ドローンショーとビッグネームアーティストが豪華コラボ
“シーズン最強”と評される寒波が襲いかかった2025年2月8日夜。東京都渋谷区の夜空に色とりどりに光り輝くドローンが舞い上がり、渋谷を象徴するスクランブル交差点やビル群を描き出した。これは「DIG SHIBUYA DG DRONE SHOW」での一幕。渋谷区上空で初開催となったドローンショーの模様をレポートする。
2月8日~11日にかけて、渋谷区では渋谷公園通り周辺など区内各施設で、テクノロジーとアートをかけ合わせた最新カルチャーを体験できるイベント「DIG SHIBUYA 2025」を開催した。「DIG SHIBUYA DG DRONE SHOW」はオフィシャルパートナープログラムとして展開。ドローンショーの運営は日本最大手のレッドクリフが担当した。
特筆すべき点は日本国内で最大となる2200機を使用したことだ。2021年に東京で開催された世界的スポーツイベントの開会式で行われたドローンショーの機体数よりも多い。レッドクリフとしても2024年から2025年にかけて行われた「REDCLIFF COUNTDOWN DRONE SHOW 2025」で使用した2025機以上を使うことになり、日本におけるドローンショーの歴史にまた1つ、大きな足跡を残すことになる。
ドローンショーとライブパフォーマンスの融合もうたわれており、ミュージシャンの小室哲哉氏、音楽プロデューサーの日向大介氏、ボーカリストのキャリー鈴木氏ら豪華アーティスト陣による生演奏も目玉となった。
今回のイベントは観覧者が殺到することを避けるため事前に開催場所の予告がされなかったが、当日は代々木公園上空および一帯がイベント会場として使用された。すっかり日が暮れてから会場に入ると、ひし形のステージが目に入った。キーボードなどの楽器が設置されており、ライブパフォーマンスもここで行われるとわかる。
ショー開催前には本イベントに関わるメンバーが登壇。レッドクリフの佐々木孔明CEOは「2200機を使用する日本最大のドローンショーが渋谷という大都市でできることを非常に光栄に思っています」と期待と喜びを表した。また音楽を担当する小室氏と日向氏も「渋谷の空の上にドローンが飛ぶという間違いなく記念すべき日になり、ここからまた素晴らしい渋谷が始まるんだと思います」「空に自分の音楽を流せることはなかなかないので、すごく楽しみです」と、これから始まるショーに胸を躍らせていた。
ドローンで描かれるイメージについても参加企業から説明があり、レッドクリフとともに本イベントを共催するスタートアップ支援・デジタルガレージの林郁CEOは「デジタルクリエイターのJames Bigtwin氏による『DiGi8(デジハチ)』が出てくるなど、非常に渋谷的な演出が見どころです」、エグゼクティブショーディレクターを務める潤間大仁氏は「ドローンでいまできるすべての表現力を結集したような作品です。音楽とコラボレーションし、エンターテインメント性だけでなくアート性も取り入れた、新しいドローンショーです」と見どころを語った。なお、レッドクリフはデジタルガレージが行うスタートアップ育成プログラム「Open Network Lab」の修了企業である。
名曲「Get Wild」と共に渋谷の町が夜空に出現
18時30分ごろ、いよいよ開演。ステージ上にはボーカリストのキャリー鈴木氏と日向氏が立ち、大量のドローンのローターが回転する音をサンプリングしたようなテクノサウンドが流れ、ブルーのライトでステージが彩られた。やがて西の空からカラフルに光り輝くドローンが姿を見せ、ステージ奥の上空に到達し「DIG SHIBUYA DG DRONE SHOW」の文字を形作った。そしてSHIBUYAの文字はそのままに、渋谷駅前のスクランブル交差点や高層ビル群のイメージが登場。
キャリー鈴木氏によるボーカルやフルート、ギター、日向氏が奏でるキーボードの音色がステージを照らす淡いライティングと合わさり、幻想的な空間が生まれる中、夜空に登場したのは最初のアート「墨龍(ボクリュウ)」だ。日本画家・加山又造氏の作品をモデルとした黄色の大きな龍が、夜空を舞った。
龍が姿を消し、キャリー鈴木氏に代わって小室氏がステージに上がると、夜空には巨大なUFO、さらに未来からタイムトラベルしてやってきた “スーパーデジタルドッグ” 28代目忠犬ハチ公、通称「デジハチ」が2番目のアートとして登場。チャームポイントのサイバーパンク風サングラスには「渋谷」の文字が踊り、顔を左右に動かすパフォーマンスも。
デジハチが姿を消すのに合わせてステージに流れ始めたのは、小室氏が所属する音楽ユニット・TM NETWORKの名曲「Get Wild」だ。キャッチーなイントロが流れ始め、疾走感あふれるメロディに突入すると、再び姿を見せたデジハチが渋谷の高層ビル群を駆け抜ける! デジハチに代わって現れたベンチャー精神を体現するファーストペンギンは「渋谷から、未来を切り開け」というメッセージを掲げ、水の中へと飛び込んでいった。
ドローンショーはいよいよクライマックスへと突入。上空ではドローンが五大陸を形作り、それらは一つの大陸へと姿を変えた。オランダ・アムステルダムのアーティストであるVictoria Kovalenchikova氏のアート作品「Pangaea(パンゲア)」をイメージした描画だ。「Get Wild」のラストのサビと調和し、ショーの有終の美を飾った。
感動的な都心でのドローンショー開催と課題
さて、当日は前述した通り、具体的な開催場所は公表されておらず、観覧者も関係者による招待に限定されていた。観覧者は終始ショーを見届けたわけだが、歓声はあまり聞かれなかった。それは多くの人々が固唾をのんでドローンショーを見守り、ビッグネームのアーティストによる演奏に聞き入って、最先端アートを体感していたからと言える。ただ、その一方で、ドローンショーが開催される空域の高度があまり高くなく、場所によっては会場周辺の木々と干渉してしまい、描かれる内容がわかりづらかった側面もある。実際、筆者は観覧者席と隣り合っていた報道席で観覧したが、ファーストペンギンの動きが木の枝と干渉し、よく見えなかった。終演後、ドローンショーを見ていた人たちに話を聞いてみても「枝にドローンが重なって見えづらい場面があった」という声が聞かれた。
代々木公園全域はドローンの飛行を禁止するDID(人口集中地区)に指定されているだけでなく、東京国際空港(羽田空港)に離着陸する航空機の安全を確保するために設けられている円錐表面下となっている。そもそも代々木公園においては「ラジコンなどの使用(ドローン、ラジコンヘリを含む)」が禁止事項に含まれており、ドローンの飛行は相当厳しく制限されている。このような状況でのドローンショー開催に向けては複雑な調整があったと考えられるが、開演に先立つ挨拶で長谷部健渋谷区長は「様々なハードルがあったが、多くの人の協力で開催にこぎつけることができました」と述べるにとどめた。
当日は旅客機だけでなくヘリコプターが会場周辺の上空を飛行する姿が見られた。航空機が過密状態にある都心上空で、安全にドローンショーを開催できる高度を選定するのは非常に困難であると想像できる。今後の都心開催のショーは、見栄えと安全性の担保のバランスを探ることが課題になるだろう。
また、今回は2200機という日本史上最多のドローンがショーに投入されたが、機体の多さを活かした描画の迫力があまり感じられなかった点も指摘したい。墨龍やデジハチの描画では機体を目一杯密集させて描画の密度を上げたことで迫力が増した印象を受けたが、ファーストペンギンのシーンではペンギンと背景に多数のビル群というようにモチーフを増やしたことで、密度が上がらず迫力につながらなかったのだろう。とはいえ、2200機という機体の多さが、ひとつのモチーフの密度を上げるか、様々なモチーフが描かれるシーンを作るかという選択肢を与えたのは確かだ。機体を多数使う場合の描写の方向性に一石を投じることになったと言える。
もちろん、最先端のドローンショーに触れた人々の感動的な声を聞くこともできた。「意外な場所からドローンが出現して驚きがあった」「立体的に見られてすごい」「プロジェクションマッピングよりも色みがはっきり出て見ごたえがある」といったコメントが飛び出し、人々のドローンショーに対する関心の高まりを感じ取ることができたイベントとなった。