IFS Connect Japan開催!航空・防衛産業のキープレイヤーが一堂に集結
スウェーデンに本社を置くエンタープライズ向けソフトウェアベンダーのIFSは、2025年6月4日、東京都目黒区にて、産業分野におけるAI活用をテーマとしたイベント「IFS Connect Japan 産業用AI:成果を導く原動力」を開催した。
同社は1983年の設立以来、製造業や航空・防衛分野における業務プロセスのデジタル変革(DX)を支援しており、特にエンタープライズアセット管理(EAM)やフィールドサービス管理(FSM)、プロジェクト管理分野においてグローバルな導入実績を持つ。
今回のイベントでは、航空宇宙・防衛業界に特化したセッションが設けられ、業界のキープレイヤーが集結。日本航空の整備会社であるJALエンジニアリングが同社のシステム導⼊を発表しており、AIやクラウドを用いた整備業務の効率化、ならびに先進空域モビリティ(空飛ぶクルマ)の動向などが詳しく紹介された。
300万点の部品と向き合う航空整備 属人化・非効率の壁
今回のイベントでは、航空・防衛産業に特化したセッション「AIで拓く、航空宇宙・防衛グローバルトレンドとソリューション」が実施され、国内の航空会社や航空機メーカー、防衛関連企業など、多くの業界関係者が参加した。セッションでは、AI技術が航空宇宙・防衛領域に与えるインパクトや、グローバル市場における最新動向、将来的な運用モデルに関する議論が展開された。
有人航空機は非常に複雑な構造を持ち、特に大型機の場合は300万点を超える部品で構成されている。心臓部とも言えるジェットエンジンだけでも10万~20万点の部品が用いられており、整備業務は極めて高い専門性と膨大な作業量を必要とする。
航空会社の整備業務では、消耗部品の修理・交換からオーバーホールまで膨大な作業を抱えている。従来は整備記録やマニュアル、部品在庫の確認、作業手順などを紙ベースで管理していた。しかし、こうした運用では作業者による属人性が排除できず、部品探索や手順確認にかかる「準備時間」が膨大になるという課題があり、近年はアーカイブ型のデータ管理に移行しているという。
AI導入で整備の準備作業を75%削減 IFS Cloudが可能にする効率化
成田空港などの現場で30年以上の航空整備経験を持つIFSジャパン シニアプリセールスコンサルタントの安藤泉氏は、「ライン整備の約7割は部品確認や作業手順の確認といった準備作業で占められている」と述べた。これまでは不具合を起こした部品をストックから探し、その機種に適合しているかを確認、さらに熟練の整備士に処置などを問い合わせるなどしてきたが、これらの業務をAIにより自動化することで、準備作業全体の75%削減が実現可能であり、結果として整備に要する時間も約半分に短縮できるという。
また、現場レベルでの課題や作業進捗、整備士のスキルマップなどを可視化する「POKA」や、大がかりな整備から運航中の整備までを管理する「ICAM」。さらには、ライフサイクル全体を見据えた資産管理を支援する「Copperleaf」なども紹介され、同社のソリューションによって整備業務がどのようにデジタルシフトしていくかが示された。
IFSの航空・防衛事業部プレジデント、スコット・J・ヘルマー氏は、ドローンや空飛ぶクルマ(eVTOL)を含む今後の民間航空における主要トレンドとして次の3点を挙げた。
- MRO(航空機整備)業務におけるAI活用の拡大
- 航空需要の回復に伴う市場構造の変化(新興航空機メーカーの台頭) これまでボーイングとエアバスの2社が航空機メーカーとしての寡占体制を築いてきたが、コロナ禍以降は航空需要が増加しており、新規の製造会社が参入するなどして市場構造に変化が発生する見込みがある。
- 空飛ぶクルマ(eVTOL)など先進空域モビリティ(AAM)の商業化進展
特に空飛ぶクルマの分野では、型式証明の取得や商業運航の開始などが進み、ドローンや空飛ぶクルマが新たな民間航空プレイヤーになる可能性が高いと述べた。また、防衛分野では地政学的リスク(例:ウクライナ戦争)の高まりがAI・サイバー技術の進化を加速させていると指摘した。これによって航空機製造や多様な製造業においてもAIの活用が増大していくという。
現場支援ツールで作業とスキルを一元管理 属人性を打破する鍵に
IFSジャパンの宇治原里志氏は、同社のソリューションを紹介した。具体的には以下のような製品を提供している。
- Copperleaf
航空機や重要資産のライフサイクル管理を最適化する資産管理システム - ICAM(IFS Cloud for Aviation Maintenance)
運航中の点検から重整備まで対応可能な統合整備プラットフォーム - POKA
整備士のスキルや作業状況を可視化し、属人化の排除と効率化を実現する現場支援ツール
これらの製品にはマイクロソフトのAI「Microsoft Copilot」が搭載されており、トラブル原因の提示、作業指示、業務伝達の効率化を図る。
IFSが提案するソリューション群は、航空機の整備業務を根本から変革し、作業の効率化、標準化、属人性の排除を実現する。JALエンジニアリングによる導入事例は、実用フェーズに入った産業用AIの力を象徴しており、今後の航空・防衛分野のDX推進における重要な指針となるだろう。