水中ドローンの進化が社会インフラを支える時代へ
近年、社会インフラの老朽化や自然災害への備えが強く求められる中で、ドローン技術の進化は目覚ましい発展を遂げている。その中でも、水中ドローンの活躍の場は急拡大しており、ダムや橋脚、港湾、洋上風力発電設備の点検といったインフラ分野はもちろん、漁業や養殖場の監視、さらには船舶の点検まで、幅広い用途での活用が進んでいる。
こうした水中ドローンの普及をけん引しているのが、高性能水中ドローンを取り扱うスペースワンである。同社がこのたび日本国内で初公開したのが、中国の大手水中ドローンメーカーCHASING社の新型機「CHASING X」だ。従来のラインナップを遥かに凌ぐ性能を備えたフラッグシップモデルとして、展示会では大きな注目を集めた。
圧倒的なパワーと制御力を誇る「CHASING X」
「CHASING X」は、これまでに発表されてきた「CHASING M2」や「M2 S」「M2 PRO」「M2 PRO MAX」といったシリーズの最上位モデルに位置付けられる機体である。M2シリーズの従来機から大型機へと進化し、高出力と高機動性を備え、より過酷な水中の環境下であっても運用を可能にしている。その大きさからも分かる通り、これまでのM2シリーズよりも産業向けの機体であり、従来運用が難しかったところでも点検や調査ができる機体として進化を遂げた。
最大の特徴は、8基のスラスターを搭載した「OctoDriveパワーシステム」である。水中ドローンは水流に対する耐流性が重要だ。運用する場所は川や海といった水の流れが強い場所が多く、機体が流されないために強力なパワーを発揮するスラスターのレイアウト、開発に注力してきており、新しいモデルが登場する度に改良されている。
CHASING Xは、力強い8基のスラスターを搭載し、安定した水中移動に加え、180度の自動反転機能といった従来の水中ドローンでは難しかった複雑な動きにも柔軟に対応することができる。橋脚の下や風力発電設備の海中構造など、強い水流が存在する環境でも、安定してその場にとどまることが可能となった。
また、180度の自動反転機能によって上下の概念を超えた姿勢制御により、オペレーターの操作負荷を軽減し、点検の精度とスピードを両立させている。なお、180度上下が反転した状態であっても操縦は反転することがなく、水中ドローンの上下の概念を無くしている。
撮影性能と視野拡張のための最新技術
CHASING Xは、撮影性能の面でも大幅な進化を遂げている。正面には4K解像度・30fpsのオートフォーカスカメラを搭載しており、水中でも鮮明かつ高精細な映像を取得することができる。さらに、機体の下部にはオプションで「インテリジェント・ビジョン・システム(IVS)」(別売り)を搭載可能。このシステムには、220度の超広角カメラが装備されており、真下から左右にかけて広範囲を一望できる構造となっている。
従来の水中ドローンでは、被写体に正対する必要があったが、IVSを使用することで周囲をパノラマ的に捉えることができ、機体の横からでも構造物全体を把握しながらの撮影が可能になった。また、OctoDriveとIVSを組み合わせることで、上部・下部双方の180度映像を連携させた360度撮影も実現され、正対が難しかった場所においても点検や調査の精度は飛躍的に向上している。
自動姿勢補正機能「Anchor X」でさらに広がる活用範囲
CHASING Xの性能をさらに強化するオプションが、自動姿勢補正機能「Anchor X」である。これはIVSとドップラー速度ログ(DVL)(別売り)を連携させたもので、水中において発した音波の反射を利用して自己位置を正確に把握し、水流で流された場合でも自動的にその位置を補正して元の位置に戻る機能を持つ。
たとえば、水流の強い橋脚下での点検作業において、川の流れに押し流されながら作業するのは大変難しいが、Anchor Xを活用することで、機体は自律的に位置を保ち続けることができる。これにより、長時間の定点観察や精密な撮影も可能となり、作業の安全性と効率が大幅に向上する。このほか、海流のある洋上風力設備の点検などでも有効だという。
最大潜行深度350m──プロの現場にも対応
CHASING Xは、水中での行動範囲という点でも進化を遂げている。従来の上位モデルであるM2 PRO MAXの最大潜行深度が200mであったのに対し、CHASING Xでは350mまでの潜行が可能となった。これにより、深海域での海底調査といった、より専門性の高いフィールドへの対応も視野に入る。
高い信頼性を誇る「DEEP TREKKER」の堅牢設計
スペースワンが取り扱う製品は、CHASING社の水中ドローンだけではない。カナダのメーカー「DEEP TREKKER(ディープトレッカー)」の水中ドローンシリーズも、その堅牢性と信頼性の高さから注目を集めている。
小型のPHOTON、中型のPIVOT、大型のREVOLUTIONという3機種は、いずれも軍事用途や原子力発電施設の点検などで実績を持ち、非常に厳しい環境下でも安定した稼働を可能としている。
壊れにくさはもちろん、精密に設計された内部構造によってメンテナンス性にも優れ、多くの政府機関や重要インフラ関連企業からの支持を得ている。昨今では、使用用途によっては中国製品に対するチャイナリスクを考慮する動きもあり、その点でDEEP TREKKER製品は安心材料として導入される傾向にある。
下水道点検に革新をもたらす「Pipe Crawler」
もう一つの注目製品が、DEEP TREKKER社が開発したクローラー型点検ロボット「Pipe Crawler(パイプクローラー)」である。この機体は、水中および陸上の両方で使用でき、主に配管や下水道内部の調査に用いられている。
パイプクローラーは従来のクローラーと異なり、内部にバッテリーを搭載しているため、外部電源からの給電が不要である。従来のクローラーは、大掛かりな電源装置とケーブルで接続し、常に給電しながら稼働するものであった。電源装置をワンボックスカーに積み込み、重装備で運用する必要があったが、パイプクローラーはバッテリーで駆動するため、電源装置を常に用意する必要がない。映像伝送は有線ケーブルで担う必要があるが、大掛かりな装置は不要となり、柔軟な運用が可能となっている。
また、カメラ部は上下にリフト調整が可能で、パイプ径に合わせて最適な高さを保つことで、より正確な中央視点からの撮影が可能だ。直径20cmの狭いパイプにも進入できる設計となっており、タイヤの素材やサイズも現場に応じて交換できるため、カメラを中央に位置する調整や滑りやすい環境下でのグリップ力確保などに対応することができる。
水中ドローンが切り開く次世代の点検・監視業務
スペースワンが提供する水中ドローンの最新ラインナップは、水中という過酷な環境下における業務の質を劇的に変えるポテンシャルを秘めている。CHASING Xが実現した推進力と撮影性能の進化は、これまで「難しい」「不可能」とされていた現場においても、水中ドローンの活用を現実的な選択肢へと変えつつある。
インフラ点検、海洋監視、配管調査など、幅広い分野で導入が進む水中ドローンは、今後さらに多くの産業を支える存在となるだろう。技術が進化するたびに、私たちの目に見えない水中の世界が、より鮮明に、より身近に、そしてより安全に把握できるようになる。その未来の一端を、スペースワンの水中ドローンが確実に切り拓いている。
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