など分野別に市場動向を解説した。

測量分野必須インフラ化しているが機体更新が頻繁ではなく成長は鈍化
屋外点検分野ニーズは高いがコストも高く、技術解析手法が未成熟
農業分野機体販売数は横ばい、バッテリー制約で飛行時間が短く、エンジンハイブリッド化や多数機同時運航による省人化が成長の鍵
屋内点検分野非GPS環境での安定飛行ニーズが高まり実運用が進む

 さらに、中国や欧州で「ドローンボックス(街角に配置して防犯カメラのように使う仕組み)」が普及しつつある新しい活用法も紹介した。

エアロセンス・佐部氏:VTOL型ドローンの社会実装拡大に向けて

写真:壇上で話をする佐部氏
エアロセンス株式会社 代表取締役社長 佐部浩太郎氏。

 エアロセンス代表取締役の佐部浩太郎氏は「固定翼VTOLドローンの社会実装の拡大に向けて」をテーマに登壇。VTOL型ドローンは河川巡視、測量、鉄道の線路点検など「広域・長距離の運用」に適していると強調した。

 2023年に導入されたレベル3.5飛行の制度については「レベル3飛行の運用では立ち入り監視などのやり取りに3カ月以上かかっていましたが、レベル3.5では申請が簡略化され費用対効果が大きくなりました」と評価。

 一方で、VTOL型ドローンの普及拡大への課題として次の点を指摘した。

  • 操縦者がマルチコプターと固定翼双方の技能証明を取得する必要があり、対応スクールが少ない
  • 現行規定では道路横断時に一時停止が求められるが、高速移動するドローンを停止させる方がむしろ危険な場合があり、制度見直しが必要

社会実装拡大には法制度・技術開発・現場対応が鍵

 JUAVによる今回の研究会は、行政、コンサルティング、民間メーカーが一堂に会し、国内外の最新動向と課題を共有する貴重な機会となった。社会実装を進める上では、法制度の改善、技術開発、運用現場での課題解決が不可欠である。産業用無人航空機を「空のインフラ」として定着させるには、今後も産官学の連携による継続的な議論と実証が重要だ。