10周年の節目に披露された次世代VTOLドローン

 ドローン開発企業のエアロセンス(2015年8月設立)は、設立から10年の節目を迎えた。同社はこれまで、測量や災害支援の現場で産業用VTOL(垂直離着陸)機「エアロボウイング」を運用してきた実績がある。エアロボウイングはVTOL機として初の第二種型式認証を取得したドローンであり、数少ない国産のVTOL機でもある。

写真:「エアロボウイング」外観
エアロセンスが提供している「エアロボウイング」。警備監視や測量、災害現場での状況把握などで役立てられている。

 エアロセンスは、エアロボウイングに続き、次世代型のVTOL機を国内最大級のドローンの展示会「Japan Drone 2025」で公開。スケールアップした最新型のVTOL機「AS-H1」の詳細を紹介する。

写真:会場に展示された大型VTOL機「AS-H1」
初公開された大型VTOL機「AS-H1」。機体寸法は3.9×2.7×1.0m(全幅×全長×全高)。「H」には「High Speed(高速)」「Heavy Lift(高ペイロード)」といった意味が込められている。

 今回発表された「AS-H1」は、災害救援に特化した大型VTOL機であり、第三者上空での目視外飛行(レベル4飛行)に対応するため、第一種型式認証の取得を目指し、すでに申請中だ。

 2024年1月に発生した能登半島地震の被災地でエアロボウイングなどの運用を行い、その経験を生かした設計となっており、「災害時に一人でも多くの人を助けたい」という思いが込められているという。

物資輸送や監視を想定、翼幅3.9m・ペイロード13kgの大型設計

写真:機体中央上部の荷室に収まった段ボール箱
2Lのペットボトル6本が入った段ボール箱が、機体の中央に設けられた荷室にすっぽり収まる。

 AS-H1は、従来機エアロボウイングよりも大型のVTOL機となり、その翼幅は約1.8倍となる3.9m、最大13kgの物資運搬が可能になった。2Lのペットボトル6本に相当する物資を一度に輸送でき、食料や飲料水、医療物資などの緊急輸送に適している。加えて、カメラやLiDARなどの各種センサーの搭載も可能となっており、空からの被災地観測といった情報収集にも活用できる。

 一般的にドローンとして普及しているエアロボウイングを含むVTOL機は、長時間飛行という最大の特長を生かし、災害時の状況把握などで有効性が立証されている。しかし、ドローン物流や緊急物資輸送という観点では、エアロボウイングの最大積載可能重量は1kgとされ、緊急時に1回で大量の水などの重量物を届けるのは不可能であった。そこで、機体のスケールアップを図り、物資輸送から情報収集まで1機で完結するために開発されたのがAS-H1だと言える。

狭いスペースでも離着陸可能な着脱式の翼を採用

写真:取り外した「AS-H1」の翼を持つ佐部社長
シンプルなロック機構で翼を分割して持ち運びが可能。翼は軽量で組み立ても容易だ。

 重量を支える翼幅は当初5.3mの設計であったが、災害現場では広いスペースの確保が難しいことを理由に3.9mにコンパクト化している。それでも最大積載重量13kgは変えずに、10m四方の空間で離着陸が可能な設計に収めた。クランプ2か所を外すだけで翼は着脱でき、一般的なワンボックスカーでの輸送も可能にした。

第一種型式認証を前提とした安全設計を実現

写真:「AS-H1」機体後部
機体後部には推力を発生させるプロペラを2基装備。
写真:翼の下のローター部分
垂直離着陸に使用するローターは翼の下に設置。

 AS-H1の大きなトピックスとなるのが第一種型式認証の取得だ。2025年6月現在においては、これまで第一種型式認証を取得したドローンはACSLの「PF-2 CAT3」のみとなっている。いくつかすでに申請中のドローンは存在するが、AS-H1のような大型VTOL機は例に無い。

 第一種型式認証の取得は、機体の高い安全性が求められる。これに対応すべく、AS-H1は冗長設計も大幅に強化されている。垂直離着陸用ローターは8基、水平飛行用プロペラは2基を備え、いずれかが故障などで停止しても飛行を継続できる設計となっている。

 飛行制御を行うフライトコントローラーは、プライマリとセカンダリの2系統を搭載。さらに、機体前方には250m先の障害物を検知するレーダーも装備。緊急時には、自律的にホバリング状態に切り替える「緊急ホバリングモード」も搭載されている。

写真:手に持ったフライトコントローラー
AS-H1に採用したフライトコントローラー。NVIDIA Jetsonによるプラットフォームが採用され、各種コネクタの取付口も備える。

大容量バッテリーを採用、航続距離250kmでドローン物流も視野に

写真:機体中央の荷室の後ろにあるバッテリースペース
新開発のバッテリーは機体の荷室後部に搭載。荷室やバッテリーへアクセスが容易になるように、前後の翼の間にはスペースが取られている。

 AS-H1は、新開発の32400mAhバッテリー(15直3並列)を4本搭載し、最大航続距離はエアロボウイングの5倍となる250kmを実現。巡航速度はおよそ80km/hで、長距離の物資輸送や観測任務に対応する。専用の大電流充電器も同時に開発されている。

 機体の防塵・防水性能はIP45相当。さらに、風速20m/sの横風や向かい風でも安定した運用が可能であり、強風や豪雨といった過酷な天候下でも安全に飛行できるよう設計されている。とくに大雨による災害時は、発生直後に迅速な状況把握が必要となる。一般的なドローンでは、雨風が止むのを待たなければならないが、AS-H1であれば雨天の中でも迅速な状況把握が可能になる。

 AS-H1は、2.4GHz帯の直接通信とLTEを標準装備し、災害で通信インフラが損壊した場合に備えて衛星通信の導入も検証している。オペレーターは現地に常駐する必要がなく、遠隔拠点から複数の機体を同時に運用する体制構築を目指している。

レベル4飛行を見据えた今後のロードマップ

 今後の製品化に向け、最も気になるのが第一種型式認証取得までの計画だ。担当者は、「まずは人口が少ない場所での運航実績を積み上げ、型式認証の取得を目指します。そのうえでさらに飛行実績を増やし、適用できる範囲を段階的に拡大します」と今後の方針を説明。将来的には物資投下機構の追加や、測量機器の吊り下げなど多様なオプションの提供も検討しているという。

 2025年に入り、静岡県浜松市および埼玉県秩父市ではドローン航路が整備された。これによって、AS-H1の長距離航行性能を生かした災害時の広域支援が現実味を帯びてきている。

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